私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

270、ボスの登場です。

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ルナを取り囲んでいた中央のゾンビたちが沈み込むと、その上に折り重なるように、後続のゾンビたちが我先にとルナの側へと集まっていく。


「ねぇ…あれってさ、先に沈み込んだ子を踏んでるよね…?」

「……どんな形であれ、返却がされれば良いって言ってたでしょ」

「それはそうだけど…」

「でも…そろそろ辛そうだ。外した瘴気がずいぶん溜まってきてる」


カイルザークの言葉の通り、ルナの周囲に黒い霧のようなものが渦巻き始めている。
ルナが使うのと同じ漆黒なのに、色味もほとんど変わらないのに……とても気味が悪い霧だ。
……そもそも同じ色味なので、知らない人が見れば、その黒い霧すらもルナの起こしている現象に見えてしまうだろう。

闇と邪は違うのに……。

現に、ルナを包み込もうとしている、あの気味の悪い霧がどんどん濃くなるにつれて、ルナの姿勢が徐々に苦しそうに、自分を守るためか少しずつ前へと屈み込んでいく。


「…ルナっ…!」


どうにか助けたくてフレアを必死に呼ぶのだけど、応答は…無い。
同じく、ルナにも届いていない。

契約でつながっているはずの精霊ルナとのラインが閉じられているのだと理解した。
……瘴気に飲まれたときに、ルナとのラインを通じて私にまで瘴気が流れ込むのを防ぐためだろう。


(その配慮ができるまで成長してるなら、自分が消滅しない手段もちゃんと考えておきなさいっ!)


このままではルナが変質してしまう。

……精霊は鍾乳石のようなものだ。
長い年月をかけて自分という魔力の宝石を作り上げていく。
一点の曇りなく、純度が高い宝石ほど美しいのは、よく聞く話だけど、精霊の核も同じだ。
精霊が最初に惚れ込んだもの以外の要因が彼らの核に無理やり入り込むと、歪んだり最悪、欠けてしまう。

邪悪な精霊っているでしょう?
あれこそ瘴気にのまれて魔物化してしまった精霊の成れの果てだ。
瘴気によって魔物化してしまうのは、動物だけでは無いんだよ。


(自分の属性ちからを瘴気と混同されて悲しそうにしていたルナを、瘴気にのませるつもりは、無い)

「ルナぁあああっ!!」

「セシリア、危なっ…あっ……」


飾り彫りの柵は、本来の柵としての機能を発揮できるような高さはなかったので、簡単に乗り越えられた。
だって、全く声が届かないんだもの。しょうがないじゃない?と思ったのだけど。
柵を乗り越えて飛距離を稼ぐ手前で、カイルザークに裾を引っ張られて、躓く。
その勢いのままに、カイを巻き込んで落下を始めてしまった。


「ちょえええええっ…カイっ!?」

「…口閉じて。ルナ!受け止め頼むっ!」

『……っ?!…はぁ?』


瘴気のどす黒い霧に埋れて、ほぼ姿が見えなくなっていたルナが見えてくる。
カイルザークの叫びに呼応して上げた顔は苦痛に歪んでいたが、直後、素っ頓狂な叫びとともに大きく目を開くと、絶賛落下中の私達の元へ、一気に跳躍してきた。
そして、私達を掴むと、さらに上へと跳躍する。


「うはっ…ぎゃああああっ……はぐっ」

「はーい、セシリア、口閉じて」


落下にかかった変なGで内臓が浮かび上がるような感触に悲鳴。
そして今度はルナにつかまれての急上昇による、さらに変なGでの内臓への負荷で悲鳴…としてたら、カイルザークに強制的に口を塞がれる。


『はぁ…落下怖いくせに、何やってんの……』


ぽいっと床に下ろされると…そこはさっきいたバルコニーのような飾り彫の場所だった。
少し息が上がり気味…どころか、かなりぐったりした様子のルナが腹立たしげに、こちらを見ている。


「キミが、汚染されるのを心配して…セシリアが助けに飛び込んだんだよ。文句言う前に、自分の主人マスターくらいは不安にさせないような努力なり、立ち回りができないものかね」


ムッとした声でカイルザークに指摘されると、ルナは視線を少し伏せ目がちにすると、ポツリポツリと言い訳をするかのように説明を始めた。


『あ……なるほど、ごめん。えっと…さっきは眷属から魔力を分けてもらいながら、瘴気との分離を行っていたのだけれど、思いの外、瘴気が多くて……ちょっと押され気味だったけど…その…』

「無事で…よかったぁ……」


肩で息でもするかのようにぐったりしているルナにしがみついて、怪我がないか確認する。
多少服がぼろっとしてしまったくらいで、目立った傷はなかった。
これなら、汚染の心配はない。


「いやぁ、無事でも……無さそうだけどね」


階下を指差しながら、カイルザークが遠い目をしている。


『そりゃ、瘴気濃縮しちゃったからなぁ』


3人でそーっと柵に顔を近づけて、階下の様子を覗き見ると、半分以下に減ったゾンビ達を包み込むようにドス黒い瘴気が渦巻き始めていた。


「あー…ちょっとあれ、ヤバそう。羽化する前に撤退しよう」

「羽化って?」

「文字通り、羽化。濃い瘴気に当たってしまったから、羽くらい簡単に生やせる高ランクのやつになって飛んでくるよ?ほらっ!気づかれる前に早くっ…」


早く転移させて。そう言いたいのはわかる。
私もさっさと転移したい。……けど、腕輪は全く反応しない。
しないどころか、小さなマップが開かれ、出口までの案内がされた。

恐怖で、焦りの中で…必死に出口を探している中でのこの施設のシステム対応に、一瞬、理解が追いつかずに固まっていると、ルナが怪訝な顔で私を覗き込んできた。


『セシリア……?』

「いや、これ、ここから直で転移できない。正規の出口から出てけって…」

「あああああああっ!『監獄』だからかっ!脱獄を警戒しての出入り口の統一か……」


半分悲鳴になりかけているカイルザークの言葉に、納得する。
まぁ確かにそうだよね。
どこからでも出入り自由だったら、防犯の手がいくつあっても足りない。


『ねぇ、出口ってこの部屋の外だよね?』

「うん」

「この部屋の出口ってさ……あの瘴気の奥だよね…」

「うん……」


状況を改めて再確認するともう、頭を抱えるしかない。
脱出経路を考える以前に、その脱出する出口の前に、あの瘴気の霧の塊が鎮座しているからだ。

その間も、どす黒い濃い瘴気の霧は、階下に残されたゾンビ達を1体1体、飲み込むと、粘土でもこねるかのように1つの小さな塊へと、まとまっていく。


『しっ……羽化した』


ルナの声に、思わず階下を覗き込むと……黒い瘴気の繭から、まさに何かが羽化しようとしていた。


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