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はじまりはじまり。小さな冒険?
330、最低限の閾値って…。
しおりを挟むあ、そうか。
言われてみれば『王族のための避難所』だもんね。
避難生活、なんてものも王族であれば長期化する場合もままあるし、やっと姿を現せたと思ったら、ボッサボサのボロボロじゃ、見る影もないもんなぁ……。
「しかも避難するための施設なんだから、最低限の暮らしができる設備は整ってるわよ?」
心労からのやつれとか、名誉の負傷であれば「頑張れ!頑張ったね!」と思うのだろうけど、頭髪ボッサボサの無精髭だらけの、明らかになんか臭ってきそうなきったないおっさんになってたら、ダメかも……。
イメージは大事!ってよく言うけど、ある意味印象操作に近いものがあるのかもしれないね。
そんな気がしつつも、どんな場面であってもやっぱり「やつれてても素敵!!!」なんて言われるような『ただしイケメンに限る』的な加護が、王族には必要なのかもしれない。と、ふと思い至ってしまい……笑う。
「いや…最低限どころか、何でもあると思うよ……」
食後のお茶を口にしつつ、こっそりと囁くようにセグシュ兄様。
「じゃあ、気になりついでに…男性陣、お風呂行ってらっしゃい」
エルネストの瞳のキラキラが期待に最大級の輝きを放ちそうなタイミングで、フィリー姉様が手をひらひらと振りながら笑顔で見送るそぶりを見せた。
「姉さん達が先でいいよ?」
「私はどちらでも良いんだけど…ね。今、セシリアを連れて行ったら、のぼせてなくても吐く気がするのよねぇ。だからもう少しセシリアのお腹が落ち着いてから行きたいから、お先にどうぞ?」
やっぱり私か……。
フィリー姉様ごめんなさい。
そうなんだよね、お腹がぽんぽんって笑われるくらいにぽっこりしてしまってるのも、確かにいつもと違うでっぱり具合や硬さからも、簡単に理解はできたんだけど……。
子供のお腹って、腹部周囲の筋肉がまだとても柔軟…と言うか、ほとんど無いから、お腹に力を入れただけでもぽっこりと膨らますことができるんだよね。
あのぽっこりを通り越した、ぽっこり具合。
これって、本当に元に戻るのかな?と不安になるほどの状態なんだ。
「ついでに兄様と2人で、そこのちびっ子3人組を丸洗いしてやって」
「「「えっ!僕もっ?!」」」
「当たり前でしょう!丸洗いされてらっしゃい!」
「「「…はい」」」
「みんながみんなして、自分は違うって思ってるあたりがすごい…あははっ!」
セグシュ兄様、笑うところはそこじゃないと思います……!
そう思いつつも、ものの見事に3人が全く同じ反応を示したことが面白くて、私も笑ってしまった。
「……セグシュも…笑ってる場合じゃないわよ?…まぁ頑張りなさい」
フィリー姉様が意味ありげな笑みを浮かべている。
何を頑張れと?と、セグシュ兄様は不思議そうに首を傾げながら、席を立つ。
……なんとなくだけど、フィリー姉様の言わんとしていることが理解できた気がして、ジト目になる。
うん、兄様たち、頑張って。
「レオン……嬉しそうね?」
何やらそわそわと、どこか嬉しそうにしているレオンハルト王子にフィリー姉様が声をかけていた。
王宮のお風呂……ほら、誘拐事件からやっとこさ王都へと帰ってこれたときに借りたけど、普段からあれだけ豪華なお風呂に入っていたら、他のお風呂なんて楽しそうにも、なんとも思えなさそうなのだけど、レオンハルト王子の表情には、やたらとわくわくとした感じが見て取れた。
「あ…はい。みんなでお風呂というのが……初めてで」
少し恥ずかしそうにほんのりと頬を染めて、伏せ目がちに、はにかむように笑うレオンハルト王子。
「あら…じゃあ、楽しんでらっしゃい。……今日なら思いっきり泳いでも、怒られないわよ?」
「え…良いの?……やってみますっ!」
ぱっとフィリー姉様を見上げると、目をキラキラとさせて満面の笑みを浮かべると、移動を始めているヴィンセント兄様の後を追っていった。
「……余計なこと教えちゃったかしらね?ふふっ」
余計…だろうね。
ま、大変なのは兄様たちだから良いか!とか、ちょっと思っちゃったりもした。ごめんなさい。
ちなみにエルネストは、ヴィンセント兄様に抱えられて。
カイルザークは『ライトちゃんがお手伝いしますよっ!!!』と張り切るライトから、逃げるように断りながら、じりじりと迫るライトを避けつつ、兄様たちの後を追っていく。
(カイルザークの耳が、常に後ろ向き、そしてしっぽも低く、揺れも少なく見えて…あれは完全に嫌がってるなぁ……)
その慌てぶりが、いつも落ち着いているカイルザークには珍しい表情だったので、可愛らしくてしょうがない。
ちなみにお風呂等の設備は全て、今回の『避難所』の構造としては食堂の奥に並ぶ個室群と同じ並びに設置されてるとのことで……そういや、この部屋割りを最初に設定してたのがルークだもんね。
らしい!といえばらしいけど「今必要なもの」以外の設備への無関心さが際立ってるよね。
(食堂と同じく風呂だって水回りなんだから、もう少し使いやすいように、場所を考えたら良いのに)
サロン自体もワンルームとはいえ、無駄にだだっ広いものだから、私たちがこうやって話をしているテーブルセットがある場所と、シュトレイユ王子が眠っているベッドまでの距離が、実はかなり離れている。
まぁ広いからこそ、みんなはこの部屋を『サロン』って呼んでるんだけど…ね。
(広いにしても限度があると思うんだ……『避難所』と呼ぶには広すぎですよ)
それこそが『王族が使う施設』と、姉様たちが言っていた所以なのだろうけど…。
天井も高くて立派なシャンデリアがついていて……広すぎて、とにかく広すぎて、これで1人だったら避難どころか、孤独すぎて泣いてしまうかもしれない。
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