私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
368 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

368、生まれ変わるために。

しおりを挟む



「……お前も、眠る時間か。助けてくれてありがとうな」


 父様が、目を瞑ったまま微動だにしない魔物の、大きく長い鼻面をポンポンと、馬でも褒めるかのような仕草でお礼を言う。


「良い子なら、このままでも良いのでは?結果的に、命を奪ってしまうというのは、気がひけるわ」

「それはダメだよ。この子は瘴気によって生まれてしまったモノだから、生物としての営みができない。それに、今は浄化された状態だから良い子かもしれないが、またすぐ瘴気の影響を受けて、本意ではない殺戮を繰り返す魔物に戻ってしまうんだよ?」


 フィリー姉様から、意外にも優しい言葉が出たが、即座に守護龍アナステシアスに却下されてしまった。

 今生き延びても、自然の法則を歪ませて生まれてしまったから、同族がどこにもいない。
 守護龍の強烈な浄化によって、一時的に瘴気とは無縁の存在になってはいるけど、そもそもが瘴気という悪意によって生まれているから、これから生きていくための知恵も機能もない。
 そして、瘴気に抵抗する術すらもたないから、すぐにその身に瘴気を集めてしまい、凶暴化してしまうのだろう。


「そもそもだ、コレは妖精たちによって癒されていた大切な『宝』だ。どんな形であれ、返すのが道理だろう?」

「そうね……この子もそれを望んでいるのなら」


 これだけ大人しいのなら…良いと思ったのにねぇ。と、大きな鼻面を触る。
 フィリー姉様に触られて、うっすらと目を開けると、また興味なさげに閉じる。


「それにね、フィリーには悪いんだけど……この宝の中にはね、私の古い友人がたくさんいるんだ。今度こそ、大切に休ませてもらえるかい?」

『もちろんです。仲間たちで、全てが癒えるまで、寄り添います』


 仔犬が『きゅうぅ』と鼻を鳴らすように、返事をすると、守護龍も「頼んだよ」と、頭を撫でた。


「ねぇ、この子が癒えたらどうなるの?」

『次の生へと旅立つことになります』

「生まれ変わるってことね?」

『はい』


 フィリー姉様の問いに仔犬は、穏やかに答えた。

 ──そう、闇の妖精たちのお仕事は、生まれ変わる準備をする事。
 終わるためのお仕事です。

 光は……誰でも知ってるんだけどね。
 闇はあんまり知られていない。というか『光=聖・闇=穢』のイメージが浸透しすぎてて、悪い印象しか浮かんでこないっていう悲しさがあったりする。
 光と聖も、闇も穢れも、まったくの別物なんだけどねぇ。


「ヘルハウンド…頼む」


 父様の声に、チラリと仔犬が私へと振り返る。
 許可を求めているように見えたので、こくりと頷いて見せた。


『かしこまりました』


 魔力足りるかな?大丈夫かな?ルナも瘴気に飲み込まれかけたし、同じようにこの子が負けかけたら助けないと!
 そう思いつつ、でも、ルークにしっかり小脇に抱えられちゃってるから、どうにか助ける手を考えないと……。

 再び竜っぽい魔物の前へと、しっぽを振りながら向かっていく姿を見つめる。


『では始めます。アナステシアス様、よろしくお願いします』


 くるりと振り向いて守護龍アナステシアスに頭を下げるような仕草をすると、竜っぽい魔物へと向き直る。

 ぶわり。と、仔犬の輪郭がぶれたように見えると、次の瞬間には山のように大きな犬の姿…元のヘルハウンドの姿になった。

『おやすみなさい』と、ヘルハウンドの声が響く。

 それを合図に部屋の空気が一瞬にして澄んだ気がした。


 ……ただただ、静謐せいひつに。


『核の再構築』を命じたそのままの、真っ白な部屋では時間の経過が分からないのに、突然真夜中にでもなったような静けさを感じた。

 今まで微動だにしなかった竜によく似た魔物は、すっとその首を上げると、ヘルハウンドの真正面へと向き直り、そしてまた眠りにつくかのように、地面へと首を下ろし目を瞑る。
 徐々に身体が白黒のテレビでも見ているみたいに黒化していく。


「ねぇ、魔物とはいえ、あの子、苦しくないかしら?」

「……深い眠りについただけだから。本来の姿に戻っていくだけでね、痛みも苦しみも無いはずだよ」


 守護龍アナステシアスの説明にホッとした表情になるフィリー姉様。

 ご心配ごもっともな風景が、実は目の前に広がっていて。
 ヘルハウンド同等までに漆黒の塊となった魔物であったモノは、ほろほろとふわりふわりと欠片を散らしながら、ゆっくり崩れ始めていた。

 文字通り、ほろほろと身体が崩れていくのだもの、痛いかどうか心配にもなるよね。

 初めて見る光景としては、なかなかに衝撃的だとは思う。


「あの仔犬……変な魔力の子だと思ってたけど…こんなに立派な…霊獣?だったのね?」

『フィリー様、彼は妖精です』


 その声に振り向くと、ルナが何故か両手に山盛りの薬草を抱えて現れた。
 薬草の束を足元に置くと、こちらへ走り寄ってきた。


「あ…ルナ、おかえり?」

『うん、ただいま!セシリア!頑張ったねぇ』

「今は、ヘルハウンドが頑張ってるよ」

『後処理が終わったから、ヘルの手伝いに来たんだよ』


 ニコッと笑うと、守護龍アナステシアスに軽くお辞儀をして、ヘルハウンドの傍へ向かう。
 ヘルハウンドもルナに気づいたのか、漆黒の身体で唯一、燃えるように赤く光る瞳がチラリとこちらへ向き、尻尾が大きく振られる。
 嬉しいのかな?






 ******






「あの仔犬、あんなに立派なのに、妖精?ルナは…?」

『私は、精霊です』

「……あの子が妖精なのに?」


 フィリー姉様が不思議そうに首を傾げる。
 ぶふっ!と、噴き出す音とともに、崩れ落ちる魔物のそばにいた父様の背が、小刻みに震えていた。


『何が言いたいんですか…?』

「なんでもないわ」

『……良いですけどね。手伝ってきます』


 ルナはヘルハウンドの隣に立つと、すでに崩壊を始めている魔物だった漆黒の塊に手を当てると……崩壊が目に見えて早くなっていった。
 はらりはらりと小さな欠片で崩れていたのが、ぽろぽろと。

 欠片は崩れて落ちた先、地面を透過するように深く深く落ちていった。


「あら、ルナが手伝うと早いのねぇ」

『ま、良いんですけどね……本当に』


 フィリー姉様……ルナをいじめないであげてください…。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。 魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。 でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...