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はじまりはじまり。小さな冒険?

336、続、分離作業。

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「技術提携の管理者がセシリアなのか……ふっ。あははっ!どういう偶然なんだろうな?こんなにすごい施設型魔道具アーティファクトを作り上げてしまうような人物と勘違いされるなんて…どんな穴があったんだろうな」


あまりにも予想外なところに私の名前があると言われたようで、父様から、乾き気味の笑いが聞こえた。

あ、はい…大穴ですね。
魔導学園が前世にほんでいう特許のようなものをたくさん持っていたんだ。
まぁ、魔法関係の研究機関併設だから、子供たちから見れば魔法の学校だけど、大人たちから見れば、魔法や魔道具の開発の最先端を行く巨大な企業であったり、医療機関でもあった。

そこの総責任者が……もちろん部門別に代表者が置かれているので、そちらで対処が基本なのだけど、繁忙期には代理として手配から予定の管理から、お手伝いと称してラディ学園長が全てをこなしてしまえるほどの知識量を誇っていた。

とても……優秀な人だった。

もちろん、メンテナンス等は開発した部署ごとで行っていたけれど、それでも致命的な問題が起きてしまった時には、学園長も同行する。
すると、やはり何事も無かったかのように、問題解決を見て帰ってくる。


(今、その学園長の代理として私が登録されてしまっているわけだけど…本当に代理としての能力を示せと言われたら、到底無理な話だわ)


これだけ優秀な人だし、広大な施設を統べている学園長ともなれば、かなりの…それこそ老人をイメージしがちなのだけど。
実際の姿は20代後半、もしくは30代くらいの美丈夫だったりする。


(確かに目の保養だったしなぁ。学園長が出席する学会系は、意味もなく出席率が上がるってよく聞いていたし)


どうにかお近づきになりたい!とか、下心が!というよりは、ただただ見てるだけで幸せになれてしまうっていう美人さんって、いるでしょう?
本当にそんな感じで、文字通り眼福の人でした。

学園内でそのお姿を見かけたら、幸せな1日がおくれるとか、最高の運気なのだとか、学園内の女子たちがジンクスのように口を揃えて言ってるくらいだから、きっとシシリーわたしの審美眼は間違っていなかったはずだ。

ちなみに学園長は独身だったので、社交界でも大人気だったそうですよ!?


(……そういえば、学園長って年齢不詳だったのだけど、実際はおいくつだったのかしら?
出会った頃からあんまり変わってないような……あれ?)


今更ながら、妙な違和感を感じたりしたわけだけど、そこで我に返る。
脱線してる場合では無い!

ルナに抱かれたまま、周囲を改めて見回す。
天井が高いことばかり意識していたのだけど、実際は横にも広くて。
この部屋は『避難所』のサロンほどでは無いけれど、それに近いくらいの広さがあった。

だからこそ、出入口が小さめのドアひとつしかないという作りに、部屋の構造の異様さが際立っていた。


(だって、サロンであれば、夜会や舞踏会なんかの会場に使われるような、屋敷の中でも一番豪華な作りになるような部屋のはずなのに、部屋の装飾と考えるにしても不似合いな、小さなドアがポツンとあるだけなんだもの)


……サロンなのに、お客さんを招く気がないでしょう?という作りの、みすぼらしいドア。
部屋自体は、天井に飾り彫りのオブジェがあるほどに手が込んでいるのに。

父様は、分離作業中の魔物の裏へ回り込むと、その奥に守られるように隠されていた、この部屋唯一の出入り口となる、小さなドアから廊下を覗き込んでいた。
確か、カイルザークと一緒にここに来たときは、閉まっていたはずなんだけど、今は遠目にも分かるほどに大きく開け放たれている。

父様は、こちらへ振り向くと小さく首を横に振り、そろりとドアを閉めると、長杖を手から消す。
運動後のストレッチなのか、腕を伸ばしたり、肩を上げたり下げたりしながらこちらへ戻ってきた。


「さて……討伐は終わったようだけど、思ってたより呆気なかったなぁ」

「そうだねぇ。聞いてたより瘴気も薄かった…のは良いんだけど、報告と違うような気がするんだよね」


魔物だったものの上に陽炎のように揺らめく瘴気が濃くなっていくたびに、瘴気を払ってくれている守護竜が話す。
闇の妖精たちへの『宝』の返却作業は順調に進んでいて、討伐直後の大きさの半分以下になっていた。


「……セシリア。カイの説明より大分…魔物のサイズが小さいようだが…この個体のことだったのか?」

「違う…と思う、思い、ます。……ここにいた魔物って、この1体だけ…ですか?」

「ああ、そうだが。これがセシーたちが倒せなかった魔物じゃないのか?」

「違い…ましゅ。私が見たのはもっと、もっと大きくて……」


ふあぁ。と、会話中にもかかわらず、あくびが出てしまった。


(あ、これ、魔力切れ間近だ、やばいかも……)


そう自覚すると同時に、急激な眠気の波が押し寄せてくる。
ルナ、相当しんどいんだろうなぁ。とか思いつつも、私の魔力補給も限界がきてしまった事に焦りを覚える。


(……あともう少しだから。この『宝』を返却し切れるまでの魔力が、私に残っていますように)


そう思った直後、首の力がすっと抜けてしまった。
すかさずルナが頭を支えて、お姫様抱っこから、普通の抱っこのような状態になった…と思う。
あまりの眠さと、ルナにかかえるように抱っこされた安心感からか、さらに意識がすっと遠ざかった。

……が、いつもの睡眠状態と何か状況が違う。
完全に身体は脱力していて『これは寝てるな』と自分でも自覚できるのに、聴覚と思考がしっかり機能しているという、不思議な状況に陥っていた。


『セシリアの言った通りです。形状がまず違います…あと、足りません』

「足りない?アレで全部ではないのか?」

『これを構築していた素材の大半は、闇の妖精かれらの探していた「宝」よりも、つい最近になって追加された素材のようです』

「素材…か」


素材……。ルークの問いに淡々と答えていくルナから出た言葉に、父様が反応していた。
『遺体』と言われないのは何故なのか、思わず私は考えてしまいそうになるのだけど。
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