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はじまりはじまり。小さな冒険?
271、クリア…なるか。
しおりを挟む繭玉のようになっている瘴気の黒い霧を、薙ぎ払い、切り裂くようにして赤黒い硬そうな皮膚に大きな爪を持った太い脚が出てきた。
脚と共に、裂けた繭玉から周囲へと赤黒い液体が、じわりじわりと広がっていく。
「高ランクへの変異…初めて見たわ」
「そこ、感心してる場合じゃないからね。……僕も初めてだけどさ」
カイルザークの言葉にふと、違和感を感じた。
そうだ、感心してしまっている。
『これだから学者肌の人間は……』そう、呆れられてしまうだけの反応かもしれないが、それは少なくとも、自分の身の安全が保障されている状態で出てくる言葉であって、今のような極限の状態で出てくるべき言葉では、ない。
しかも、本当なら恐ろしくて恐ろしくて堪らないはずなのに、普通に動いている。
恐怖からの震えのようなものも、特に無い。
手足は気持ち冷たく…まぁ、冷えているかな?といった程度。
(……これは本当にヤバイかもしれない)
いつもなら、精神は大丈夫でも、本来の…3歳児のセシリアならどう反応するだろうか?
今までだって、それが原因で感情の波を制御しきれずに、大泣きしたりが何度もあったはずだ。
それが無いということは……恐怖なんて、とっくの昔に通り越して、死の危険を本能的に察知してしまっている、と言うことだ。
つまり、泣いて親に知らせて保護を求めれば、助かる。と、言う状況はとうの昔に終わってしまった。
自力で切り抜けないと、絶望的な結果しかない状況なのだ、と。
それはとてもよろしくない状況だった。
自分を生かすための極度の興奮状態。
生き延びるために、大きな怪我や痛みすら気づかないでいられるほどの興奮状態だ、
正常な判断が、出来なくなっているかもしれない。
そのせいで、誰かを犠牲にすることがあってはならない
「ねぇ、羽化が完全に完了する前に、あの瘴気の塊をすり抜けちゃうってのはダメなのかな?」
確かに恐ろしいし、とんでもないものが出てこようとしているけど、今はまだ出てきていない。
いわば、卵から孵ろうとしているヒヨコが、殻を内側からうまく割ることができずに、もがいているような状態なのだ。
完全に出てきても周囲の状況の理解や、新しく得た身体の取扱説明書的な機能確認等ができないと、きっと動けないのでは?
その隙に、あの繭玉をすり抜けて出口を目指すというのはどうだろうか?と考えてみた。
『……あの瘴気は貪欲だからなぁ。すり抜けるついでに食われるから、通り抜けはできないと思うよ』
「つまり、そもそも出口に近づけないってことだよね?」
カイルザークが確認をするように再度聞き直すと、そうだ。と、ルナがはっきりと頷く。
食われるとはつまり、さっきのゾンビ達のように取り込まれていってしまう、と言う事のようだった。
それは困る。
ちなみにカイルザークやルナの足の速さではどうか?と、聞いてみても、答えは変わらなかった。
他には、他にはと、案が浮かんでは消えてゆく。
それはもちろん、私だけの意見ではなく、それぞれに考えがあったのだけれど、どう行動しようにも、最終的にはあの繭玉の奥にあるドアを通らなければいけないとなると、繭玉に近づくことができない時点で、お手上げだった。
「ねぇ……ドラゴンの原材料ってゾンビ…人肉で作れちゃうんだね」
「龍やドラゴンは生物なので、合成では作れません!」
『いや……でもドラゴンっぽい奴が出てきたよ?』
完全に案も行き詰まって、それでも、あとどれくらい考えていられる時間があるのだろうかと、階下を盗み見て呆然としてしまった。
考える時間は残されていない。
そう理解すると同時に、瘴気で出来た巨大な繭玉を破き出てきたものを見て、唖然とする。
カイルザークには否定されてしまったけど、ドラゴンがいた。
『竜』と表記されるタイプの影絵のように漆黒の鱗で全身を固めた竜だ。
しかも、かなり大きい。
「ドラゴン……では、ないはずなんだけど、アレは…アレでは瘴気が消えても通れる気がしないな」
『あのサイズだと、退治はもちろん、浄化も難しそうだ』
うん、難しいのはわかってたけど、やっぱり言葉として聞いてしまうと、
一気に現実味を帯びてしまって、怖い。
階下にいる羽化したばかりの漆黒のドラゴン…本来であれば神々しくも見えるはずなのに、ただただ禍々しい。
生まれたてのウォーミングアップなのか、ストレッチでもするかのように、羽を広げたり閉じたり、不思議な方向へ伸ばしてみたりしていた。
そして、バシッと音がするほどに、両の羽を広げると首を上げて……。
「あ、目が合った…」
そう感じた瞬間、竜はこちらに目掛けて、跳躍した。
直後、強い振動が起こった。
これこそ、私たちがいるバルコニーのような飾り彫から、転がり落とされてしまうのでは?と思うほどに激しい……。
「ああ、終わったと思ったど。まだ、ほんの少しだけ猶予がありそうだ」
「どうして…?」
乾いた笑いのような、それでいてほっとした笑いのような、なんとも言えない表情でカイルザークは階下を覗き込む。
私たちのことは見つかっていると思う。
もう、その恐怖で、階下を覗き込むことはできなくなっている私に、ルナまで面白そうに笑っている。
『いやっ……アイツ、羽があるのに、まだ飛べないみたいなんだよ』
「まぁ、いずれは飛べるようになってしまうんだろうけど…ね」
いずれ。と言う言葉にぞくりとするが、そのカイルザークのさらに後ろ、バルコニーのような柵の間から、見えてはいけないものが見えてしまい、悲鳴を上げかける。
それと同時にルナが私の足もとを、目を擦りながら必死に見ようとしていた。
『ねぇ…セシリアの足元、変だ。なんか歪んで見える』
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