私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

298、side シシリー。毛刈りに勤しみます。

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まぁ人化したりと、耳やしっぽの変形や出し入れ等々、身体自体の形状を変えられるんだから、できなくもないよね。
見えちゃったらどうしようかと、真面目に心配してたのに。思いっきり杞憂だった。

あ、でもあれか。
カイルザークは人化の時も、びっくりした時なんかにうっかりケモ耳やしっぽを出してるから、おどかさないようにしないと。
悲鳴的な意味での、ドッキリが展開されてしまうかもだ。


『先輩……事あるごとに潜り込むの、やめて……』

『カイって、すごく良い匂いがする~』

『滅茶苦茶恥ずかしいんで、勘弁してください……』

『気持ち良くてつい……ねぇ、カイ。あの時何があったの?』


おどろかしちゃダメだとは思いつつも、やっぱり気になってた事だったのか、うっかり口から出てしまった。
本当に、ついうっかり。

でも、今こうやって久しぶりに仲良くお喋りできてるんだもの、是非にも教えてもらいたい。
案の定だけど、カイルザークの身体がびくりとしてしまう。


『あの時、とは?』


あの時のこと……あれだけガラリと態度を変えなければならないくらいに、辛い状況だったのだろうに。
ずっと傍にいてくれてたのに、自分の事ばかりで、カイルザークが辛い時に私は……。
守ってあげられなくて、ごめんなさい。
気づいてあげられなくて、ごめんなさい。

ごめんなさいという謝罪と、どういう状況だったのかを教えて欲しいお願いとを、カイルザークの脇腹辺りに潜り込んだまま話した。
……もちろんちゃんと梳いてたからね?


『あ~…あれは。気にしないでください。私が少し、甘えが過ぎていただけの事です』

『甘えって……』


は?と、思わず声を上げてしまった。
私とカイルザークは5歳ほど歳が離れている。
今でこそ双方成人しているから、歳の差なんて言われなければ気にならないようなものだけれど、子供時代の5年の差は、とても大きい。

そんな当時のカイルザークが、私に甘えて何がいけなかったんだろう?
子供が親しい人に甘えるのは、当たり前のことなんじゃないの?


『甘え、です。少し馴れ馴れしく、し過ぎたようです。……そう、注意されただけの事です。だから…』

『…甘えてて良いんだよ。カイは、良いの』


生意気盛りで、私やルークを軽視したり罵倒したり…なんてことは一切なかった。
私が不快に思うことなんて、ひとつも無かったのに。
周囲から見たって、不快を感じさせるようなことは無かったはずだ。


『お二人ともとても優秀だったから、その足を引っ張ってはいけない!と怒られまして。……なるほどそうだよな。と、私も納得してるので、良いんですよ』

『良くない。全然、良くないよ。そういう事は、カイや私が決めて行く事であって、他人が口を出す事じゃないもの。……ずっと甘えてて、良かったのよ…』

『……そうやって甘やかすから。私の欲しい言葉をいつもくれるから。私も甘え過ぎてしまったんですよ』


昔を懐かしむような、悲しむようなカイルザークの寂しげな声に、じわりと瞳が熱くなる。
やっぱりあの時、空気を読んで大人しくしているだけじゃダメだった。
……思わず両手に力が篭りかけて、はっと我に返る。

ぎゅっと…ぎゅっとしたら、生え替わりじゃない毛まで根元から毟ってしまうわ……。
しかも潜り込んでるのが脇腹だから、腹毛?

腹毛……か。
言葉にした途端に、悲しみの涙ではなくて変な笑いがこみ上げてくる。
自分の感情が理解できずに、笑いを我慢してふるふるしていると、カイルザークが「大丈夫だったんですよ」と笑った。


『あの後すぐにルーク先輩が動いてくれて、私にそう忠告してきてた人たちとは、二度と会う事もなくなりました』


あれ……私よりも空気を読めない子のルークの方が、あの時は空気がしっかりと読めてたのね…。
意外に頼りになるなと思うと同時に、それはそれで……なぜか悲しくなってくる。


『気づけなくて本当に、ごめんね』

『大丈夫ですよ。ただ、その後、話しかけようにも先輩たちは本当に忙しそうだったから。すぐには話しかけられなくて……そのうち、忘れられていたらどうしようとか、いろいろ考えてしまってからは、話しかける勇気も無くなって……今に至ってしまいました』

『そっか……カイありがとう。それと、ごめん。やっぱり、あの時ちゃんと話すべきだったね』

『それはお互い様ですよ』


カイルザークのくすくすと笑っている声が響いた。
ふわりと背後から風を感じて、振り返ると目の前にゆらゆらと優しく揺れる見事なしっぽが見えていた。

嬉しいのかな?
そのしっぽの揺れがとても優雅で、ゆらゆらと風に遊ぶ長い毛並みが光を孕んでキラキラと輝く様がとても美しくて、少し見ていたくなって脇腹に座り込む。

寄りかかると、ふわふわの被毛に優しく深く、沈み込む。
ほのかに伝わってくる体温が、心地良い。


『……ねぇ、また、仲良くしてくれる?』

『もちろん!と、いうより…ずっと心配させてしまってたようで、ごめんなさい。こちらこそ、改めてよろしくお願いします』

『良かったぁ……避けられてるのかと思ってたから』


カイルザークに寄り掛かったまま、グーっと背伸びをする。
毛を梳いただけなのに、全身運動をしたかのように、肩や背中がバキバキと音を立てた。
……運動不足は嫌ね!


『ああ、言ったじゃないですか。「忘れられてたらどうしよう」って。そう思って、迷惑にならないように、なるべく二人きりにはならないように、とは…思ってました』


おおぅ…。やっぱり意識して避けられてたらしい。
カイルザークのこと、忘れるわけないのにね。
背伸びの直後の倦怠感が心地良くて、あくびが出るままにぼんやりとする。


『大切な子なのに、忘れるわけ、ないで…しょ』

『また……甘やかす』


カイルザークの優しい笑い声に、気持ちがとても落ち着いて。
寄りかかる背から伝わる、カイルザークの体温もとても心地良くて、なぜか一気にまぶたが落ちてくる。
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