私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

350、美味しくいただこう。

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「いただきます」


 何の気なしに、胸の前で手を合わせて呟くと、レオンハルト王子が不思議そうに首を傾げて見ていた。


「それ、面白いな。なんのおまじないなんだ?」

「……?」


 それってどれ?と、私も首を傾げていると、ちょうど後ろを通りかかったフレアが何かに気づいたのか、目を丸くして小さく囁いた。


『ああっ!セシリア「いただきます」のことだよ!』

「……あぁっ!いつもの癖で…」


 おまじない。と、聞かれて理解できていなかったのだけど、言われて見たらそうだった。
 今世こちらには、食事前の「いただきますごあいさつ」は存在しない。


(メアリローサの王都周辺は食生活もだけど、こういう習慣も微妙に海外の方面と似てるんだよね)


 宗教的な関係があれば、食事の前にお祈りをする程度で、食事・食材や作ってくれた人に対する『いただきます』という感謝の言葉は、無いらしい。
 ……これって日本独特な習慣らしいよ?

 前世にほんの晩年の私がちょくちょくお世話になっていた介護施設の利用者に、海外出身のお婆ちゃんがいたのだけど、同じく『いただきます』をしなくてね。
 なんでかな?って聞いたら、そもそもそういう習慣がないそうで。


(おはよう。こんにちは。のように、言葉は違えど食事前の挨拶も必ずあると思っていた私にはすごく衝撃的なお話だったんだよ)


 だから、すごく礼儀正しいお婆ちゃんなのに『いただきます』が無くて、そこだけが私には悪目立ちして気になってしまってね、不思議だったの。


『礼儀としては知っていて、意識して使うようにはしているのだけど、習慣が元々なかったから、どうしても忘れてしまうの。ごめんなさいね』そう、笑って教えてくれた。


 ……それから、私の『当たり前』は、彼女から見たら『異常な・不思議な習慣』だったと言うことに気づいてからは『ああ、そんなものなのね』と、思えるようになって。
 そうしたら『あら、また忘れちゃったわね』くらいに、彼女が言い忘れていても不思議と行儀悪くも何も見えないし、気にもならなくなってしまった。

 それまでは『無作法だ!』と、思っていたのにね。

 そんな彼女と同じ状況たちばに、今、私が直面したたされていることに気づいて、困った笑いがこみ上げてしまった。

 あの時は『いただきますをしない彼女』が少数派で、目についていたけど。
 今は『いただきますをする私』が少数派で、みんなの目についている。


「それ……私も不思議だったんだ。喋り始めた頃から、やってたよね?」

「そうね…やってたわね」


 父様と母様が話題にあげて、なぜか視界の先はセグシュ兄様。

 あ、そうか、父様と母様と私の専属メイドのセリカの他に、私に言葉や行動を教えられるチャンスがあったのがセグシュ兄様だけだった。
 よく時間を作っては遊びに来てくれていたからね。


「ぼ、僕は教えてないからね?!」

「セグシュに教えられるような知識がある風にも見えないから大丈夫、安心なさい」

「それ、安心できないと思うよ?!」


 フィリー姉様、辛辣!とか思いつつ、さてどう言い訳しようかと固まっていたら、予想外な場所から援護射撃がきた。


「ご飯を食べる時の、作った人への感謝の言葉だよね。僕の里では使ってたよ」


 まさかのカイルザークだった。

 ちょっと言葉は違うけど…。と。
 獣人の里では物の流通が少ない分、足りない物は自力での調達が基本だったから、ある程度の役割分担はあれど、食材も生活資材も自分たちで狩る・作ると言うのが当たり前。
 なので『狩ってきてくれて・作ってくれてありがとう』と感謝の言葉が出るのだそうだ。

 エルネストも「そういう意味なら確かに使ってた!」と言っていたけど、やっぱり今世こっちでは「いただきます」って無いのかしら?
 ……ちょっと寂しいかも。


「なるほどな「作ってくれてありがとう、いただきます」の意味か。セシリアは優しいんだな」

「優しい……?」

「違うのか?」


 レオンハルト王子からさらに予想外な褒め言葉をもらってキョトンとしてしまった。
 礼儀正しいと言われるなら、わかるけど、優しい……?


「調理人の仕事なのだから、普段から労う必要はないのではないかと思ったんだ」


 プロの仕事で、御礼としての賃金は払ってある。って感じなのかな?
 まぁそういう考えであれば、確かに不思議かもしれないね。
 私も説明は難しいのだけど。
 そもそも『食材への感謝』が最初から抜けてるから、どう言うべきか困る。
 というか、伝わる気がしない。


『ふふっ。セシリアは優しい・・・からねぇ「作ってくれてありがとう。美味しく食べます!」って言う意味での「いただきます」みたいだよ?』


「そうなのか?」と、聞かれたので、反射的にこくりと頷いてしまった。
 もともと習慣のない人たちに、細やかに説明するのは難しい。
 少なくとも『感謝してるんだよ』って事が伝われば、今はいいよね?

 だってさ、大体の人達が席に着いたタイミングで、何も言わずに食事が始まっちゃうんだもの。
 当たり前にしていた事が抜けていると、なんか、変な感じがしちゃってね。
 どうしても「いただきます」と言ってしまうんだ。

『いただきます』をしなかった彼女と同じ、90年間続けた『いただきます』
 当たり前になってしまっている慣れって、恐ろしいよね。

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