私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

370、とりあえず、落ち着いて。

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 私とルークは、ここでの出来事を知らないから……まぁそれでもルークなら率先して探索の手伝いに動くかと思ったのだけどね。

 倒木となってしまった聖樹の成れの果てを視界に入れた途端に、茫然自失となってしまったので、父様に『少し休憩しとけ』と、放置されていた。


(聖樹をエルフはとても大事にするから…しょうがないよね)


 ルークに抱っこされてるとはいえ、少し肌寒い。
 風が、冷たく刺さるものになってきていた。


(まだ春だもんなぁ『避難所』では季節先取りみたいに、梅とかシラスとか食べちゃったけど、王都近辺はそこまで暖かくなってないんだよねぇ)


 多分、時刻的には3時のおやつの時間を過ぎたくらいかなぁ。
 春のうちは4時になると一気に冷え込んで、5時には日没で真っ暗になっちゃうんだよね。

 ルークは切り株となってしまった聖樹の根本まで近づくと、その場にそっとひざまずく。


「形あるものは…いずれ消えてしまう。理解しているが…こうも立て続けに起こると……流石に、辛いな」


 間近にあった端正な顔が、悲しげに歪み始めると、顔がどんどん近づいてきて……。

 これは泣き虫ルーク発動だろうか?


(魔導学院に飛ばされた時に、散々目撃してしまったけど、それでもやっぱりあまり見かけるような表情ではないからね。ルークってばどんな表情でも絵になるほどに綺麗だから…思わず見惚れてしまう)


 って、ちょっと待って?!
 みんなが周囲を探索中とはいえ、泣き顔を見せるのはよろしくないよね。

 いや、その前に、感情に任せてぎゅーっとされて泣かれたら…私、窒息するんじゃなかろうか?!

 現に私の頭を支えていた腕が、ホールドするように後頭部を押さえて、引き寄せるように力が入り始めているし、ルークの悲しげな美貌も近づいてくる。


「ルーク!ルーク!よく見て?根本!ユージアも『再生しようとしてた』って言ってたでしょう?この聖樹は生きてるから!悼む前に応援してあげてっ?!」


 これはやばい!と、必死に肩に手を伸ばして、ぺしぺしと叩きながら、もう片方の手で、絶賛接近中のルークの顔を抑える。

 指差した先には、あの時、小さな芽になるのかな?と思っていた膨らみがあった場所から、しっかりとした枝が…新芽がいくつもいくつも、芽吹いていた。
 これから盛夏に向けて、一気に成長するだろう勢いをしっかりと、持っているように見えた。


「ルーク…大丈夫だから。ほら、立派な新枝シュートがいくつも出てるじゃない。……ね?この聖樹は大丈夫。ちゃんと勢いがあるから、絶対に枯れない」


 大丈夫大丈夫…。と、子をあやすように肩をぽんぽんと…ってこれ、ユージアがセシリアわたしに良くやってたやつですよっ!


(子にあやされてる大人って、どうなの?!)


 ルークは涙をこらえているのか、しばらく目をぎゅーっと瞑って、頬を私の額に押し付けたままだったが、なんとか持ち直したのか、ゆっくりとまぶたが上がっていく。

 吸い込まれそうなほどに綺麗な琥珀色の瞳が間近に……ってやっぱり目尻に涙が見えた。
 思わず指で拭ってしまったけど、本当なら、思いっきり抱きしめてあげたい。
 ……寂しいのは、わかるから。


「大丈夫だから……泣かない。今は、一人じゃ無いでしょう?」


 今までの生活にプラスして、カイルザークやユージアだっている。
 これから、いくらでも友人なら増やしていけるんだ。

 前向きな発言をしつつ、でも、喪失感はどうしようもないんだよね……。
 そばにいた人ほど、辛い。
 旅立つ側も未練だけど、遺される側も辛いんだよ。


(……見送った後は、辛かったもんなぁ)


 辛い辛いばかり言ってる場合じゃ無いってわかってたけど、それでも辛いんだもの。
 もういないって分かっていても、どこに行っても、すぐに気配を探してしまう。
 この癖がどうしても抜けなくて、その度に、もういない事を思い知らされて……。
 ……勝手に傷ついて。


「なんで、セシリアキミまで泣きそうになってるんだ?」


 覗き込んだ状態のまま、きょとんとしているルークが見えた。
 黒い艶髪がさらさらと流れ込んでくる。


「…なんか、色々思い出しちゃって……見送る側は、辛いなぁって」


 うっかり涙ぐみそうになって、鼻の奥がツーンとなってしまった。
 もう!つられて前世むかしのことを思い出しちゃったでしょ!


「理解できるなら…置いて行かないでもらいたいものだ」

「そんな無茶な……」


 ふっと淡い笑みを浮かべると、額にキス……とりあえず少し離れようか?
 そもそもエルフであるルークに『置いていくな』とか言われても、無理な話だからね?!
 明らかに寿命の長さが違うでしょうに……。


「キミさえ、そばにいてくれたら…それでいいのに」


 いや、そんな切ない顔で言われましても。
 いいよいいよ~って寿命をどーんと伸ばせるわけでもないし、どうしようもないのですが。


「そばにいるじゃない」


 少なくとも、今はそばにいるよ?とルークの頭を撫でてみる。
 ……私の手が届くほどに近いんですよね。

 艶々さらさらの黒髪、そして端正な顔に浮かぶのは、なぜか思いっきり呆れた表情で…あれ?


「……キミが、色々と読めない子だったのを…失念していたよ」

「うぶっ…!?」


 それはそれは大きなため息のあと、ぎゅっと抱きしめられてしまった。
 ぎゅっと…キツイです。
 後頭部に回された手でしっかりと胸に顔を押し付けられて、身体も腰に回された腕でぎゅ~っと。

 うん、やっぱりユージアと違って胸板厚いなぁ。
 しっかり筋肉ついてるって感じだ。


(ユージアがぎゅってしてくれるのも好きだけど、ごりごりと洗濯板っぽく肋骨に触れてしまうのがね…ちょっと気になってた)


 ……って、それどころじゃないっ!!
 窒息するっ!
 締まってるからね?!

 軽く命の危険を感じて、じたばたと、もがき始めるとクスクスと笑い声が振動として伝わってきた。


「さて、このままだと、聖樹の心配どころか、聖樹に心配されてしまいそうだ」


 笑いながら、抱き締めから解放される。
 ちょっとくらくらしつつも、久しぶりに自分の足で立った気がする。


「聖樹はルナから餌をたくさん貰ったようだから…そうだな…消化不良にならないように、強めの浄化の魔法を」


 そう言うと、杖を手に呼び出して、浄化の作業に入ってしまった。
 相変わらず魔法の手際がいい。

 周囲の空気が、風も虫たちも、息を潜めて静まり返るような不思議な感覚を覚えながら、私は切り株となってしまった聖樹の様子を、じっくりと見るために近づいた。
 艶のある照り葉をこれからたくさん茂らせるのだろう、新枝シュートの側面にはたくさんの葉の赤ちゃんのような突起がある。

 探索が終わったのか、遠目にフィリー姉様と守護龍アナステシアス、そして父様がこちらへ向かってくるのが見えた。


「……セシリアには、魔法の代わりに歌ってもらおうかな。聖樹は歌が大好きなんだ」


 これで帰宅かな!と、思っていたらなんとも予想外な無茶振りをいただきました。
 私、歌ったこと、ないんですけどっ!?
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