私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

304、side シシリー。山のような作業の再開。

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ドアの先の執務室、部屋の明かりの強さは、目覚めたての目には刺激が強すぎて、目眩しをくらってしまった。


『おはようございます?ですかね?』

『おはよう…あれ…?』


徐々に目が慣れてきて、辺りを見回すと、応接のテーブルに書類の山に半ば埋もれるようにして隙間からひょこりとカイルザークの頭が見えた。


『まさか……まだ寝ぼけてます?』

『寝ぼけ…ては無い、はず』


妙に警戒されているような、うっすらと眉間にシワを浮かべながら、確認された。
寝ぼけては、いないんだけどなぁ……。
目が明かりに慣れてないだけだよ?


『ふふっ…ちょうど今、軽食を頼もうと思ってたところですが、何か一緒に頼みますか?』


寝癖でもあるのかな?と自分の頭を撫で付けるように触っている仕草に、カイルザークはなぜか安心したように軽く笑うと、食事の注文を始めていた。

煌々とついていた部屋のライトは、私が付けっ放しにしていたのではなくて…どうやら、カイルザークが居残りをして頑張ってくれていたらしい。

ついでで申し訳ないけど、私の分の注文もお願いした。
カイルザークなら、獣人にしては珍しく草食と言って良いほどに肉を食べないから、メニューをお任せにしても、寝起きから肉の山盛りみたいな重いモノはこないだろう。

なかなかに思考がはっきりとしてこない頭を、何とか稼働させるべく、手櫛で髪をまとめてひっつめに結い上げた。
ぼんやりとカイルザーク付近の書類の山が目に入るわけだけど……あれ、こんなに仕事押し付けちゃってたっけ?


(ていうか、後輩に仕事を山盛り押し付けて、自分は熟睡してたとか、先輩として最低じゃない?)


少し焦りながら、とても丁寧にまとめられ積み上げられた書類に近づくと、いつの間にやら作業に戻っていたカイルザークと目が合った。


『急ぎはそこの山ですね。その書類が「今日中(!)」の稟議書と回覧です。こちらの山が今週中の期限で報告書系になります。それでですね……こちらの山なのですが…』


食後からの作業で十分間に合いますから。と、満面の笑みで一通りの説明をされたわけだけど、これ、私の机にあったやつだ。
押し付けた記憶は無い。


『その書類、私のデスクにあったやつだよね…?』

『ええ。私、今日は先輩のお手伝いで、ここに居るんですよ?』


にこり。と、笑顔のままに「それがどうした?」と言わんばかりに聞き返される。
お手伝いだからこそ、手伝ってもらうのであって、仕事を押し付けるのとは違うと思う。
そう伝えようとしたのだけど。


『知ってる。けど……』

『では、言い方を変えましょう。こうやって分類して作業をしやすくするのは、誰でも・・・できる仕事です。なので今回は、私が仕分けさせていただきました。ただ、先輩のサインがないとダメなものは先輩が対応するしかないのですが、それ以外の書類は、研究作業と同じで周囲に割り振って良いものなんですよ?……むしろその割り振り・・・・こそが、室長である先輩の仕事です。……全てを、一人で抱え込む必要なんてないんですよ?』


抱え込んでいるつもりはないよ?と、言い返そうとするよりも先に、ちらりと執務室の出入り口付近に積み上げられている書類を見つめるようにしてカイルザークは険しい顔になって話を続けた。


『逆に抱え込んで、処理が進まない方こそ、損失です……あそこに積んだ書類は特に、やばいですよ?』

『やばい……?』


音もなく、研究室のドアが開くと、食事を乗せたカートがゆっくりとこちらへ近づいてきた。
応接テーブルは書類の山だし、執務机も似たような状態で、食べるところがないことに気づいたのか、カイルザークはカートの両サイドに簡易の椅子を置くと、その片方に腰をかけて、私にも席を勧める。

カート自体を机にして、お食事です。
お行儀としたら、とてもよろしくないけども、食べるところがないんだもの、しょうがないよね。


『非常にヤバい案件です。だってそれ……部署間違いで届いてるから。送った先も本来受け取るべき先も、書類の再発行が可能なら、支障はないでしょうが……どうも権利書のようなものも混ざっているので、今の今まで関係研究室の作業が止まっていたかもしれないんですよ?』

『えええぇ……』


勧められたので、食べようと手を出しかけたところで、カイルザークの脅しのような言葉に、びくりと動きが止まる。
だって、今やばい案件って言われた書類が、数枚ならともかく……玄関付近に山となって積まれているわけで。
気づかないとはいえ、どれだけの他の研究室の足を引っ張りまくってしまったんだろうか?


『まぁ、差出人側のミスですから、当研究室こちらに非はないにしろ、それでも長時間、誤配達に気づかずに、書類自体の足取りがつかめていなかったとするのであれば……ね?とばっちりではありますけど、こちらの管理能力まで、問われてしまいかねません。……何しろ間違えて届いたことに、長時間気づかずに・・・・・いたわけですから』


ね?ヤバいでしょう?と…でも面白そうに笑顔で説明されてるわけですが、笑ってる場合じゃないよね!?


『もしくは、妨害行動と取られることも……と、言っておきますね』


急いで、関係部署に「ごめんなさい」の挨拶回りをしなくちゃいけないんじゃないのかしら?とか、頭を抱えかけていると、でも、そんな私の思考とは裏腹にカイルザークは楽しげに笑いながら話を続けている。


『ちなみにですね、そこの山は既に関係部署には連絡済みで、転送待ちなので大丈夫ですよ。今度から、気をつけましょう』


ほら、今は食事ですよ!と、カートの上の軽食を勧められる。
まぁ軽食とはいえ、量はしっかりあるので、ちゃんと食事だね。
野菜たっぷりのサンドイッチに、コンソメベースの野菜スープ……うん、野菜尽くしっ!

かろうじてスープとサンドイッチに彩り程度にハムとベーコンが見える感じ。

ちなみに、カイルザークの食事に至っては、あなたはウサギか鹿でしたっけ?と言いたくなるほどに、そもそも肉が存在していなかった。

そうそう、ウサギや鹿の獣人さん……存在しますが、意外な事に彼らは肉食です。
それ以上に、草食な狼の獣人さんって…不思議よねぇ?と毎度思ってしまう。

私が食事に手をつけ始めると、カイルザークは満足そうに笑う。


『ね?先輩。一人で抱え込んでも、面倒ごとが増えるばかりで疲れるだけですから、無理しないでどんどん周囲へ割り振りましょう?室長マスターが元気のない研究室は、雰囲気も沈みますからね。笑っていてください』

『ありがとう……』


カイルザークの優しい言葉が嬉しい。
しっかり笑ってくれている笑顔が見れて嬉しい。
……やっぱり、ちゃんと話せてよかった。途中で寝ちゃったけど!

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