私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

396、何も無かった!って事に。

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「エルネストにはユージア達が、朝の散歩から戻ってきてないから、ちょっと様子を見てくるね!って言ってきたから。多分……大丈夫?」


 カイルザークがユージアに向かって笑って答えているのだけど。
 ……王都が、遠く霞んで見える場所にいるわけですが。


(これのどこが『ちょっと』なのか、説明が欲しくなる距離なんですけどっ!?)


 王都から少し離れた位置にある『聖樹の丘』
 そこからさらに、合成魔獣キメラから逃げるために、奥に走って移動してしまっている。

 そして、朝の鐘が鳴り終えてからここにきたカイルザーク。


(つまり、朝ご飯……終っちゃってるって事だよね)


 朝日もしっかり昇っちゃってるということは、父様と母様はすでに登城してしまっている時間だろうし。

 かなりの時間をロスしている事に気づいたのか、ユージアがそわそわし始める。
 その様子に「さっさと帰ろう」と、ルークの声を聞くと、カイルザークが一息ついてから振り返る。


「……あ、そうだ!ルーク…僕の精霊ライトの事なのですが……」

「ルークで良いと……ライトは…元気だな。水の乙女オンディーヌが面白がっていた。ルナとフレアの監督ついでに…当面は水の乙女オンディーヌが預かるそうだ」

「よろしくお願いします」


 ぺこりと、丁寧にお辞儀をするカイルザークを見て、くく。とルークから声がもれた。


「カイの敬語は…立場が変わっても、やはり…気味が悪いな……。シシリーが嫌がっていた理由が…分かった気がする」

「なにそれ……ひどくない?」

「昔のまま…会ったばかりの…ああ、初めて会った時の私の呼び名は『化け物』だったか…」

「それは、忘れて……」

「化け物とか……っ!」


 カイルザークが眉間を押さえるようにしながら、首を横に振る。
 直後に興味津々なユージアの声も聞こえたけど、何故か急に遠のいた。
 ……どうやら、移動を開始したみたいだった。


「あぁ…うん。初対面でね、キミの父さんに、いきなり追い回されてさ……普通なら簡単に振り切れるのに、しっかり追跡されて、すごく怖かったんだよ。……で、化け物!って」

「追い回すって……なにか、したの?」


 ユージアが不審げに聞き返す。
 カイルザークとルークの追いかけっこ…あ、あったね!


「……それ、カイをお迎えに行った時のことだよね」


 思わず、後ろに届くように声をあげる。
 ルークにマントで包まれて抱えられてたから、ほとんど景色は見えていなかったのだけど。
 後方に声が届くようにと顔を出したら……見るんじゃなかった。
 ちょっと後悔した。

 人間では、絶対にあり得ないようなスピードで、景色が流れていく。
 合成魔獣キメラから逃げていたユージアのスピードよりも、もう少し早い感じ。


「そそ。しかも、必死に逃げた先にシシリー…セシリアがいた。ま、必死に逃げたと思ってたら、方角それすら誘導されてたってことなんだけど」

「それは…化け物で間違ってないと思うよ……」

「……」


 みんなの会話が、呼吸でつっかえることもなく、悠々と聞こえてくるから、歩きながらの会話にしか聞こえないんだよ……。
 それと、なんだかんだと言いながら、そんな2人のペースにちゃんとついていってしまえているユージアも、充分に化け物だからね?!

 そんなこんなを考えて、遠い目になっていたのだけど『ふあぁ』と、ちょっと大きめの、あくびが出てしまった。


「どうした?」

「ほっとしたらねむくなっちゃって」

「では、寝てるといい…」


 早朝からの大騒ぎもそうだし、ルークに抱っこされているこの状況も、寝直すには最適な環境だった。
 ……鼓動が子守唄のように優しく聞こえていて、さらに程よく温かいし、さらに、さらに…程よく揺れている。

 そんな状況から、風を遮るように私を包んでいたマントで、顔まわりも、深くフードを被せるようにして、隠そうとする。
 これ、暗くされたら確実に寝ちゃうじゃないか……!

 でも、ここで寝ている場合ではないのですよ!と、顔をぶんぶんと横に振る。


「……そこまで警戒されると、流石に傷付く…」

「あ…いや、警戒しているわけじゃなくて…ごめん」

「なにもしない」


 いいから寝ていろ!と、有無を言わさずに、そのまま包み、抱え込もうとしてくるので、必死に顔だけは隠されないようにと、抵抗をしていた。

 この人たち、高速で走りながら器用だよねぇ…と、少し呆れつつも必死に抵抗……って、ルークさん、口元笑ってますよ?!
 もしかして面白がって、マントでぐるぐる巻きにしようとしてる?!


「ねぇ、むしろ、寝てる時に何かされた?」


 カイルザークの声に、ルークも私も少し…ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ぎくりとなる。
 そんな動揺を、カイルザークには、しっかり見つかってしまったようで……。


「されたの……」


 まさかルーク…いや、さすがに幼児にまで見境なく襲い掛かることはないよね?とか、カイルザークがぶつぶつ言ってる。
 ……未遂だけど襲いかかってきたような…。


 まぁ、未遂ですよ。
 ただ、ついこの間、完遂したやつがいたわけで。
 抵抗ができない相手に、なんてことをしやがるんだ!と、今更ながら、ふつふつと怒りが湧いてくる。


「そういえば……魔力熱で寝てた時に誰かきたっぽいんだけど……誰だったか、セリカか父様あたりから聞いてない?」


 知らない子が来てたことを話すと、ユージアは首を傾げてしまった。


「知らない子が公爵家うちに来るとか、それはないと思うよ?……セシリアは聞いてないだろうけど、今、いろんな人がキミに面会を申し込んでるんだよ。それを全て、キミの父様と母様が断ってしまっているし、それに家令や使用人達も、知らない人間の出入りをすごく警戒してるから……」

「ユージアが来たのは覚えてるよ。その時に誰か……」

「……龍が来てたね」


 あの時、ユージアと一緒にいた子は誰よ?!と、浮気調査か何かの勢いで、聞き出そうとしていたのに、カイルザークの予想外の返答に固まる。


「ああ!……確かに、来てたね。カイ、よく気づいたね?」

「ん~まぁ。……にしても、龍くらいしか来てないよね」

「え~っと…セシリアに薬を飲ませて、ついでに治療したって言ってたけど」

「「……なにされたの?」」


 カイルザークとユージアの興味津々な声が響く……。

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