394 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
394、今日から頑張る…はずなのに。
しおりを挟むまだまだ春の冷たい風が、気持ちいい。
時折感じる浮遊感も、全身で感じる少し高めの温かさも……ってちょっと待って。
私のベッドに加温機能はない!
ついでに言えば、就寝中は窓は開けない!
ていうか、浮遊感ってなんだ!?
「……ぅぐっ!…っは?……え?ここ」
「あっ!セシリアおはよう!もうちょっとだからっ…そのまま大人しくしてて」
うっすらと目を開けると、突然の突風が顔に当たり、息が詰まった。
ここどこ?と聞こうとする前に、おとなしくしてろと言われて……。
出来るはずがない。
何がかがすごい勢いで追いかけてくる。
ライオンの頭、前肢、鋭利な爪が見え隠れしている。
背には鳥の大きな翼……あ、訂正する。
肩口からは山羊のような首がもう一つ生えており、しかし、その頭頂部にはありえないほどに大きく長くうねる、角が生えていた。
「ぐりふぉん…?」
「ざんね~ん!あれは合成魔獣かな~?グリフォンは鳥頭でっす!」
そう言いながら、たびたび伸ばされる一撃を軽く往なしては、樹々の間を素早く移動していく。
ちなみに今の私、黒のフロックコートの上から、おんぶ紐…の様な状態でロープで縛り付けられている。
なので、正面にはユージアの背中と移動の風に煽られてふわふわと踊る濃い緑色の髪。
横は……向きたくない。
有り得ないくらい高速で移動中だから、見たら絶対に酔う。
「さぁて、どうしようかなぁ~」
「どうって?」
相変わらず高速移動しながらの会話だったりするのだけど……このまま大口開けてる、あの魔物の餌にはなりたくないけど、撃退できる気もしない。
(ユージアの俊足に普通についていける動きをする魔物だから、私が魔法を撃っても避けられて終わるし、ユージア自身が反撃しようにも、武器は……?)
そもそも、背中にくっついてる私、邪魔だよね?!
「いやぁねぇ、どうもあれが聖樹を倒しちゃった犯人っぽいんだよね。自然生成か故意の産物かまでは知らないけど、ここ最近…ずっとあのあたりに魔物の気配があって、昨日はついに襲撃までされちゃったらしくてね。見張りに怪我人が出たって聞いたから、ちょっと様子を見にきたら……遭っちゃった☆」
「まさかのエンカウント!?」
「聖樹付近を縄張りにしてるっぽいから、どのみち討伐はしないといけなかったんだけど……魔物連れて、今の時間に王都に逃げ込んでも、戦力いないよね?」
「あはは」と乾いた笑いをあげながら、走り続けるユージア。
私はというと、疾走プラス攻撃や障害物を避けるための激しい上下移動の連続で、すでに気持ち悪いを通り越して重力の感覚がなくなっていた。
「このまま目眩し使って、気配を消して逃げちゃうってのも手だけど、そうするとこいつは縄張りに戻るから、見張りがまた襲撃されるだろうしっと!」
話している最中にも、背後から何かが飛んできたのを、すんでで避ける。
避けた物を見ると、地面を抉り、地を焦がしたかのように煙が上がる。
毒か強酸か……どちらにしても、接近はしたくない技だ。
「どうするの……」
「いやぁ、武器が、ねっ!まさか遭っちゃうとか思ってなかったから……護身用ナイフだけなのよね、ほら、スリングショットもあるけど…狙うタイミングなさそうだし。討伐は無理☆……というか、あいつ即死クラスの毒持ってそうだから、お近づきになりたくな~い」
ひとまずは素早さではユージアが勝っているとはいえ、私を背負ったままの動きではかなり、動きが制限されていると思う。
……体温上がってきてるみたいだし、持久戦もそろそろやばそう。
(精霊たちを呼ぶか…いや、魔法でなんとかなる?)
とにかく、私も何か手を考えなくちゃ!と、杖を呼び出そうと手を上げた瞬間。
耳がキーンと気圧に負けた時のように、耳鳴りを始めて……。
『……全力疾走で、どこに向かってるのかしら?』
「えっ……あっ!あぶないっ!」
ふと、突然……透き通る様な高めの可愛らしい声が響いた。
そして、樹々の隙間を縫う様に逃げていく視界の端に、白いワンピースの小さな女の子が、ふわりと歩いているのが見えて……。
もちろん、合成魔獣も少女に気づかないわけもなく、即座にターゲットを変更すると、地面に降り立ち、女の子に向かってその凶悪な爪の生えた前脚を振り上げ、合成魔獣は……その動きを止めた。
「は、大丈夫だよ。セシリア、よく見て。あれは風の乙女だっ…はぁ…」
そう言いつつも、ユージアは女の子の姿が見えた瞬間、護身用の短剣を構えて踵を返そうとしていた。
……助けようとしたんだと思う。
周囲に湧き上がり始める霧を纏うようにして、黒髪のエルフが現れた。
ルークだ。
さくさくと、キメラを中心に立ち上がった霜柱を踏みながら、精霊たちに話しかける。
「……間に合った…な。風の乙女……それと、水の乙女ありがとう…」
『どういたしまして!』
すっと霧が集まり形を取るようにして、カーテシーをしながら、青を基調としたパールの装飾とシフォンをふんだんに使ったフレアのドレスが印象的な、美しい精霊が姿を現す。
『……ルナは初動が鈍かったようなので、私が動いてしまいました。申し訳ありません』
水の乙女だ。
そして、その華奢に見える腕には、彼女と同じ体格の男の子を、首根っこを掴むようにして吊り下げられていた。
えっと……ルナ?
私の契約精霊のルナ。
なんで猫掴みされてるんだ……しかもなんか、しょんぼりしてる。
『いきなり戦闘とか……ムリ』
「……」
ぽつりと発せられたルナの言葉に、それはそれは深いため息とともにルークは眉間を軽く押さえてしまった。
うん、そんな表情でも相変わらずの美貌でさらさらと流れる黒い艶髪が素敵です……じゃなくて!
見惚れてる場合じゃなくて!
(……属性的にはこの中では1番ルナが戦闘向きなはずだぞ?と言おうと思ったけど、あえて言わないでおく)
指導は私じゃなくて風の乙女だもんね。
ルナ頑張れ!
『セシリア……言わなくても僕には聞こえてるんだからね?』
『……主人に八つ当たりする下僕が何処にいるっ!っと……セシリア、ごめんなさいねぇ。お先に失礼させてもらうわね。ふふふっ』
ルナの恨めしそうな声にびくりとしていると、風の乙女の可愛らしくもドスのきいた声が響く。
直後、ルナの背を掴むと、引きずるようにして姿を消していった。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる