私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

334、ぽんぽんお腹の荒療治。

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ゆらゆらと揺れて、温かくて、良い香り。
時折り強めの風に煽られて、白檀の香りとともに髪が揺れている……。

あれ…白檀?!
それってルークの使ってる香りじゃん?
夢にまでみるとか、どうなのよ?

いや…夢だったらこの強風は何だろう……?
室内のベッドで寝てるんだから、この強風は…ない。

はっと、急激に意識が浮上する。


「起きたな…」

「ふぇ…えっ……?!」


少し上からルークの声が聞こえた。
見上げようとして…って、うん。私、ルークに小脇に抱えられてました。

お姫様抱っこじゃないのが残念!じゃなくて!
ルークのもう片方の手には、長剣が握られていた。
……思いっきり臨戦態勢です!


「おはよう、セシリア嬢。ちょっと苦しいかもだけど、少しじっとしててね?」


この声は、守護龍の……。


「あなしゅ…あなしゅて…あにゃ……」

「……ステアで良いから。ふっ…くくく」

「しゅてあ様!」


アナステシアス様!!ていうか、肝心な時に限って噛みすぎっ!
口元を隠すように手を添えて俯いてしまったので、青い流れるような長髪に顔が隠されてしまったけど…絶対笑ってるよね。
小刻みに肩が揺れてるよ?!


「ああ、起きたのか……セシーのトラブルが毎度こんなだったら、ゼンの心配症も尤もなんだよなぁ…ちょっと同情しそう」

「それでも約束は約束だからねぇ。謹慎は解けませんよ?」


少し離れた位置から、父様の声も聞こえた。
ちょっと、どういう状況なのか理解できない。


『……来ますわっ!』


リンっ!と、甲高い鈴がなるような、よく通る女性の声が聞こえたかと思った瞬間、視界が反転した。

ルークが何かから避けるように、大きく跳躍したらしい。
小脇に抱えられて、視界はマントによってほとんどが隠されてしまっているけど、なかなかに見晴らしの良い高さが、大きく動く時にちらりちらりと見えた。


「わっ……!ぁああああっー!!!」

「セシー!口っ!口を塞ぎなさいっ!」


そして、これは目を瞑っていてもわかる、ジェットコースターに乗っている時のGを感じるあの感触が、内臓にがんがんと来ていた。

父様が必死に教えてくれてるけど、塞いでも出てしまうものはしょうがない!

跳躍、跳躍、剣撃、跳躍……。
衝撃がダイレクトにくるので、父様やルークが何かと戦っているのは理解ができた。

ルークの動き以外での衝撃音がいくつか聞こえていたので、魔物の討伐中?
少なくとも相手は人間ではない、異形のものだ。

しかも、魔術師団の技術部と戦術部の両団長と守護龍の戦闘
あれ…これってメアリローサ国の最強戦力じゃない?
騎士団の両団長が足りないけど!

これはしっかり見ておくべき!と思うのだけど、私の心とは裏腹に、身体は……。


「うぶっ…」

「……どうした?」


迫り上がってくる猛烈な吐き気に、涙目になりながら両手で必死に口を押さえる。


「吐く、降ろ、して」


言葉を発するにも、片言しか出せない。言葉とともに吐いてしまいそう。
とにかく気持ちが悪い。


「…そのまま……吐いていいぞ。多分、飛び散るが、まぁ……」

「良くないっ!良くないからね?!」


軽く笑うような声のルークと、必死に止める父様。
どちらの表情も見ることはできない…というか戦闘中です!
……私もある意味、戦闘中だけど!

そりゃあ、お腹ぽんぽんな状態で、小脇に抱えられるという、腹部を思いっきり圧迫されるような状況で、さらに激しくシェイクされたら……酔ってなくても吐きますよ。

我慢しろってのが無理な話ですって。


「もう、緊張感がないなぁ…。これは2人ともまだまだ余裕だからだと、思って良いのかな?」

「龍と一緒にしないでくださいよっ!」


守護龍と父様が、何やら楽しげな会話?をしている隙に、ルークは高く跳躍した。
そして、天井に近い場所にある小さなフロアに着地……ってここ、ルナ達と逃げ惑った『監獄』の、なんちゃってバルコニーじゃないかっ!


「吐いてしまえ…ほら」


お姫様抱っこの反対のように、仰向けではなくてうつ伏せに抱き上げられて、背を下から上へ、ぐいぐいと押しながら撫であげられてしまうと、我慢も何もあったものじゃない。

……吐いちゃったよ。スッキリしたけど。
喉や鼻がヒリヒリするのは、ご愛嬌ということで。


「なぁ……アレ、殴りたくないんだけど」

「では…燃やしてしまえ。得意、だろう?」


思わずこぼれてしまった涙を腕で拭うと、ぶわりと下から強く吹き上げる風とともに、父様と守護竜の声も近づいてくる。


「いや、そういう意味では…」

「どの道、腐敗物だ。腐敗前のものが多少混ざっても、大して変わらんだろう」

「なるほど…むしろ鮮度は上がるね!ちょっと新鮮に」


守護竜曰く、ちょっとフレッシュになった魔物…えっとごめん。
父様が討伐を嫌がるのもごもっともです。


(天井付近から、お腹ぽんぽんだった原因を、噴水が噴き出すがのごとくに勢いよく嘔吐したわけで、しかも魔物にも少しかかったっぽい?)


……直撃してないことを祈っておくけど…どちらにしてもあの高度からだと、激しく飛び散るわけで。

本当に、ごめんなさい。


「……そういう鮮度は、要りまっ…せんっ…!」


父様の声と共にごう、と熱風が駆け抜けた。
黒い魔物へと、高所から落ちる勢いを使っての、長杖での強撃。

杖って刃がついていないから、魔物相手での攻撃力が低そうなイメージなんだけど、父様の場合はそうでもなかった。

杖に高温の炎を纏わせて、魔物の長い首に、袈裟がけのように少し斜めに挟撃を叩き込むと、そのまま焼き切っていく。
甘酸っぱいような腐敗臭と、焦げた匂いが煙となって、私がいた、なんちゃってバルコニーまでも立ち上ってくる。


「よし、ルナ。回収だ」

『はいっ!ありがとうございます!』


あら、ルナもいたんだ?父様の声にルナが反応する。
父様の一撃が致命傷になったのか、ぴくりとも動かなくなった真っ黒な魔物に、ルナが近づいて、手を触れる。
すると、魔物であった黒い塊が、綿花の山が崩れるかのようにほろほろと崩れて、地面へふわふわと沈み込んでいった。

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