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はじまりはじまり。小さな冒険?
238、厨房にて。
しおりを挟むそもそもここまで血眼になる勢いで狙われる理由が、どうしてもわからない。
セシリアは誘拐こそされたけど無事に帰還できたわけだし、自称聖女のフィアが暴走してたり、彼女の悪事部屋やら、ちょこっと知られたくない部分が暴かれてしまったりはあったけど、どの街にもある教会だもの『知らぬ存ぜぬのトカゲの尻尾切り』でしれっと乗り切ってしまえば良かっただけの事じゃないの?
正直なところ『どんな理由』で『誰が誰に』狙われているのかがはっきり分からないと……うん、何度考えてもやっぱり、理由くらいは知りたい。
考えなくちゃいけない事がいっぱいだ~とか思いながら、結局、何も考える余裕もなく今に至っちゃってるからなぁ。
とりあえずは、ユージアとの奴隷契約の解除と、犯人……首謀者の狙いと目的を知る。
これをまずは考えなくちゃいけないんだね。
「奴隷紋があれば、呼ばれるからね…痛いけど、場所もわかるし……離れたくないから、いいの…」
「んぐ…っ。ちょ…と、ユージア?」
ケーキ食べ終わったら、メモ帳に忘れずにメモしておかないとな……とか考えながらぼんやりとケーキを口に運ぼうとしていると、横から手が伸ばされて横抱きに、抱き寄せ…じゃなくて抱きかかえられる。
「1人は…ヤダ……」
ポツリと小さな呟きが頭上で聞こえる。
ああ、この抵抗できない体格差が恨めしい……ていうか、何?このどっきりシーンみたいな状況はっ!
ぎゅっと抱き寄せられて、頭を抱えるように手を回されて頭頂部に頬を押し当てられているようで呼気があたる。
「ユージアは、ひとりじゃ、ないでしょ?」
「1人だもん。みんな、僕が目を離したらすぐ居なくなっちゃうんだ」
「わたしは、いなくならないよ?」
居なくなりようが無いじゃない。一応、成人までは公爵家にいる。
……あ、『居なくなる』=『死ぬ』であれば保証はできないのか。
エルフの寿命は長いから、人の一生なんて瞬きのような時間で簡単に終わってしまう。
ルークと同じハイ・エルフだったら、もっと長い時間を生きるのだから、さらに多くの別れを経験していく事になる。
「うん、だから、大好きだから、いなくならないようにずっと傍にいる」
いやまて?
なんかすごい束縛っぽい発言が聞こえたような気がします……。
視界にかかる緑の髪を見ながら、どうしたものかと考える。
「セシリアだけだから……ちゃんと話を…教えてくれるから」
教えて、か。……そうだよね、ユージアは色々知らないんだものね。
今の言葉で、ルークじゃ無いんだから、いきなりのどっきりとかなんなの!?と、びびりまくってた気持ちが一気に鎮まる。
(耳年増っていうんだろうか、話術とか耳から入る情報だけで処世術を覚えてしまっただけで、心は本当に3歳程度のまま止まっちゃってるんだね)
セシリアと出会うまで、それこそ今までが10代の姿だったし。
解けかかっていた呪を直されて身体が縮んでしまっても、そのまま10代の姿を好んでとっているし…と見ていると、中身も年相応で『10代くらいの男の子』として扱いそうになってしまう。
けど、ルークの言う『精神は3歳児程度』って、道徳的や知識的な何かより何より、心がまるっきり3歳児なんだろうなと思ってしまった。
(そう考えてからのさっきの言動は、また意味が違ってくるよなぁ)
恋愛感情からの連れ添いたい、ではなくて、子が親に求める庇護……当たり前だよね。
3歳児であれば、本来なら当たり前に両親に庇護されているべき年齢なんだから。
……寂しさもあるのかな。
頭に頬をすり寄せられているのかな?頭に暖かくて柔らかいものが押し当てられる感覚がある。
いつの間にかに背後抱っこのような状態で抱きしめられていて、自分で状況がよくわからないんだけど。
まぁこれ、ルナの悪戯で私が10代くらいの姿になった時に、ユージアに散々やってたよね……やられる立場になると、これまたなんとも言えない気分になるわ……。ちょっと反省すべき?
……だからといって、自重する気はないけどね。
また3歳児のユージアをフィリー姉様のように愛でる機会ができれば、全力で愛でますっ!
「ずっと傍にいたい……」
振り絞るような切なげな声。ぎゅっと抱く腕の力が強くなって……。
ポロリと、フォークに乗せたままだったケーキのかけらが転がり落ちていった。
「……あ、ケーキ、おちた」
「えっ……」
「さいごのひとくちだったのに…」
なんとか拾おうと手を伸ばすと、ユージアも動いたものだから体勢が大きく傾いて、さらにコロコロと…勢いよく転がり落ちていった。
「うわっ!生クリームがっ!あ~汚しちゃった!……怒られちゃう、かな?」
ケーキのかけらは私のエプロンドレスの上を転がり、ユージアの黒のフロックコートの上を転がり、床へ。
私のはエプロン部分だから目立たないだろうけど、ユージアのは黒のスーツ生地だからね……思いっきりクリームがついて点々と白くなっちゃってる。
『何やってんの……ユージア、コートこっちにちょうだい。セシリアも……』
『あ、セシリア、おにぎりおかわりする?途中だったでしょ?ケーキの後じゃ、微妙かな?』
ルナとフレアが給仕を終えたのか、一斉に話しかけてこられてユージアの抱擁から解放された。
フレアは颯爽とユージアからコートを剥ぎ取ると、奥の部屋へ消えていった。
ここの更に奥って使用人用の部屋だって言ってたよね。
ルナは、目の前に食べかけだった筍の炊き込みご飯のおにぎりと、味噌汁を置いてくれた。
「ルナもフレアもありがとうね。……ごはん、じょうずだね。おいしい」
筍も味噌汁も大好き。特に長ネギを多めに入れたワカメとお豆腐の味噌汁が好き。
そんな好きなものが見事に揃ったご飯は幸せでした。
「水の乙女に言われてたもんなぁ『悪戯するなら良い意味で主人を驚かせなさい』って。上手くいったみたいだね?」
『うん!胃袋掴めた?』
感心するようにルナとフレアを交互に見つめながら、ユージアが優しく笑う。
すると顔を覗き込むように、ルナが身を乗り出してくる。
「つかまれた……よく、よういできたね」
『知識共有があるからね!……でも不思議な調理法だったから、上手くいくかわからなくて…僕も楽しかったよ!』
「そうなの?」
『こっちの筍は「アク抜き」なんてしないし、そのまま焼いて食べるだけなんだよ?』
ルナが面白そうに笑いながら話す。目がキラキラしていて、小さな子供が面白いモノを見つけたときのような表情に見えて可愛らしい。
アク抜きなしで食べられる……よほど新鮮なのかな?
採ったばかりとか……そういうレベルの鮮度じゃないと、筍はどんどんえぐみが酷くなっていってしまうんだ。
筍というか竹は群生するから、街中にはほとんどないだろうし、そうなると街まで運んでる間にもどんどんえぐくなっていってしまう。
(そう考えると、もともと薬草としても使われるくらいの竹が、街の外で更に魔素を含んで育って…前世と同じ植物であったとしても、少し性質が変化していたりする場合がある。その性質の変化が、えぐみを無くしたのかしら?)
あ、でも採ったばかりなら、前世の筍もえぐみは無いんだよね。
……スーパーに並んでる新鮮な筍は、もともとえぐみのあまり出ない品種の筍だったりするんだけど、それでも採ってからの時間経過で徐々にえぐくなっていくから……アク抜き推奨なんだけどね。
ルナ達は、しっかりとアク抜きをしてから、調理してくれてたみたい。えらい。
にこにこと上機嫌のまま食器の片付けへと戻って行ったルナ。
2人の働きに感心しつつ、食事を再開していると綺麗になったコートを持ったフレアが戻ってきた。
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