私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

347、お昼だし、一時撤退。

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 今、私たちが進んでいるのは魔物がどこに潜んでるかも分からない場所だと言い聞かせながら周囲に目を凝らして進む。
 そうでもしないと、魔物がいるような場所とは夢にも思わない、あまりにも綺麗な廊下だからだ、うっかりと忘れてしまいそうだから。


(実際、探索というよりは、貴族のお屋敷を散策でもしているような気分さえしてくる。……雰囲気って大切なんだね)


 気を緩めてはいけないと思いつつも、どう見たってここはお屋敷の中で、ダンジョンのように魔物が出たりするような殺伐さは感じられないし、窓から差し込む柔らかな擬似窓には、どこかの借景だろうか?本当に貴族の庭先を覗き込んでいるような、綺麗に整備された芝生の庭先が映し出されていて、地下の施設にいることすら忘れてしまいそうになる。
 緊張どころかリラックスしちゃうよ?

 ちなみにルナと水の乙女オンディーヌが交互に戻っては、私たちが目指す廊下の先の様子を伝えていくのだけど、徐々に…ルナの戻りが遅くなっていく。
 逆に水の乙女オンディーヌの戻りが早くなっていき……。


「……一度戻る。ルナが限界だ」

『ちょうど半分くらいですわね』


 水の乙女オンディーヌが報告に戻ったタイミングで、ルークから帰還の声が挙がった。
 今のところ、怪しい部屋というのはこの『監獄』の『核』がある部屋に近い、水の乙女オンディーヌが中の様子を確認できなかった部屋になる。
 ただ、気になるのはそういう部屋がいくつかあった事と、部屋の中から物音が聞こえていたという事。
 ……生存者がいるのだろうか?


(ちょうど半分って…結構な部屋数を通り越してきたんだけど)


 ルークの声に、やや先行気味に歩いていた父様が歩を止めて私へと振り返る。
 相変わらず私は、ルークに抱えられたままなので、探索のペースとしては大人の歩幅で、かなりのハイペースでの移動だったが、抱えられていただけあって私は消耗してない、と思う。


「魔力不足か?主人が子供だもんなぁ……」

『まだいけます!』


 ちょうど戻ってきたのか、ルナの少し必死な声が聞こえた。
 声の方向へ視線をやると、やはり少しふらついているように見える。
 そんなに辛いなら、私から魔力持っていって良いのに、そういえば吸われた感覚はなかった。


「いけるうちに休むんだ。ここで無理したらフレアに負担がいく」

『あっ!…わかりました』


 なるほど、私の魔力を、あくまで温存していく方針なのね。
 私は戦力外どころか、ルナの補給用ですらなく、ルナがもしもの時のための、そしてフレアが不安定にならないための緊急用。
 つまり、何もするなと……。


(ちょっと悔しい気分にはなったけど、戦闘のプロが揃っている状況なのだから、私が無理に出て足を引っ張るようなことをしてもしょうがないもんなぁ)


 そう納得していても、最初からお荷物状態の自分が恨めしい。
 何か1つぐらい、役に立てるようなことがあればいいのに。
 ……まぁ、幼児の分際で、何を生意気なこと言ってるんだ!と言う話なんだけどさ。


「宰相、ルナは自前の魔力だけで行動しているから、セシリアの魔力は…関係ない」

「なら、分けたら…ダメなのか。うん、ダメだ。セシーが寝てしまうね」

「分けなくとも、この程度なら一時休ませれば、すぐ回復する。食事も兼ねて戻ろう。そろそろ昼だ」


 そう言いながら、フロックコートの中に着ているチョッキ…じゃない、ベストのポケットから懐中時計を出す。
 確かにそろそろ昼だった。

 通常であれば、廊下の擬似窓の明かりからの時間の推測だけで十分だったのだろうけど、ここがもしもだけれど、私たちにとってダンジョンと化すように悪意をもって設定されているのなら、明かりの法則も不規則に設定できるから。
 なので、確実性を持たせるために時計での確認もしたのだろうね。


(懐中時計、ちゃんと使ってるね!)


 押し付けがましいかもしれないけど、プレゼントしたものを使ってくれているのを見るのって嬉しいよね?
 思わず表情に出てしまっていたのか、時計を見つめてにやにやとしていたのだろう、父様に頭を撫でられた。


「お昼か…『避難所ここ』の料理は一風変わっていて美味しいから…楽しみだったのかな?」

「はい」


 流石に『私がプレゼントした時計を使っているところが見れて嬉しくて……』なんて言う事はできないので、素直に返事をすることでごまかしてしまった。
 ちなみに私の食欲より、父様の今の興味はルナにあったようで。


「精霊の回復力は凄いんだな」


 すでに父様の視線はルナへと変わっていた。


「ルナは…特別だ」

「特別……?」


 父様の言葉を遮るかのように、ルナや水の乙女オンディーヌ、守護龍アナステシアスと父様を囲い込むように赤い魔法陣が展開されて、足元から景色が歪み始める。
 茶色だった絨毯がボルドーに変化して…ああ『避難所』のサロンの絨毯だ、とほっと安心する。


「そこだっ!!!」

「エルっ!違っ!」

「わっ?!」


 景色が『避難所』のサロン内へと切り替わった瞬間、エルネストとカイルザークの声と飛び込んでくる大量の水飛沫と……びっくりしているレオンハルト王子の声。

 そして、咄嗟に動こうとする父様を制止しようとする、守護龍の腕が見えて……。

 ちなみに、飛び込んできた水飛沫は私たちにはかからずに、中をふわりふわりと楽しげに舞い遊び始める。


「なんだなんだ…?」

「えええっ!?」


 理解が追いつかないようで、状況に驚く父様とレオンハルト王子の声が響いた後……。


「父様っ!」

「ご、ごめんなさいっ!」


 カイルザークとエルネストの焦った声が聞こえてきた。


「……随分な出迎えだな」


 ルークの相変わらずの抑揚を抑えた声に、エルネストとカイルザークはびくりとする。
 ……完全に悪戯がバレた悪ガキ2人組にしか見えなくて、思わずルークの腕の中で笑ってしまったのだけど。2人は必死だった。


「びっくりした……『避難所こちら』が襲撃でも受けてたのかと」

「ないない。父様たちが、子供たちの鬼ごっこに巻き込まれただけよ。ふふっ」


 父様は守護龍に制止されていた手を引く。
 そしてポツリと呟かれた言葉に、フィリー姉様の声が笑って答える。

 同時に水の乙女オンディーヌが嬉しそうに両手を広げると、上へと伸ばしていく。
 その所作がとても優雅で思わず見惚れてしまったのだけど、その後に起こったことも素敵だった。

 大量に私たちへと飛び込んできた水飛沫が天井まで舞うように集まると、きらきらと近くにあるシャンデリアの光を反射しながら、細かい雪となって降り注いできたのだった。
 七色の光を纏う、まるでダイアモンドダストのように。

 子供たちは、謝ることも忘れて、その様子に見入っていた。
 カイルザークまでもだ。


「訓練を頑張っていたのだから、怒らないであげてね?」と、フィリー姉様が笑いながら説明を始める。
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