私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
271 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

271、クリア…なるか。

しおりを挟む



繭玉のようになっている瘴気の黒い霧を、薙ぎ払い、切り裂くようにして赤黒い硬そうな皮膚に大きな爪を持った太い脚が出てきた。
脚と共に、裂けた繭玉から周囲へと赤黒い液体が、じわりじわりと広がっていく。


「高ランクへの変異…初めて見たわ」

「そこ、感心してる場合じゃないからね。……僕も初めてだけどさ」


カイルザークの言葉にふと、違和感を感じた。
そうだ、感心してしまっている。

『これだから学者肌の人間は……』そう、呆れられてしまうだけの反応かもしれないが、それは少なくとも、自分の身の安全が保障されている状態で出てくる言葉であって、今のような極限の状態で出てくるべき言葉では、ない。

しかも、本当なら恐ろしくて恐ろしくて堪らないはずなのに、普通に動いている。

恐怖からの震えのようなものも、特に無い。
手足は気持ち冷たく…まぁ、冷えているかな?といった程度。


(……これは本当にヤバイかもしれない)


いつもなら、精神わたしは大丈夫でも、本来の…3歳児のセシリアわたしならどう反応するだろうか?

今までだって、それが原因で感情の波を制御しきれずに、大泣きしたりが何度もあったはずだ。
それが無いということは……恐怖なんて、とっくの昔に通り越して、死の危険を本能的に察知してしまっている、と言うことだ。

つまり、泣いて親に知らせて保護を求めれば、助かる。と、言う状況はとうの昔に終わってしまった。
自力で切り抜けないと、絶望的な結果しかない状況なのだ、と。

それはとてもよろしくない状況だった。
自分を生かすための極度の興奮状態。
生き延びるために、大きな怪我や痛みすら気づかないでいられるほどの興奮状態だ、

正常な判断が、出来なくなっているかもしれない。
そのせいで、誰かを犠牲にすることがあってはならない


「ねぇ、羽化が完全に完了する前に、あの瘴気の塊をすり抜けちゃうってのはダメなのかな?」


確かに恐ろしいし、とんでもないものが出てこようとしているけど、今はまだ出てきていない。
いわば、卵から孵ろうとしているヒヨコが、殻を内側からうまく割ることができずに、もがいているような状態なのだ。

完全に出てきても周囲の状況の理解や、新しく得た身体の取扱説明書的な機能確認等ができないと、きっと動けないのでは?
その隙に、あの繭玉をすり抜けて出口を目指すというのはどうだろうか?と考えてみた。


『……あの瘴気は貪欲だからなぁ。すり抜けるついでに食われるから、通り抜けはできないと思うよ』

「つまり、そもそも出口に近づけないってことだよね?」


カイルザークが確認をするように再度聞き直すと、そうだ。と、ルナがはっきりと頷く。
食われるとはつまり、さっきのゾンビ達のように取り込まれていってしまう、と言う事のようだった。
それは困る。

ちなみにカイルザークやルナの足の速さではどうか?と、聞いてみても、答えは変わらなかった。

他には、他にはと、案が浮かんでは消えてゆく。
それはもちろん、私だけの意見ではなく、それぞれに考えがあったのだけれど、どう行動しようにも、最終的にはあの繭玉の奥にあるドアを通らなければいけないとなると、繭玉に近づくことができない時点で、お手上げだった。


「ねぇ……ドラゴンの原材料ってゾンビ…人肉で作れちゃうんだね」

「龍やドラゴンは生物なので、合成では作れません!」

『いや……でもドラゴンっぽい奴が出てきたよ?』


完全に案も行き詰まって、それでも、あとどれくらい考えていられる時間があるのだろうかと、階下を盗み見て呆然としてしまった。

考える時間は残されていない。
そう理解すると同時に、瘴気で出来た巨大な繭玉を破き出てきたものを見て、唖然とする。

カイルザークには否定されてしまったけど、ドラゴンがいた。
『竜』と表記されるタイプの影絵のように漆黒の鱗で全身を固めた竜だ。
しかも、かなり大きい。


「ドラゴン……では、ないはずなんだけど、アレは…アレでは瘴気が消えても通れる気がしないな」

『あのサイズだと、退治はもちろん、浄化も難しそうだ』


うん、難しいのはわかってたけど、やっぱり言葉として聞いてしまうと、
一気に現実味を帯びてしまって、怖い。

階下にいる羽化したばかりの漆黒のドラゴン…本来であれば神々しくも見えるはずなのに、ただただ禍々しい。
生まれたてのウォーミングアップなのか、ストレッチでもするかのように、羽を広げたり閉じたり、不思議な方向へ伸ばしてみたりしていた。

そして、バシッと音がするほどに、両の羽を広げると首を上げて……。


「あ、目が合った…」


そう感じた瞬間、竜はこちらに目掛けて、跳躍した。
直後、強い振動が起こった。
これこそ、私たちがいるバルコニーのような飾り彫から、転がり落とされてしまうのでは?と思うほどに激しい……。


「ああ、終わったと思ったど。まだ、ほんの少しだけ猶予がありそうだ」

「どうして…?」


乾いた笑いのような、それでいてほっとした笑いのような、なんとも言えない表情でカイルザークは階下を覗き込む。
私たちのことは見つかっていると思う。
もう、その恐怖で、階下を覗き込むことはできなくなっている私に、ルナまで面白そうに笑っている。


『いやっ……アイツ、羽があるのに、まだ飛べないみたいなんだよ』

「まぁ、いずれは飛べるようになってしまうんだろうけど…ね」


いずれ。と言う言葉にぞくりとするが、そのカイルザークのさらに後ろ、バルコニーのような柵の間から、見えてはいけないものが見えてしまい、悲鳴を上げかける。

それと同時にルナが私の足もとを、目を擦りながら必死に見ようとしていた。


『ねぇ…セシリアの足元、変だ。なんか歪んで見える』

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。 魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。 でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...