私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

351、しあわせ時間。

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 さてさて、桜ごはんのおにぎりを頬張りながら、じーっと見つめる先には、小さな小さな小皿。
 中には、白くて柔らかなシラスをいっぱい乗せた大根おろしが盛り付けられていた。
 茹でてあるはずなのに不思議と透明感のある白さの、とんでもなく柔らかな、釜揚げシラス。


(すごく新鮮なんですけど!前世にほんの旅先で寄った漁港で食べたシラスと良い勝負だわ!)


 これなら、シラス丼でも良かったよなぁとか、ちょっと思ったりもしたけど、それほど量を確保していないそうで。

 残念だな…と思ってたら、こちらでは旬の時期(春の今と秋)は、漁船が沈む勢いで獲れるのだけど、ダメになるのが早すぎて、消費しきる前に無駄になっちゃうからって、ちょこっとしか獲らないんだって。


(不漁の年でも、獲れなくて困る!と、いうことになったことが無いとか、どれだけ綺麗な海なんだろうか)


 なので、事前に注文してくれたら、必要量は余裕で準備できると言う話だったようで『欲しかったら、注文してくるよ!』と言われた。
 これは…獲りたてじゃないと食べれない、生しらすも食べれるチャンスなのかもしれない。


 もう私には、どうにもにやにやが止まらない食事なのだけど、和食にあまり馴染みのない大人たちには、特に釜揚げシラスは微妙みたいだった。

 父様とルークは遠征等で食べる機会があったのか、そもそもあまり気にしないのか、躊躇ちゅうちょなく食べていたけど、母様やソフィア王妃は食べ始めるまでに、少しの間、シラスと睨めっこをしていた。


(……この美味しさを知らないのは、損ですよ?)


 そうそう釜揚げシラスと一緒に盛られてる大根おろしといえば、この時期はなめ茸をのせても美味しいんだよね。
 今回は、エノキが売ってなかったらしいってのが残念なところだけど。

 ちょっとしょんぼりしてたら、教えてもらったのがエノキの旬は秋から春直前まで。
 なので自家製白梅酢のなめ茸が食べたかったら、今秋から冬を待たないとダメらしい。


前世にほんのスーパーには通年で売られてたから、旬以前に収穫時期なんて考えたこともなかったよ……ていうか、野生のなめ茸…じゃない、エノキってどんな姿をしてるんだろう?)


 自家製のなめ茸を作るときにね、味付けの仕上げに梅酢を使うと美味しいんだ。
 あ、お醤油ベースで白梅酢ね!

 赤梅酢で作ると、蛍光のピンクみたいな色のなんともいえない色彩のなめ茸が出来上がる。
 これはこれでカラフルだから、揃えて並べるには見栄えがいいのだけど、赤梅酢を使う時は味付けのベースを醤油じゃなくて、昆布だしの粒状をベースに使ってたなぁ。
 梅昆布茶的な…なめ茸になるのですよ!

 それと梅酢とは関係がなくなってしまうのだけど、なめ茸の変わり味として、ごま油を強めに使って、鶏ガラ+胡椒ベースでニンニクと長ネギを一緒に刻んで入れたりすると、ちょっとスパイシーなネギ塩風なめ茸になる。


「セシリアは、本当に美味しそうに食べるな」

「ん?うん。すごく美味しい!」


 唐突に話しかけられて、反射的ににっこりと笑う。
 美味しいものは美味しいんだもの、自然とにやにやしちゃうのですよ?

 声の主は、私の向かい側の席に座っているレオンハルト王子。
 なぜかこっちを見て、ちょっと目を見開くようにして固まってるけど、そんなに驚くことでもないでしょ?


「……食べすぎないように。また、吐くぞ」


 ボソリと隣からルークに言われて、ぴくりと手が止まる。

 我慢してたのに、吐かせたのは誰だああああ!って思わず言いそうになったけど、言うよりも先に「ぶふっ」とレオンハルト王子が吹き出していた。
 こらっ!行儀悪いぞ?!

 そして何よりも、指摘したくせに、すすーっと小皿が勝手に私の目の前に移動してきた。
 吐くぞ。と、言っておきながら……ルークの仕業だろう。
 シラスおろし…いただいちゃうけどね!


「ほら……ああやって嬉しそうに美味しそうに食べるものだから、どうしてもいっぱいあげたくなっちゃうんだよなぁ」

「それで本人セシリアを苦しめてるんじゃ、ダメでしょ!?」


 父様まで……。
 いいぞ!母様!もっと怒っておいてっ!

 そう心で思いつつも、一心不乱にシラスおろしを食べる。
 この釜揚げシラス、すごく柔らかくて、甘い。
 また食べたいなぁ。

 ……食べたいけど、今はおかわりはしない。
 一杯しちゃったけど、もうしないっ!


(でも後日、思う存分、山盛りたっぷりシラス丼にして食べたい!)


 釜揚げシラスがこの鮮度で準備できるなら、鮮度的に獲ってすぐじゃないと食べられない生シラスも、きっとルナたちなら準備できそうだし!
 幸せすぎる……!


『セシリアの頭の中、食べ物でいっぱいだよ…ふふっ』


 給仕をしながらフレアがポツリと囁いた言葉に、周囲が笑い出す。
 美味しいんだもの、しょうがないじゃない?


「さて……食事休憩が終わり次第、再度『監獄』へ入場することになるが……」


 小さな咳払いとともに、ルークの声が響く。
 はたと我に返ると、大人たちの前には食後の紅茶……あれっ?
 子供たちの前にも、デザートが並んでいた。

 って、また私が食べ終わるの最後だし!

 でも、まぁ良いや…美味しいし。
 このシラスおろし食べたら、次はデザートだ!すぐ追いつけるもん。
 むしろこのシラスをかき込むように食べちゃう方こそ、もったいない!

 ゆっくりと味わうことに決めたから、あとはルークの説明に耳を傾けつつ、シラスおろしを堪能していた。


 ルークの説明では『監獄』の中心となる『核』がある部屋は見つけた事。
 その周辺の部屋が『精霊の侵入不可』となっている部屋があって、なおかつ、中から物音がしている事。

 ……この部屋にもしかしたら生存者がいるかもしれない事。

 その道中には魔物との遭遇が一切なかった事。

 ……生存者ではなくて、その魔物たちが室内にいるだけかもしれない事。

 そして、私とルナ、カイルザークからの聞き取りで、闇の妖精たちの宝物が高ランク変異をして生まれた、地竜のような外見をした魔物は、それほど知能があるようには見えなかった事。
 そんな魔物が『精霊の侵入不可』のエリアを作ったり、室内に閉じこもるようなことをするとは到底考えられないという事。

 つまり……。


「生存しているかどうかはともかく、悪意を持ったモノが存在していると思われる」

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