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はじまりはじまり。小さな冒険?
299、side シシリー。寝起きの悪さと。
しおりを挟む『ここで、昼寝……出来たら最高……』
『最高……って、先輩?……』
『なんか、ホッとしたら…眠気が……』
『ちょっ…と!…本当に寝ないで!?先輩~っ!』
『うん……話して良かった…』
カイルザークの悲鳴が盛大に聞こえたような気がするのだけど、それ以後の記憶がない。
久しぶりにぐっすり眠れたようで、起きたら全身が痛いし、頭は無駄にボーッとしていて、なかなかにはっきりと覚めないし。
ベッドから起き上がってあたりを見回すと……そう、ゲストルームのベッドに寝かされていたようだ。
なぜかスリッカーをぎゅっと握りしめたまま。
ちなみに自室……あ、いや、私室にしている部屋はこの隣だったりする。
自分のベッドに寝てないってことは、カイルザークが運んでくれたのだろうか?
毛を梳いてる最中だったのに、申し訳ないことをしてしまった。と、全くはっきりしない頭でぼんやりと反省する。
擬似光で時刻を感じさせていた窓が、昼下がりの明るい光から、気づけば夜の淡い月あかりに変化していて……「作業はひと段落した」とは言え、完了はしていなかったことを思い出して、遅れを取り戻すのにちょっと困りそうだな?と、これから起こる光景を、思い浮かべては軽く戦慄し、震えながら執務室へのドアを開けた。
******
side カイルザーク。今度こそ、絶対に。
『私もね、家族がいないのよ。カイが嫌じゃなかったら、私の家族になってくれたら嬉しいわ』
……穏やかに、幼い私の背を撫でながらにっこりと笑った、その笑顔が、ずっと鮮明に焼きついて離れない。
彼女から差し伸ばされた、優しくて温かい手を取って、新しい世界を歩き出したはずなのに。
どうして、あの時、あの時だけは、その手を振り払ってしまったのだろう。
──大好きだったのに。どうして。
そうして一度掛け違えた鈕は、日々その歪みを大きくしていく。
それに気づく頃には、修復不可能なまでに大きな溝…そして壁となって、私の前に立ちはだかるようになっていた。
あの時、すぐ、話せばよかったのに。
彼女も心配そうに、気にかけてくれていたのに。
どうしてあの時だけ、大好きな彼女の心地よい声ではなくて、「彼女のためだ」と言いながら、私を蔑む者の声に、耳を傾けてしまったのか。
『ライバルが減る分には一向に構わないのだが、アレが悲しむからね』
そう皮肉げに笑いながら、助け舟を出してくれた者の手すら、意固地になって振り払った。
そのうちに歳の差もあって、偶然会えるような距離ですらなくなってしまった。
挙げ句の果てには自分の殻に閉じこもってしまった。
……で、それは結局、本当に彼女のためになったの?
何で、どうして。
そう、自問自答を繰り返しながら必死に、彼女の歩いた道をただひたすらに追っていった。
とても優秀だった彼女の後を追うのは容易な事ではない。
まして孤児、しかも獣人で……後ろ盾もない私では、一筋縄ではいかないことだらけだったが、どうにか追い続けた。ただひたすらに、がむしゃらに。
同時に、処世術も学んだ。
……今度こそ、要らぬ雑音から全てを守りきる為に。
惑わされることなく、守りきるんだ。
******
やっと追いついた!と思った時には、学園在学の最後の年。
彼女は最終学年となっていた。
私は……私が同じ場所に立つにはあと5年。
最終学年まで学園に残るのは、よほど成績優秀な者か、教育者になりたいと思っているものだけだった。
つまり、学園内の研究室に所属して研究を生業にしていきたいか、もしくは、教育者……導師資格を取得し、この学園の教師として教鞭をとりたいか。
(まぁ今までの私の主な障害であった、後ろ盾付きの貴族や大きな商家の子息はほとんど残っていない分、気は楽だったけどね)
家を継いだり、貴族同士の婚姻のために基本教育部分のみで卒業してしまうからだ。
ここからは純粋に、能力勝負となっていく。
そして、私の姉でありたいと言ってくれていた少女は、とても優秀で。
その輝かしい歩みを追えば追うほどに、逸話のようなものをたくさん残していた。
最難関である導師の資格試験を最年少、少人数にて取得。
これは私の学年でも話題になった話だったが、よくよく調べてみると、他の専門資格に関しても似たようなもので、挙げ句の果てには卒業後の所属研究室は、シシリー研究室となっていた。
つまり、研究員から始まるはずの身分が、いきなり室長から始まるという快挙。
本当にとんでもない人だった。
彼女といつも行動を共にしていた友人も、卒業1年前であるにもかかわらず、末端ではあるが既に公国の騎士団員からのスタートが決まっていた。
これもまた、とんでもない待遇だったりするわけで、前代未聞なことが続く!と学園内の話題に上がっていた。
どうやって追いつこうかと、思わずため息が出てしまう状況だったのだが、逆に転機であるということにも気づいた。
学業優秀で資格取得も順調に進んでいる者は、社会勉強の一環として研修の機会が与えられる。
その研修先というのが、研究室の紹介も兼ねた雑用の募集である。
『へぇ、あんた獣人なの?それにしては随分…華奢なのね?……どちらにしろ、力仕事はほとんどない研究室だから、ちゃんと魔力が使える子じゃないと続かないわよ?』
心配されつつも、担当の導師に紹介状を書いてもらい、紹介状での書類選考を通過し、面談が始まる。
採用枠は1に対し、応募は5。
成績順であれば、確実に私が一番上になるのだが、さて、後は所持資格だ。
(研究室に欲しがられるような資格が、私にはあるだろうか?実技があるとも聞いたが…)
面談という、少し改まった感じの懇親会のような場を設けることにより、双方のアピールや、研究室での雰囲気や、詳細な作業の説明などをする。
そこで人柄なんかも軽く評価されたりはするので、面接の簡易版とでも考えておけば間違いはない。
こちらは特筆すべきような出来事は、なかったと記憶している。
(本番とも言える面接で……少し問題があったくらいか)
自分の実力であれば大丈夫だ。と、気持ちを奮い立たせて面接に臨んだのだが、その面接で……奮い立たせたはずの気持ちが、全て吹き飛んで行く事となった。
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