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はじまりはじまり。小さな冒険?
354、難易度高いよ?。
しおりを挟む難易度…高いよね。
あの部屋中の燭台を消して回るまでは、あのメンバーなら、きっとなんとかなる。
でもね……ヘルハウンドは子どもの遊びに乱入してくるような仔ですよ?
きっと消してしまった燭台に、隙あらば再び火を灯すのでしょう?
火がついている時のヘルハウンドは、闇の他に炎の力も自身の力の源とする。
そうなれば、元からの素早さもあって、確実に子供には捕まえられない。
では、火を消してしまったら?
火を消せば消すほどに、ヘルハウンドの漆黒の身体は闇に紛れて捕獲が難しくなる。
(でもね、力の源の一つである火が減った分、動きは鈍くなるんだ)
鈍くなるけど、姿は見えない。
しかも子供好きの悪戯っ子……獣人2人が体力ゴリ押しで頑張っても、大惨事しか想像できない。
ちょっと遠い目になりつつ、カイルザークの背を見送っていると、ふわりと身体が浮き上がる感覚があり、視界にルークのマントの裏地に使われている深緑の布が入り込む……。
有無を言わさずに、小脇に抱えられてました。
(私は、ぬいぐるみか何かですかっ?!)
せめて抱き上げるときに、一声ぐらいかけてもいいんじゃないのかしら?
クッキー握ったままなんだけど!?
「では、続きだ。今度こそ『核』まで行くぞ」
「はい…」
食べかけの、お皿に盛られていた残りのクッキーの山が、ふわりと浮くとレースペーパー事くれると丸められて、手元に飛んできた。
(さっさと移動させろって事ですよね?)
気づけば守護龍アナステシアスもそばに来ていたし、父様も母様に「行ってきます」の挨拶をして、こちらへ歩いてくるところだった。
ちなみに今回は、フィリー姉様もメンバーにプラスされた。
水の乙女が見つけてくれた『入れないけど物音が聞こえる部屋』に、生存者がいた場合の、対応役だった。
決して戦闘要員ではない……はず。
はずなんだけど、すでに臨戦態勢で、短杖を片手に構えていた。
父様がそばに来たをの確認してから、腕輪に『解錠』と命じると、朝の出発時と同じように私の足元を中心にして、赤いいくつもの魔方陣が展開されていく。
「あら……内側から見るとこうなってるのね?」
「なかなかに興味深いよな」
幾重にも複雑に重なり合う、赤い魔法陣を内側から見るのが珍しいのか、魔法陣をガン見の父様とフィリー姉様。
……私は見慣れてしまっているのだけど…って、そうか!転移魔法自体が今は貴重だから、珍しい体験になるのか…。
******
転移が終了したのか、魔法陣が薄まり、周囲の景色もはっきりと目視できるようになってくると、またあのなんちゃってバルコニーの飾り彫のある、見事なサロンに到着した。
「セシリア、部屋の変更を」
ルークに耳元で囁かれて、ぼんやりと景色を眺めている場合じゃないなと、我に返る。
フィリー姉様は「本当に貴族のお屋敷って感じなのねぇ」と辺りをキョロキョロと見渡していたし、父様に至っては、いつの間に離れたのか、すでに50m以上離れた場所で、サロンの出口へと向かってズンズンと進む背が見えていた。
「フィリー嬢、手を」
「フィリーでいいわ」
守護龍アナステシアスが恭しくフィリー姉様に手を差し伸ばすと、同じく姉様も我に返ったのか緊張感のある面持ちで、小さく頷くとそっと手を添えた。
「……って、父様は良いのかしら?」
「あの子は大丈夫でしょう?好きで先行してるんだから、放っておこう」
にこりと守護龍がその優美な顔に、優雅な笑みを浮かべる。
私からは、今にもダンスを踊り始めそうな雰囲気にすら見える2人に……いや、だって貴族風のお屋敷だし、フィリー姉様はそこそこ小ざっぱりした服装とはいえ、しっかりドレスを着てるんですもの!
なにが始まるのかと、思わず見惚れていると、頭をポンとルークに撫でられた。
「セシリアが命じないと、なにも…始まらない…」
「あっ……!」
そういうことか!と合点がいった。
つまり、部屋の構造を変えてみろと。
ただ、何かあっては危険だからの、フィリー姉様の保護…と。
慌てて『腕輪』に……あれ?なんて命じればいいんだろう?
『腕輪』を見つめたまま考え込んでいると「好きに願えばいい…」と、ルークに言われたので、好きに……。
「お菓子のおうち!」
私の声は、静まり返った天井の高いサロンに、自分の声の反響を感じるほどに、大きく響き渡った。
さて『監獄』の反応は?と、じっと壁を見つめているのだけど、特に反応はなさそうで徐々に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「…ふっ。お菓子のおうちっ!あははっ!可愛すぎるわっ」
「子どもらしくて良いんじゃないかな?ふふっ」
フィリー姉様と守護龍アナステシアスが笑っている。
(……明らかに違う内装って、ここで和室なんて考えたらとんでもないことになりそうだし、魔導学院風なんて考えても、どうしてそれを知っているのか?という話になってしまいそうだし…あからさまに監獄風なんてのは絶対に嫌だし)
そう考えたら、他に浮かんできたイメージがこれしかなかったんだから、しょうがないでしょ?
……サロンの出口付近で、ドアの向こうの警戒をし始めていたはずの父様の背が少し前屈みになってふるふると小刻みに震えているのがわかる。
父様まで……もう、素直に笑ってちょうだい。
「変化は…ないか……?」
そうルークが呟いたのを合図にしたかのように、部屋の広さはそのままに景色が歪み始める。
それはほんの瞬きの瞬間だったのだけど、貴族風の屋敷が一転、目が痛くなるほど壁一面カラフルな、可愛らしいお菓子で埋め尽くされた部屋へと変わっていった。
「あら……確かにお菓子のおうち?ね?」
「……見てるだけで紅茶が欲しくなるね!」
さっきまでの笑いはどこに行ったのか、フィリー姉様と守護龍アナステシアスが感心でもするかのように、周囲を物珍しげに観察し始めた。
しっとりクッキーの壁にアイシングの装飾、色鮮やかなアンジェリカやドライフルーツがアラザンのトッピングとともに、キラキラと宝石のように飾られている。
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