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はじまりはじまり。小さな冒険?
209、魔女。
しおりを挟むだって、魔導学園でも祝福の魔女って名でだけで避けられてたからね。
メアリローサでは祝福の聖女って呼ぶみたいだけど。
(祝福って良いものじゃないの?なんで祝福って名がついているのに嫌われるの?そう、ずっと疑問だったんだよね)
王専の研究室になってから、祝福の魔女についての詳細な情報を知った。
高レベルの光属性持ちの…メアリローサでも母様のように『聖女』と呼ばれる人たちを正確には『育みの聖女、癒しの聖女』と呼んで、シシリーのような高レベルの闇属性持ちの『聖女』は『祝福の魔女、天秤の聖女』と呼ぶのだそうだ。
知るきっかけとなったのは、王専として取引をする相手の1人が…王族なんだけど、その『天秤の聖女』と呼ばれる方だったからだ。
『星読み』としても優秀な方で、当時の王の妹にあたる方だった。
……今も、シシリーの時のような良き理解者が傍にいてくれたらと思うのだけど。
この動揺具合だと、理解してくれそうなのはルークくらいなのかなと、思う。
何気なく見上げたルークと目が合いうと、ルークは父様へと視線をやり、ふっ。と、笑う。
……呆れ笑い、ですよね?
父様、呆れられてるよ?
「教育、という意味では闇は私も教えられる。そもそもセシリア自身の契約精霊が闇だ。それに宰相夫妻は光と火が得意なんだろう?自前で教えれば…何ら問題無いのでは?」
「あぁ…そうか。そうだな。そうか、光もあるんだものな!そうだそうだ」
ルークの説明に一瞬ほっとした表情をするものの、やはり父様の独り言は止まらない。
「全然、落ち着いてないけど……?」
「おとしゃま……?」
「父様、レイが…落ちますよ?」
カイルザークの言葉に一瞬きょとんとし、慌ててレイを抱き直した。
まさかだけど…抱いてた事、忘れてたとか?
3歳児って結構重いんだけどな、しかも寝ちゃってると…脱力しちゃうから支え難くて、めちゃくちゃ重い。
「うおぉっ!……っと、大丈夫だ、まだ落ちてない」
「いや、落としちゃダメです、父様」
「って…レイは寝ちゃってたんだな……」
ふぅ。と息を吐きながら「大丈夫、大丈夫」と繰り返す父様の声にエルネストとレオンハルト王子の声が続いた。
……って、シュトレイユ王子を落としちゃダメですよ、父様。
「凄いな……あそこまで慌てふためく宰相は…初めて見たよ」
「そう、なの?」
感心するかのような面持ちでレオンハルト王子が父様を見てポツリと呟く。
……むしろ私は、レオンハルト王子の爆笑病が綺麗さっぱりと引いている事に感心してたのだけどね。
付き添うようにレオンハルト王子と一緒にいたエルネストは、後ろを気にするようにしながら、困ったような表情をしていた。
団員にカイルザークや私が言われた事、気にしてるのかな?
魔術師団員達の集まっているところから移動してきた2人はルークが私の測定結果を読み上げるのを待っていたらしく、興味津々に石板とルークを交互に見つめている。
「……さて、測定結果だが」
あたりがしんと静まる。
先ほどまで、カイルザークと私の測定中に呟かれた断片的な情報のみで、団員達の身勝手な談議が盛り上がっていたのだけど、今は風に遊ばれる葉の音すら、はっきり聞こえるほどに静まっている。
「まずは魔力値だが…双方共に6だった」
ルークのぼそぼそ喋りすら、周囲が静かすぎてよく通る声のようにはっきりと耳に拾える。
ちなみに魔力値6は、魔導学園時代であればそこそこ優秀な魔導師のレベルで、子供にしては高いな?といったところなんだけど、今はどうなんだろう?
……たしか最初の王子達を測定した時に、ルークが学生の魔力値の平均値が2とか言ってた気がするのよね。
シュトレイユ王子が5で、とても優秀だとも。
大人はどのレベルが平均値となっているんだろうか?
「……2人とも、凄いな」
「ああ、優秀だからこその、勉学仲間だ……王子は恵まれている」
レオンハルト王子の呟きに、ルークが反応した。
優秀だからこそのって…そうじゃなきゃどうなってたんだろうね?と聞こえてしまった。
まぁルークのことだからそんなつもりは、露程もないのだろうけど。
「……っ!」
「ハンス……言葉が」
足りません。
ルーク、全く持って言葉が足りてませんよ?
だって、レオンハルト王子、ものすごく申し訳なさそうな顔してる。
はあ。と、父様が小さな溜息を吐くと、眉間を抑えながら話を始めた。
「レオン王子、セシリア達やユージアが一緒に勉強や訓練を受けるのは、まぁ…多少は大人の事情もあるが、なぜだと思う?」
「優秀だからだ、と今…」
「ああ、それは優秀じゃないと、王子達のレベルについて行けないからだよ。それでも、優劣は実のところで言えば、そんなに重要ではないんだけど」
「え……」
そういえば王子達には、私たちはどう映ってたんだろうか?
……私としてはルークという宿題魔王の攻撃から、心が挫けないための戦友的なものかと思ってたわ。
一人じゃ立ち向かえる気がしないもの。
「……それぞれに得意とする属性もだが、種族まで見事にばらばらなのは気付いたかい?」
「はい……」
「互いの体質や得意不得意を、理解する良い機会だとは思わないかい?」
「理解…ですか」
父様はちらりとルークに視線をやると、小さく頷いた。
「例えばだが、エルやカイは獣人だ。……まぁちょっと珍しいタイプではあるが。この国の騎士団は実力主義だから、獣人ももちろんいる。そして、賃金も地位も頑張れば頑張った分だけ、平等に与えられるが、地方によっては獣人というだけで酷い差別を受ける。……差別をやめるようにと通達はしているのだけどね。それでも昔からの抵抗感というのはなかなか抜けないようでね」
父様は少しずり落ち始めてきたシュトレイユ王子を抱き直すと、溜息まじりに話を続ける。
「そもそも、地方の領主をしている貴族達の差別意識が強い。これではいくら上から通達しても領主止まりで、平民まで浸透しないんだよ。獣人やエルフは人族に比べて少数なのもあって、実際に見たこともないのに毛嫌いしている貴族も多いという有様でね」
見たこともない?そこまで少数民族じゃなかったはずだけど……あ、そうか、貴族は街を出歩くことが少ないから、そもそも会う機会がないのか。
獣人たちは、それぞれの里で暮らしているってのもあって、交流自体は少ないもんね。
「幸い、貴族の子息は魔力持ちが多いから、魔術学園在学中に差別をしないようにと教育はしているのだけどね」
「なかなか効果は出ないんだ」と首を横に振った。
深く根付いてしまった感情や思考を変えていくのは、すぐには難しいと思うけど、効果出て欲しいね。
かなり長期的な試みだ。
それでも学園で学んだ子たちが、いずれは差別をしないでお互いに助け合うことを実践できたなら、そんな環境を作ることができるなら、幸せな事だと思う。
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