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はじまりはじまり。小さな冒険?
360、side ユージア。美味しいお菓子たち。
しおりを挟むまぁ、講師の落ち着き払った態度のおかげで、周囲も一瞬、呆気に取られた後は、すぐに落ち着いて講義の続きが受けれたのだそうだけど……。
ほっとしたら急に猛烈な笑いがこみ上げてきて、我慢するのに一苦労だったらしい。
「いや、だってさっ…!目の前に真っ二つに切り裂かれた机と、大きくえぐられた床があるのに、講義内容が『流行のお菓子』なんだよ?形状やら食べ方とか……もう、集団で現実逃避してる様にしか見えなくなっちゃってさ…はははっ。あれはキツかった」
「それで笑ってたのか……私はてっきり、ユージア君が逃げる時に、しっかりとお菓子を持って逃げてたのが見えて…妙に笑えて。しかもさ、窓際に置かれてた、余ったお菓子を入れてた小箱まで、持って行ったでしょ?」
「あれっ……バレてた?」
「うんっ…!ちゃっかりしてるなぁって思ったのと、戦いのプロをおちょくる勢いで余裕の動きに見えちゃったら、とても滑稽で…」
お菓子を、くすねてたのがバレてたとは……。
ま、後で有効利用させてもらったけどね。
美味しかったし、体力回復…じゃなくて気持ちの安定剤には使えたと思うよ?
「でも、あの襲撃を見てから、私は真面目に護身術の勉強始めたんだよ。自分もだけど、雇い主が襲われた時に、どうにか切り抜けられる様にって」
だって、怖かったし。と笑う。
(襲撃する立場で見れば、屋敷の人間なんて、主人やターゲット以外は置物と同じだ。なんの価値もないから、邪魔なら割ってしまえばいい……自分がそんな運命を辿らないための、護身術なのだろう)
そもそも、メアリローサ国は辺境の国であるが故に、とても平和な国だ。
隣国との関係にも恵まれている。
(まぁ、もし恵まれてなかったとしても、お互いに派兵して、進軍できるほどのルートがないから、揉めようもないんだけど)
治安も良い。
魔物も、『守護龍の加護』のお陰で『死の森』に近づきさえしなければ、魔物も少ない。
よほど無謀なことをしない限りは、王都から離れた辺鄙な村の人間ですら、命の危険を感じる様なことは滅多に無い。
そんな国で感じてしまった、命を失うかもしれないという恐怖。
申し訳ない……。
護身術を始めるきっかけとなったのは、ある意味良いことなのかもしれないけど、それでも、申し訳ない気分になる。
……不可抗力だけどさっ!
そして、誰も怪我人が出なくて良かった。
ちなみに、僕が即座に外へ逃げ出したのは、間違った判断ではなかったようで。
騎士団員たちは、僕がいなくなったのを確認すると舌打ちをして、そのまま退場していったそうだ。
あれは怖かった、ヤバかった、と、一通り興奮気味に話すと、それぞれ落ち着いてきたのか。小さく息を吐くと視線をノートに向け始める。
「私もそういう一芸、増やさないとなぁ。良い雇い主見つけられないし!」
「じゃあ古代語が一番『芸』になりそうだよな」
「難しいけど…読めたら格好良さそうだ」
「そうだな…格好はともかく、古代語が一番堅実だと思う」
自分に言い聞かすかの様にぶつぶつと、呟きながら課題をこなしていった。
こんなに喋りながらだったのに、1人でやるよりは進みも早く、半分まで終わらせる予定が、夕方には1冊の最後のページに到達してしまった。
一応、この1冊で基本的な文字は全て覚えられる様になっていた。
ただ文法や文字列となると、今の言葉とは違った言い回しや使い方がある様で、これで古代語完璧!という事にはならないらしい。
「……なぁ、この最後のやつ、どう解くんだ?」
「あぁ…これね。巻末のテストだよ」
みんな同じくらいのペースで進んでたみたいで、課題を書き写したノートを大事そうにしまいにいく者、ついでにお茶を入れてきてくれた者と、まぁ、それぞれが一息ついた後で最後のページを見て、固まっていた。
「テストって……魔法陣に見えるんだけど」
最後のページは文字列ではなくて、円形の図形に不思議な図形や数字、そして文字列が並んでいた。
……どこからどう見ても、魔法陣です。
「うん、魔法陣だね。えっと……それは紙にそのまま写すんじゃなくて、数字の部分が課題のページを示してるから、そのページの文字に置き換えていくんだよ」
「魔法を使えなくても、魔法陣があれば使える魔法があるって聞いたことがあるんだけど…逆に、私が魔法陣を作っても、発動するのかな?」
3人が巻末の課題に、顔をしかめていた意味をやっと理解した。
彼らは魔力測定で『魔力なし』とされた子たちだから、魔法陣を書いても発動させることができない。
つまり、丁寧に完成させても、合格なのか不合格なのかが、わからないのだ。
「するんじゃないかな?低級魔法だし。もし発動しなかったら、僕が発動させるし、大丈夫だよ」
「よし!書くぞ!!」
「あ……でも、丁寧に書いてね?これ、なんでテストが魔法陣なのかって理由が『ちゃんと読める文字か?』ってところなんだよ。図形や文字の形が崩れてると発動しないから……」
説明している最中に、どん!と、隣から衝撃と爆風を受けた。
隣に座ってたのは、最年少で青い髪の……。
「大丈…えっ!…ちょっと?!」
「ああ、びっくりした!描き上げて、触ったら爆発したよ?!」
怪我はないか?と振り向いた先、青い髪のルームメイトの頭髪から、ぴょこりとカイルザークのケモ耳の様な、白くて真っ直ぐな長い耳が生えていた。
どう見ても可愛いウサギの獣人になってしまっていた。
……青髪の彼は人族だったはずだが?!
思わず愕然としてしまいかけて、我に返る。
彼の席にあった、用紙には……走り書きの、メモの様な歪な魔法陣が描かれていた。
適当に描いちゃダメって…言う前に描いちゃってたもんなぁ。
どうしよう、これ……。
「むしろこっちの方がびっくりなんだけど…ぶぶっ」
「あ…ああ、これは、危ないね…。うん、あぶな…ふふっ。気をつけて描かないと」
向かいに座る年上2人組は、平然を装いたいのにもかかわらず、こみ上げてくる笑いに、どうにもできなくてふるふると小刻みに震えてしまっていた。
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