私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

371、一緒に踊りましょう。

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 珍しくにっこりと満面の笑みで、口調まで弾むように柔らかくなって…歌のリクエストですか?!
 遠目にフィリー姉様が、ルークの笑顔を見てしまったようで固まっていた。
 ……まぁ、そうなるよね。

 本当に素敵な笑顔なんだもの。

 って、そこじゃない。
 私まで見惚れてどうするんだ。


「えぇぇ…ルークの方が上手でしょ…」

「そこにあるのは新芽だからな、子供の歌が大好物なんだ」

「むぅ……音が外れてても、笑わないでよ?」


 歌…歌……と、何を歌おうかと考えて、そもそも何を歌ったらいいのか。
 前世にほんの童謡は穏やかで素敵だけど、私以外は誰も知らない歌になってしまう。

 できればルークも知ってる歌がいい!と、思ったけど、そもそもルークが知ってる歌を私が知らない。
 こちらの世界の童謡もあるけど……私が知っているのは、1000年以上前の記憶にある童謡だ。
 今も変わらずに、歌われているかどうかが怪しい!

 あ……ひとつだけあるなぁ。
 これならきっと一緒に歌ってくれる。
 聖樹にしっかり聞こえるように、気持ち魔力を込めるようにして歌う。


『さぁ、ワルツを踊りましょう。たたたん、たたたん、ステップ踏んで。くるり、くるり、軽快に。ふわり、ふわり、楽しげに……』

「あら……可愛らしいわね。どこで覚えたのかしら?ダンスの手習歌てならいうただわ」


 フィリー姉様が知ってた!…って事は、今も歌われているのかな?

 ちなみにこれは、平民の間で歌われている童謡で、それこそ、この歌でダンスの練習を始めるんだ。
 社交界なんて、貴族だけの世界だろうけどね、平民だってダンスは踊れるんです。

 お祭りで、屋外だけどダンスパーティーだってあるし、一般常識と言う意味で、学校でも習うんだよ。
 しかも2種類も!

 ……まぁ、シシリーの時は…全く役に立たなかったけどね!
 そもそも踊らないし、踊る相手もいなかったからね。

 ああ、でも学園長に誘われて行ったパーティでは、役に立ったと思う。
 恥をかかない程度には、動けたから。


「手習歌か……懐かしいな」


 嬉しそうにルークの口角が上がる。
 うん、優しげで素敵な笑顔ね。

 チラリと足元を見ると、聖樹の根本から芽吹いていた新枝シュートが、風もないのにゆらゆらと揺れていた。


(ああ、本当に子供の歌が好きなんだね……私の歌なんかで良いのなら、出血大サービスしちゃうよ!)


 聖樹の前へ少し進んで、しゃがみ込む。
 エプロンドレスの裾をちょこんと摘んで、立ち上がる。
 カーテシーをしながら、下がりつつステップを踏む。


『しゃあ、ワルツを踊りましょう。たたたん、たたたん、しゅてっぷ踏んで。くるり、くるり、軽快に。ふわり、ふわり、楽しげに……』


 ……なぜ噛むかなぁ。
 こういう時くらい、格好良くきめさせて欲しいんだけどっ?!

 まぁいいや、気にしない。

 歌の通りにくるりと回転してみせて、手を差し伸べる。
 差し伸べた先は、聖樹だから…一緒に踊ってはくれないのだけどね。

 そう、今歌ってる手習歌は、女性リードで始まる歌なんだ。

 最初に『踊りましょう?』って誘うの。
 これを2回繰り返してから、通常パートが始まる。


『さぁ、ワルツを踊りましょう。たたたん、たたたん、ステップ踏んで。くるり、くるり、軽快に。ふわり、ふわり、楽しげに……』


 くるりと回って、優雅に手を差し伸べる。
 でも、今回は一緒に踊ってくれる相手はいないから、そのまま手をゆっくりと上に上げて、そのまま胸の位置に戻して……と、戻しかけた手を背後からぐいっと掴まれて引き寄せられた。

 結果的にくるりと回って、後ろにいたルークと向き合うようになってしまったのだけど。


『さぁワルツを踊りましょう?あなたの手に手を、願うならあなたの心に……』
「さぁワルツを踊ろう。キミと手を繋いで。叶うならキミをこの手に……」


 目の前にはルーク。

 ……ああ、歌ってくれた。

 手を引かれたことは予想外だったけど、歌ってくれたことが嬉しくて笑みがこぼれる。
 私の笑みに反応するように、その端正な顔に、にこりと優雅な笑みを返してくれた。

 重なるように歌う歌詞は、男女それぞれ違っていて。

 私は手を差し伸べる。ルークはその手をすくうようにつかむ。
 もう片方の手を、私はルークの胸に…って、体格差っ!!
 届かないわよっ?


(ちなみに本来は女性は男性の胸に手を当てて、男性は女性の腰に手を回す……のだけど、どちらも届きませんね!)


 そもそも、女性だけの手習歌のつもりだったから。
 ルークが一緒に歌ってくれたらいいなぁ。とは思っていたけど、まさか一緒に踊ってくれるとはっ!

 まぁしょうがない『胸に手を当ててるつもり!』って事で勘弁願おうかな?とルークに向けて手を伸ばす。
 正面のルークは、聖樹に向かってひざまずいた状態で、私が手を伸ばしても届くのは膝かな?肩かな?といったところで……。

 私の手と同時に、ルークの手も伸ばされて。
 腰に手が当たると同時にくるりと景色が回転しながら浮かび上がる感覚とともに視界が高くなる。

 ……って、またお姫様抱っこ再来ですよっ!


「やだ、ハンス先生ってば美声っ!セシリアってば……うん、頑張ったわね?」

「フィー…褒める相手を間違えてるぞ……」


 うん、いつもの事ですよ。
 シシリーの時むかしもこうやって、うっとりとした声でみんなが褒めるのはルークだから。
 それだけ素敵なのは本当だから、しょうがない。


「あらっ……ごめんなさいね?初めて聞くものだから、つい…」

「フィー…セシーが歌ったのも初めてなんだが…」

「あらやだっ!そうなの?!」


 そうです。
『セシリアとして』という意味であれば、父様の指摘通り、これだけしっかりと歌ったことはなかったのでした。

 まぁ、それはそうだよね。


(滑舌の悪さを散々気にしていて、喋るにも必死に言葉を選んで、なんとか喋っていたのだもの)


 歌ともなれば、そんなお喋りをさらに旋律に乗せなくてはいけない。
 無理無理……。


 それにしても、本当に久しぶりなのに、ルークの声は朗々としていて一緒に歌いやすかった。

 シシリーわたしは歌いながらも、心ここに在らずで、研究の事を考えてしまったりしていて、音を外したり、歌詞を間違えまくっていたのに、そんな間違いすら誰にも気付かれないほどに、ルークのフォロー…というか歌がうますぎだったんですよ。


(だって、普通なら、男性より女性パートの方が主旋律を担っていることが多いわけで、そこが外れてるんだよ?)


 思いっきり不協和音となって、違和感バリバリに聞こえてしまうはずなのに。
 それすら気づかれない、シシリーわたしの声の存在感の無さってどうなんだろうね?

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