私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

395、キメラと精霊と…聖樹。

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「やっぱ、怖い」

『暴走させなければ良いだけですわ…では、私も失礼させて頂きます』


 ユージアの呟きが聞こえたのか、水の乙女オンディーヌもカーテシーをすると、ふわりと微笑みながら姿を消した。


「これは……故意の物だな」

「しっかし見事に凍ってるね……水の乙女オンディーヌ、凄いな……」


 今にも襲い掛からんとするポーズのまま、動きを止めた合成魔獣キメラに軽く触れて、検分を始めるルーク。

 ユージアに至っては、合成魔獣キメラを中心に、瞬時に氷の世界へと変えてみせた水の乙女オンディーヌの格の高さに、感心を通り越して首を竦めると、怯えるような素振りそぶりを見せていた。


「聖樹がセシリアと話したって聞いて気になってたんだ。もしかしたらと思って…」


「あちぃ」と、呟きながら、おんぶ紐の要領で私を結きつけていた縄を解いて降ろすと、フロックコートも脱いで、その場に座り込んだユージア。
 体温が上がってるとは思ってたけど、スーツ姿だもんね、コートを脱いだら汗だくでした。


「自ら御柱となって、この地を守護してくださっている」


 ルークは『聖樹の丘』の辺りへと振り返ると、懐かしそうに呟く。


「どういうこと?」

「あれは我が師だった者だ」


 意味が分からなくて、小首を傾げるようにしていると『聖樹の丘』の方角から何かが勢いよくこちらへ向かってくるのが見えた。
 カイルザークだ。
 寝起きがものすごく悪いのに、珍しく早起き!


「……この樹は、元エルフだって事。多分だけど…ディオメド導師せんせい……だよね?」


 ディオメド導師せんせい
 魔導学園にいた白髪のエルフの導師だ。
 ルークが珍しく好んで師事していた導師で、私の精霊魔法も指導してくれていた。
 そして何より、シシリーわたしの研究室の、元室長だ。

 ……ついでに言うと、私はこのディオメド導師に、初期はじめての魔法を教わった。
 面白くって、大好きな導師だった。

 導師せんせいだった、と言われる樹が枯れかけていた……。
 どうして樹になってるのとか、よく分からないけど。
 挨拶もできないままに、またお別れになっていたかもしれないという事に気づいた時、寂しさよりも恐怖を感じて、一瞬にして視界が歪む。


「枯れてなくて、よかった……」

「はいはい、セシリアは泣かない」


 泣かない!とぴしゃりと言われてもですね…出ちゃったら止まらないんです。
 最近は泣かなくなったな!と、思ってたんだけどね。

 でも……初対面で、ルークが私をシシリーだと疑わなかった理由がわかった気がした。
『花』の香りから、シシリーの生まれ変わりだという確信はあったにせよ、記憶に関しては…『忘れずにいて欲しい』という願望もあったのかもしれないという事。

 ……私が『ルーク』と呼んでしまったから。

 生まれ変わりだけじゃなくて、シシリー自身かもしれない『願望』になって。
 それが、あの時のままのシシリーであって欲しいという『希望』になって。
 いつの間にかに『確信』になって…。

 ま、だからって襲いかかって良いという事には、ならないんだけどね?!


「泣くくらいなら、歌ってやれ。その方が喜ぶ…」


 ルークの言葉もごもっともなんだけどね。
 この前の歌だけでもかなり活性化してたもんね。
 でもね、止まらないものは止まらないんですよ!


「……泣いたら止まらないんだもんね?とりあえず落ち着こう?」


 ハンカチ……と思ったら、私、パジャマでしたよ。
 普段なら『はしたない!』って怒られそうだけど、しょうがない。
 袖でこしこしと涙を拭っていると、ユージアに抱き上げられて、背中をさすられる。
 うん、落ち着いてきた!…まだ涙止まらないけど。


「とにかく……みんな無事でよかったよ。朝の鐘はとうに鳴ったのに、セシリアの気配は戻るどころか、急激に遠くなるから、どうしたのかと思った!」


 ふぅ。と、ため息をつくと、カイルザークまでルークと並んでカチコチに凍りついた合成魔獣キメラを見聞するかのように、巨体とにらめっこを始めてしまった。
 合成魔獣キメラの凍りっぷりに、びっくりしてるみたいだった。


「カイ、この合成魔獣キメラ、どう思う?」

「ん?……作りがすごい未熟。未熟すぎて野生化してるね。あと、合成魔獣キメラ自体が若いよ。産まれたばっかり。ヒトの味を知ってるのは……多分、最初の餌として、製作者自身が喰われて取り込まれてるから。分解ばらしたら犯人が出てくわかると思うよ」

「…なるほど……ルナ」


 ルークがすっと片手をあげる。
 すると地面に沈み込むように合成魔獣キメラの姿が消えていった。
 あれ?ルナってば近くにそばにいるのかな?


「カイの、その嗅覚すごいね……」

「嗅覚というか……知識だね。ある意味、得意分野だったし」


 ユージアの呆れ気味の声に、カイルザークはちょっと嬉しそうな声で答える。


「さて……帰るぞ。屋敷まで…送る。セシリア、これ以上酔いたく無ければ、こっちに」


 ハッと、我に返る。
 このメンバー……セシリアわたしのサイズは違うけど、魔導学園から帰る時に、聖樹の丘から、王都への道までを全力疾走したメンバーじゃないか!


「よ、よろしく……」


 移動で酔う以前に、ユージアの負担になっちゃう!と思って、急いでルークへと手を伸ばす。
 抱っこの相手がユージアからルークに変わる。


「……少し、冷えてるな」


 片がけで着けていたマントを外すと、毛布のようにかけて抱き直す。
 春の早朝はとにかく寒いのに、パジャマ1枚とか。
 ……いくら合成魔獣キメラ騒ぎで逃げ回ってたからとはいえ、落ち着けば寒いよね。
 必死すぎて、冷えてることにすら気づいていなかったんだけどね。


「なんで親父まで一緒なのさ……」

「セリカ嬢にトレイで殴られるのが好きなら、かまわないが?」


 ふ…。と、小さく吐かれた息を感じてルークを見上げると、呆れ顔に薄く笑みを浮かべている。
 そういえばそうだ、どうしてここにルークがいるんだ?
 カイルザークは『様子を見にきた』って言ってたけど……って、ああ、精霊の知らせかな。


「ねぇ、僕は、朝の鐘が鳴り終わって・・・・から来たんだよ?」


 カイルザークまでユージアを見上げて、困った笑みを浮かべている。
 ただ、耳としっぽは、表情とは裏腹に、とても楽しそうにぴこぴこゆらゆらと動きを止めない。


「あ……お願いします。僕だけだと、問答無用で殴られる気がする」

「だよねっ!」


 毛足の長いしっぽが楽しげに一際ひときわ大きく揺れた。
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