私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

372、聖樹の丘で。

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『大きくステップ、小さくステップ。さぁPartyが始まるよ』
「小さくステップ、大きくステップ。さぁPartyの始めよう」


 ……本当ならここで、大きくS字を描くようにステップを踏みながらくるくると踊りだす。
 女性側の大きくステップのところは、回転しながら大きく動くから、ドレスがふんわりと広がって、見ていてとても素敵なんだ。
 男性側の大きくステップも動きが良く見えて、スマートな動き、足の長さが強調される感じで、すごく格好良いんだ!

 学生時代むかし、ルークと練習していると、見惚れている人が多発していた。
 もちろん、ルークにね!シシリーわたしにではないよ?


(まぁ、今はルークにお姫様抱っこの状態で歌ってるんだけどねぇ…)


 ダンスパーティーが近くなると、魔導学院のそこここでダンスの練習が始まるんだよなぁ。
 手習歌が一番リズムがとりやすい上に、ダンスの基本がそのまま歌になっているから、大体これを口ずさみながら踊る。

 シシリーわたしも、1人で結構練習したんだよ?
 ……誰からも誘われなかったけど。

 ある程度上達してくると、ペアでの練習が必須になってきちゃうから、試験直前になるとペアの練習が増える。
 試験…つまりね、一般教養の単位にしっかりとダンスが入ってるんだよね……。
 これをスルーすると、大変なことになっちゃうから、平民出の学生たちはこの時期必死になる。


(勉強はできたのに、ダンスが踊れないから留年とか、笑い話にもならないからね?)


 流石に貴族の子息たちは、夜会とかあるというか、ダンスの単位が増える学年になった時点で、社交界デビューデビュタントは済んでるし、踊れる。
 すんなりクリアしちゃうから、この時ばかりは家柄の妬みとか関係なしに、羨ましくなる。

 まぁ、貴族の子息たちだって、社交界に向けて相当練習した結果なのだけどね。

 って……今世いまセシリアわたしも貴族だったわ。
 レッスン嫌だなぁ……。
 壁の花でいいよ、本当に。


(ずっと練習で歌い慣れた手習歌だから、こうやって考え事をしながら歌っちゃうんだよなぁ……)


 歌は終盤へ近づくと、少し難しいステップになって、礼をして終わる。
 シシリーの時むかしは、ここの部分が1人ならちゃんとステップを踏めたのに、相手がいると必ず失敗するという、悲しい状況になっていた。


(綺麗にステップを踏もうとすると、足にまとわりつくドレスが邪魔でバランスを崩すし、ドレスが纏わり付かないように大きく足捌きをすると……相手の足まで払うというね)


 どう加減しても、必ず、どちらかがバランスを崩すというのが、ダンスの講義時点での状況で。
 そこから試験までにしっかり練習しようにも、練習を手伝ってくれる相手がそもそもいない。
 どうしたものかと頭を抱えていたら、手伝ってくれたのがルークで。
 散々蹴りましたよ、ルークの足!

 それでも合格まで、懲りずに付き合ってくれたのは感謝しかない。


(……結局、足払いをかけるような状態になってしまうステップは直せずに、ルークが足をかけられない様なステップをすることで事無きを得たのよねぇ)


 うーん…物思いに耽ってる間に、歌を歌いきってしまった。
 ルークの背中越しに、守護龍アナステシアスの拍手とお褒めの言葉が聞こえていた。

 私の視界からでは父様とフィリー姉様の様子は見えないけど、どうやら唖然としているようだった。
 これはアレだなぁ。
 ルークの歌声に聞き惚れてるんだと思う。
 昔と変わらずの美声だったし。


「初めての割には、うまいじゃないか」

「昔…散々練習したから」

「今度は蹴らないでくれると…ありがたいが」


 頭を胸に寄せられるようにして、額にキスが落とされる。
 そのまま耳のそばで小さく囁く。


「セシリア、鈴の予備は…まだあるか?」

「あるよ?どうしたの?」


 鈴は……悪用されるのが怖いので、ずっと持ち歩いていた。
 鈴付きメモ帳の、ポッケに詰め込んで。
 単純な魔道具マジックアイテムでも、他人が使ったら、何か悪用できてしまうかもしれない。

 そうやって被害者を増やさないためにも、肌身離さず。

 手にメモ帳を呼び出すと、鈴を一つ取り出して、ルークに渡す。


「歌が…歌えるなら、今度から、楽器を用意しようかと思ってね…ふふっ」

「ルークの歌は、素敵だから楽しみね」


 楽器につけるんだ。と、笑ってみせる。
 素敵な歌に伴奏付きとか…最高だよね!そう思っていると、眉を寄せられてしまった。
 あれ、嬉しく無いの?


「キミが供に・・、歌うなら、だ」

「えぇぇぇ……」

「キミの歌は…聖樹の…お気に入りのようだからな。また歌ってもらえると嬉しい」


 ルークに言われて聖樹へと振り向くと、20センチほどの新枝シュートが私の背丈を超えるほどに、真っ直ぐと伸び上がっていた。


「うそ……」

「聖樹がキミの応援に応えたんだ。すごいだろう?」


『大きくなぁれ』『早く復活しますように!』と、心では思ったけど、ここまでもはっきりと効果が出てしまうと、ちょっと焦る。


「ハンス……これは『セシーが聖女だから』気に入られているのか?」

「いや…これはセシリア個人の声を気に入ってるだけだ。波長が合うのか、よほど心地良いみたいだ。……種を託すくらいだから、そうだろうとは思っていたが」


 そりゃぁ…父様もフィリー姉様も唖然となるよね。
 父様の声も心なしか、うわずったままだったし。

 そして『種を託す』と言われて、種の存在を思い出して慌ててごそごそとポケットをあさった。


「……ねぇ、もう無事にお家に帰れたの。だから、この種をお返しします。ありがとうございました」


 だって、王都に無事に帰るために、魔物除けとして葉っぱをいただいた時に種も渡されたのだもの。
 無事に帰れた今、これはお礼とともに返さなくちゃいけないと思ったんだ。
 本当は3個渡されたのだけど、2個は既に手元にない。

 でも残りの1個はちゃんと返すんだ。
 そう思っているのに、種が磁石のように張り付いてしまって、手から離れない……。


「よほど気に入られてるんだな。発芽の時まで傍に居たいそうだ」
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