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はじまりはじまり。小さな冒険?
255、避難所へ急げ。
しおりを挟む王家…違うか、王族専用の避難所へは、本来どこからでも入室できる。
ただ『移動に際しては誰にも見られないように』との約束事があるから、基本的には予め決められた場所から、移動することにしている。
なぜなら、王城のどこにいても人の目はあるし、王家のプライベートの色が強い王宮にしても、信用ある使用人であれば立ち入ることができる。
警備の関係上、絶対に無人ということは、ありそうで無い。というのが実情である。
(簡単に言ってしまえば、代々伝わる『王族だけの秘密基地』という位置のものなので、外部にはっきりと認知されてしまったら避難所にはなり得ないからなぁ)
一先ずは合流予定となっている王城の外、城下町の一角にある雑貨屋へと移動するために、王宮内から一度『避難所』へと転移する。
そのために建物内よりは比較的、人の出入りが少ないであろう、最寄りの中庭を目指していた。
そこから再度、出口を『王城出口付近』として転移する。
っと、フードを目深にかぶっていることを確認してから…だ。
……私の外見は困ったことに、とても特徴的だから。
(金髪とか王家以外ほとんどいないからなぁ……一目で誰が敵か見分けがつかない以上、隠し通さなければ、護衛どころか私自身が危険に晒されてしまう)
フードの口元を強めにつかんで、王城の出口付近の影から姿を表す。
周囲は……阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
至る所に人が倒れていた。
「おいっ!お前、そのローブ!治療院の癒し手だろ?こいつを頼むっ!」
「は…はいっ!」
唐突に声をかけられて、思わず飛び上がる。
目の前には、数人の男性が倒れていた。
目を開けたまま、よだれを垂らし……呼吸もたまに止まる。
しかし、外傷のようなものは…無い。
意識はある。しかし反応は、しない。
「どうだ?」
「……治すべき傷はありません」
一縷の望みをかけた、と言うべき必死な形相で私を見つめる男性に、申し訳なく首を横に振ってみせる。
明らかに異常な状態となっているのに、身体の反応はどこを調べても正常なのだ。
治せる場所が、無い。
「くそっ!どうなってやがるっ」
「何があったのですか?」
仲間を助けようと必死なのか、治療手段である私を逃すまいとして、腕を強く掴んで離そうとしない。
すぐに死んでしまうような状況ではないが、せめて『なぜこうなってしまったのか?』その状況がわからないと、対処のしようも無い、ということをなんとか説明すると、やっと言葉が届いたのか一つ大きく息を吐くと、口を開いた。
「すまない。急に地面から黒い水の魔物のようなものが大量に吹き出してきたんだ。ここにいた奴らは俺を含めてみんなのまれたんだが……半分くらいの人間がこの有様だ」
「では…治療院へ運べますか?私だけではこの人数を対応しきれません。治療院であれば私よりも上級の癒し手がたくさんいるので、治せる者がいるかもしれません」
「わかった!ありがとよっ!」
どうにか納得してもらえたのか、倒れた仲間の腕を引き上げると、背負うようにして移動を始めていった。
あれは……門兵だ。
城下町と王城への出入りを監視する役目の者達。
(城内では反乱、王都の城下町では黒い魔物騒ぎか……フィリーとセグシュ達は無事だろうか?)
どうにも気持ちばかり焦ってしまいながらも、周囲の人たちには『治療院へ運んであげてください!』と声をかけながら、合流地点を目指していく。
何度か、先ほどと同じように救助を求める人たちに捕まりかけたけれど、そのどれもが同じ症状で、私には助けるどころか、回復の兆しすら与えることができなかった。
……悔しいけれど、私の力では無理なようだった。
「おい、そこっ!危なっ…!」
「えっ?…うわっ」
背後から声が聞こえて、思わず振り返ろうとした瞬間、真横から黒い霧のようなものに飲まれた。
杖を構えてガードの姿勢を…とりはしたが、そんなことはお構いなしに黒い霧は私を飲み込んでいく。
「大丈夫だ。ヴィーは優秀だな」
「!??」
黒い霧の中で、肩を強く掴まれたあと、声が聞こえた。
私を『ヴィー』だなんて呼ぶのは……。
「父さん……?」
「ああ、いくつか予定の変更があってね。合流できないかと探していたところだったんだ。会えてよかった…こっちだ」
肩を掴まれたまま、霧に流されるように、ともに通路を駆け抜けて建物の影へと移動する。
その頃には、目も慣れてきて……黒い霧だと思っていたこの現象が、霧ではなく小さな生き物達の集まりであることがわかった。
たくさんの黒く透けた小さな妖精達。
「これは……セシリアの精霊の眷族だ。あの子はまだ精霊の制御ができていないようでね。暴走してしまったんだ。ただ、私たちには害は無い。教会関係者のみがターゲットとなっている」
「セシリア…あの子は無事ですか?」
精霊の暴走。私が知っている限りでは精霊使いが正気を保てなくなってしまった時に、精霊も釣られて正気を失う。
つまり、セシリアも何らかの辛い状況になっているのではないかと心配する。
「無事だったよ。疲れて寝てしまっていたけどね」
父さんの顔に浮かぶ呆れ笑いを見て、ほっとする。
なんて事はない、セシリア自身が精霊の実力に見合う、同等の魔力を持ち合わせていない。と、いうことからの暴走のようだった。
これはどうしようもないし、たまにいるんだ。
本来契約できないような、自分よりもずっと格の高いモノと契約を結べてしまう者が。
その場合、精霊を制御しきれずに暴走されてしまうことが頻繁にある。
まぁ、暴走と言っても、誰かを傷つけることだけが暴走ではないから、それを問題として精霊と精霊使いが双方の縁を切りたくなるほどの、険悪な関係になるような事は滅多にない。
精霊とは妖精ほどではないが無邪気な存在だから……子供のように自分の考えや興味を主体に行動を起こしてしまうことがままある。
そんな時に、精霊の親代わりとして、精霊使いが制止出来るか否か。
これが暴走しているか?そうではないのか?の違いだった。
子供がイタズラしにいくのが見えて『それはダメよ!』と怒る。
さて、その声が精霊へと届くかどうか。そして聞いてくれるかどうか。
精霊と精霊使い双方の関係上、それが重要かと言えば、そうでもない場合が多い。
『お互いの力量の上下より、契約後もどれだけ仲良く絆が育めるか?そちらの方が大事なんだ』と、昔、治療院を訪れていた精霊使いのエルフが話していたのを思い出していた。
『契約があるとは言え、大事な相棒で一番信頼し合える、家族同然の大切な仲間だから。何があったって、一緒に育っていけばいいんだよ』
怪我の治療の様子を心配そうに覗き込んでいる精霊に、愛おしそうな視線を送ると、その頭を優しく撫でながら、ふわりと柔らかな笑みを浮かべる。
同性だとわかっていても、その仕草に思わず見惚れてしまうほどの美貌のエルフだった。
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