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はじまりはじまり。小さな冒険?
258、火花と奇行と。
しおりを挟む(何をするにも、本当に目立つなぁ…父さんは)
地を蹴って勢いよく上空へと飛び上がって行った、魔術師団の赤いマント、そして時折チラつくように見える短髪の赤髪が青空に映える。
建物の屋根の上に着地すると、今度は地上へ降り立つために風を操る。
『いたぞ!……あんなところにっ』
『着地点へ急げっ!』
『こっちだ!』
私と合流する直前までも、竜騎士と鬼ごっこをしていたらしく、完全に竜騎士の動きを把握していての先ほどの台詞だったようだ。
『竜騎士団は速いだけあって、動きは良いが視野がすこぶる狭くてね……鼻も悪いし。真正面に立たない限りは、バレないから』
そんなこと、実体験で確認しなくなって良いのに。
騎士団の魔術部門の団長なんだから。
屋根の上から別の大通りへ向かって飛び降りる。
その度にふわりふわりと火の粉が花びらのように、舞い散る。
先ほど、別れる前も父さんはチリチリと爆ぜたような火花を孕みながら、巻き上がる風の中で笑っていた。
流石に、そんな派手な演出をしたら見つかると思うよ?と眉を潜めてしまうのだが、こちらの心配など全く気にする風もなく、魔法を強めて。
徐々に強くなっていく風の中心で、マントや真紅の鮮やかな髪を、自ら起こした風に激しく遊ばれながら、その笑みは不敵なものに変わっていく。
「陽動…というか囮役なのに、誰も気づいてくれないんだよね」
そう笑いながら、風と火の混合魔法で、高く跳躍する。
徐々に小さく、見えなくなっていく火花の輝きと、その後ろ姿を見送りながら、民家の土壁に手を付くと『おまじない』を口にする。
すると触っていたはずの土壁の感触が消え、壁に透過するかのように奥に進めるようになる。
……この先が、セシリア達のいる『王家の避難所』となる。
土壁を透過した先には、煉瓦張りの廊下があり、少し進むと城下町にはそぐわない形状の豪奢な扉が現れるはずだ。
『おまじない』を口にすると、王家の血筋の者はこのレンガの廊下へ、王都の周辺くらいであれば、どこからでも移動できる。
そして、そのまま廊下を引き返せば、王都の城下町や王城の一定の場所へと瞬時に移動ができる。
移動手段としても便利な代物である。
(……あくまでも緊急時のみの利用、という約束だけどね)
さて、魔石ランプの揺れる明かりを頼りに、ゆっくりと奥へ進みつつ、頭の中では先ほど父さんから聞いた話を何度も反芻する。
どうにか情報を整理していく。
私にセシリアと同年代の弟が二人も増えたこと。
さらに、ハンス先生のご子息も同行しているということ。
そうそう、あの白い獣はゼンナーシュタットという名で、セシリアが名付け親の生まれたばかりの幼生なのだということだった。
生まれたばかり……ということは、赤ん坊?しっかり喋っていたが。
他種族の成長スピードの不思議、といったところか?
そして……ハンス先生の奇行…か。
言葉としてはまとめることができたような気もするけど、そのどれもが、どうにも理解できないままに、ドアの前へと到着してしまった。
まぁ、なるようになれ!だ。
******
「ねぇ……ハンス先生って…」
「力持ちだね」
「兄様っ!そうじゃなくて!」
片腕にセシリアを抱き、もう片腕でユージアを担ぎ上げ……そのユージアにじゃれついていた幼児…カイルザークごと、キッチンスペースの奥にある個室群へと運び去っていくのを呆然と見守る。
「……雰囲気変わった?わよね?」
「いや……あれで平常運行らしいよ?父さんが言うには、セシリアの前でのみ、奇行に走るそうだ」
「奇行って…でも確かに奇行よね。有り得ないわ……さっきとか、思いっきりセシリアを可愛がってたし!」
「想像つかないよな……」
先ほどの行動もそうだが、この『避難所』で合流してからのハンス先生は、まるで別人のようによく笑う。
喋り方までもが別人だ。
「ていうか、顔!顔!もともと綺麗な人だけど、あんな風に笑うとか…詐欺だわ」
「……まぁ、ね。同性でもびっくりするわ」
無表情ですら周囲が見惚れるほどの美貌なのだ、そこに柔らかな表情や優しげな笑顔が浮かんでいたら……二度見というレベルでは済まない。
同性だと頭では分かっていても、思わず見惚れてしまうレベルだ。
「あら兄様……?もしかして義理姉様とうまくいってないの?」
両手を頬に添えてうっとりと話していたフィリーが、ハッとした顔で私を見ている。
「は?……な、なんでそうなるんだよっ!?」
「まぁそれはどうでも良いけど」
「いいのかよ……なら、聞かないでくれ」
急に興味を無くしたかのようにそっぽを向かれ、なぜか意味もなくぐったりする。
この騒がしいメンバーで、この後『監獄』へ行くと思うと、どうにも不安しか浮かんでこなくて、思わずため息がこぼれる。
「えっ?あれ?…本当にうまくいってないの?!」
「うまく…いってるの…かな?」
「あーもう、そう言う惚気は、本当にどうでも良いからっ!」
あまりにもしつこいので、フィリーの方こそどうなんだよと聞こうと構えると、服の裾を引っ張られる感覚があり、振り向くと、エルネストが私を見上げていた。
「ん?エル、どうした?」
「あの…っ。奥の部屋から、ユージアの悲鳴が聞こえるんだけど……」
その場の全員が、無言で個室の並ぶ廊下へと視線を向けた。
悲鳴…は、私には聞こえなかったけど、獣人であるエルが言ってるんだ、実際に聞こえてるんだろう。
「何してるのか、怖くて見には……まぁ。部屋に戻ろうか。レイも心配だし」
行けない。というか行きたくない。
まぁ単純に、ユージアのケガの痕の確認がしたいだけなんじゃないかと思ってるから、特に心配はしてなかったんだけど。
他にも子供達…セシリアやカイルザークを連れて行ってるのだから、子供の前で早々おかしな事はしないだろうと考えておくことにした。
「はい…」
それでもエルネストは心配そうに、廊下の奥をちらちらと見つめながら私を見上げていたので、手を繋ぎ一緒に食堂を後にした。
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