私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

386、ぼんやりぐったり。

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 私はといえば、座ろうとしたのがまずかったのか、起こした上体を維持することすら厳しくなってきて、ぐらりと後ろに倒れ込んだ。
 いつの間にやら背に大きなクッションが当てられていたようで、後ろにひっくり返る事なく、座椅子のように上体を軽く起こした姿勢になった。

 あ~この姿勢、楽だ……と思っていると、力が抜けてしまったみたいで、それ以上は動けなくなってしまった。
 視界も霞んでしまって、遠い。


「……はい、薬を入れるから、少し上向いて口を開けて…ね?」


 ……上へ向こう。口を開けよう。思うのだけど、だるくて動かない。

 首の後ろに腕が回されて頭を支えるように上を見上げる状態にされて、もう片方の手で顎をそっとひかれて、口が開いた、と思う。

 薬が舌の上に乗せられたと思った直後に…ひんやりと、そしてふにゃりと柔らかい感触とともに、少し勢いのある水が流し込まれた。

 柔らかくて、私より少し冷たくて……冷たさが気持ちが良い。
 なにより、甘くて美味しい……これ、お水だよね?

 同時に体の熱がすーっと引いていく感覚があって、霞んでしまっていた視界も唐突にもどると……目の前に…間近に天使のような顔、じゃなくて、長いまつ毛。
 近いとか言う状況じゃなく、ほぼ密着に近くて……あれ?


(あれ……今の、何?)


 状況が理解できずに目を見開く私の間近で、伏せた長い睫毛に縁取られている瞳が開き……唇からひんやりとした感触が離れる頃には、照れたような笑みになっていた。
 ……綺麗な顔。その表情、可愛いなぁ。


(え…っと、見惚れる前に、ちょっと待って?今のってキス?いや、口移し?!)


 さっきよりずっと意識も視界もはっきりとしてきたのに、今度は急激に体から力が抜けていく。
 身体が動かせないのは相変わらずだったけど、猛烈な眠気に襲われはじめる。


(ちょっと待って!そもそも、この子は誰!?どこの子!?そして……何をしたああああっ)


 そう思っても、体は全く反応せず、目が、目すら猛烈な睡魔に襲われて……開けてられない。


「うん、よく出来ました!……すぐ良くなるから、しっかり寝てるんだよ」


 ぎゅっと抱きしめられてから、そのままベッドに寝かされる。
 寝るときに、顔にかかってしまった髪を整えてくれているのだろう、おでこに触れられている手が、ひんやりと気持ち良い。

 その手が目元をなぞり、ぽつりと悲しそうな声が耳元に降ってきた。


「……涙の跡がある。いっぱい頑張ったんだね。早く来れなくて……ごめんね」


 熱で火照った頬を両手で包み込まれる。
 ひんやりとして気持ちが良くて……かろうじて手放さずにいた意識が、さらに遠くなっていく。

 不意に、目じりにやわらかいものが押し当てられ、湿ったやわらかい感触が目元を伝う。

 抵抗も、驚きの反応すら、身体は全ての行動を放棄してしまってる今、ただただ意識だけは完全に手放さないようにと必死なのに、それすらも限界だった。


「また来るから、早く元気になってね」


 そう言うと、ベッドから離れて行ったのだろう、声は聞こえなくなった。
 ドアが開かれる音、その先から怒ったユージアの声が聞こえたような気がするけど、その先の記憶は完全に途切れた。

 ……今は、とにかく眠い。






 ******






 side エルネスト。


「あ……おかえりっ!」

「うん。ただいま?」


 ……急に隣にある、セシリアの部屋の前が騒がしくなった。
 ドアを開けて、顔を出したいところなんだけど、山と積まれた課題が終わらない。


(この課題の山ノルマの他に、外国の習慣や、特殊な言語の勉強までこなしているレオンハルト王子は凄いと思う)


 いくつかわからない場所があって、セグシュ様に聞きに行くと、その様子を笑って話されていたけど、これはシャレになっていない。

 あー……。
 気分転換って事でドアを開けて……うーん、現実逃避かこれは。とにかく頑張らないと。


「……ドアを魔法で封じるとか酷いよね……」

「ユージア、セシリアが治るまで近づくな」


 ……それでも、どうしても耳は廊下の音を拾ってしまう。


(外に……出た…いけど、出た…く、ないっ!)


 ま、出たくとも脱走癖のあるカイルザークのせいで、施錠されていて出れないんだけど。
 ……隙あらばセシリアの部屋に忍び込んでしまうから、セシリア付きメイドのセリカさんが怒る怒る。


(でも…気になるな。いっそ窓からなら……!いや、ダメだな、やめとこう)


 ちなみにカイルザークは不貞寝中だ。
 ……自業自得なんだけどな。
 課題がないだけマシだと思うんだけどね。


「は?えぇぇ……なんで?」

「セシリアのあれ、風邪じゃなくて魔力熱だから。死ぬぞ」


 ぴくりと、ペンの動きが止まってしまった。
 まぁ思考はすでに止まっていたのだけど。

『魔力熱』というのは、主に子供が罹る流行り病で、致死率がすごく高い。と、さっきの教本にも、あった。
 数年おきに大流行しては、たくさんの子供の命を奪っていくそうだ。
 ……魔力が高い子ほど悪化するらしく、逆に魔力を持たない子に至っては、くしゃみ程度で済むのだとか。

 僕には初耳の病気……まぁ、獣人で魔力持ちってだけで珍しい部類になってしまうのだから、きっと流行っても獣人には関係なかったのでは?と思う。
 ほとんど魔力持ってないし。


「げ……セシリアは大丈夫なの?」

「魔力切れで、寝ちゃったよ」


 本当に、大丈夫だろうか?
『自身で制御できないほどの魔力を持っている』と王城での属性検査で、誰かが囁いている声を拾っていた。
 そこまでの評価をされるような魔力持ちであるなら、何ともない訳にはいかないだろう。

 脳裏に、教会でセシリアが魔法で作った『あつい、かべ』と言って作り出した『障壁』が浮かびあがる。
 ……実際は炎どころではなくて、マグマの塊のようなものだったのだけど。


「薬を飲ませて、ついでに魔力も切れるまで奪っちゃったから、起きる頃には大分回復するんじゃないかな」

「奪うって……なにしたの」

「ん?ユージアが魔力熱になったら…やってあげようか?」

「その笑顔、すごく嫌な感じがするから遠慮しとく!」


 ……さすが公爵といったところなんだろうか?
 魔力熱の薬は存在しないと聞いていた。
 だから、さっきの教本にも魔力持ちの減少が進んでいるんだって書いてあったのに。
 古代、というレベルの時代には存在したらしいけど、今も薬……あるのか?
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