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はじまりはじまり。小さな冒険?
399、早朝のお散歩。
しおりを挟む鳥のさえずりが聞こえる。
半分まだ夢見心地で、気分がふわふわしてる。
あたりは明るくなっている気がしたが、まだ寝ていたい。
暖かい…ん?温かいのかな……?
抱っこされてるのかな、ゆらゆらと揺られて気持ち良い。
誰かの鼓動が近くに聞こえて、ふわりふわりと良い香り。
香水みたいに加工された香りじゃない、生の咲きたての薔薇の香りだなぁ。
春の木漏れ日のような心地よさで……。
(まだ起きたくないよ……)
ん、そういえば…もう、朝かな?
そういえばさっき、ユージアの声が聞こえたような。
起こしに来てたのかなぁ…。
無意識に私を包む温かいものに、すりすりと顔を擦り付ける。
「……かわいい」
あれ、誰の声だろう?
至近距離で耳に入ってきたのは、ユージアのものではない、優しげな男の子の声。
(いや、ちょっと待て!ベッドは鼓動聞こえないし!声聞こえないからね!?)
はっと我に返り、目を開けると、見たこともない、天使のような美しさの男の子の横顔がすぐそばにあって…というか私は、その男の子にお姫様抱っこされている。
……部屋着のまま。
「……ずっと、抱っこしてみたいと思ってたんだ」
ぎゅっと抱く力が強くなって、顔が近づいてくる。光の加減で薄いコバルトがかった蒼銀の少し長めの髪がさらさらとこぼれ落ちてくる。
そのあまりの美しさに、思わず見惚れていると、私の頬と自分の頬を合わせるようにふにふにと頬擦りをしてきた。
「……やっぱり、いいね。セシリア可愛い」
顔が離れると、その美貌に満面の笑みが広がる。
その甘く優しい声と表情の美しさに再度見惚れてしまう。
(眼福です。あっ!そうじゃなくて!近い!いや密着しすぎ!じゃないくて…ここはどこ?誰?なんで部屋着なのわたしいいいいいいぃ!?)
絶賛混乱中である。
昨日はベッドでちゃんと寝たはずだ。
その後の朝なら、今日は早朝からの予定はなかったはずだ。
(なんなの、このドッキリはあああああああ!?)
「セシリア、おはよう。少し散歩しよう…薔薇、好きでしょう?」
ふわりと微笑んでゆっくりと移動を始める。
……どうやらここは、王城内の薔薇の見事だった庭園だ。
いつの間に移動させられたのやら、全く見当がつかない。
(まつげ長いなぁ…)
ユージアと同じくらいの体格にみえるから、中学生くらい、13歳前後かなぁ。
王家とは…というか従兄弟一家にあたるんだけど、この前、顔合わせして覚えた顔の中に、この子はいなかったけど、王城にいる。
王家の人間ではないけど王城にいる子供。一体誰なんだろう?
ルークたちは『子龍だ』とか『セシリアの番だ』とか散々言ってたけど、本当なんだろうか?
……生まれたばかりの、赤ちゃんじゃなかったの?
そう考えてると、一本の桜のような花をたくさん付けた若木の前で歩が止まった。
というかどう見ても桜の若木に見えるんだけど。
「セシリア、見える?この樹はね…」
「…ただいま!子守ありがとさん~って、昨日の今日で聖樹、育ったなぁ」
すぐ横にふわりと風を感じて、そちらを振り向くと、黒のフロックコートの人物が近づいてくる。
明るいエメラルドの髪の歳の割にはやや幼い、中性的というよりはやや女性的な美しさを持つ少年……ユージアだ。
それよりこれって聖樹だったんだ?
どう見ても桜なんだけど。
ってことは聖樹はバラ科なのか!?
……はっと我に返る。そうじゃない、そこじゃないんだ。この事態の犯人が判明した。
(ユージア、お前かああああああああっ!)
私の気持ちは華麗にスルーされて2人の会話が続いていく。
きゅっと抱く力が一瞬強くなって、その美貌に悲しげな名残惜しそうな色を浮かべて覗き込まれる。
「……まだゆっくりしててよかったのに。なんなら、夕方の……アルフレド宰相の帰宅まで預かるよ?」
「ダメです~。これはあくまで朝の散歩だからねっ!返してくれないなら、もう連れてこないよ~?」
にやり、と悪戯っぽい笑いを浮かべて「返して?」とユージアが両手を差し伸べる。
……えっと、帰るにしても私に「歩く」という選択肢はないんですかね。
「…わかったよ。セシリア、またね」
そう言うと、顔がまた近づいてきて、額にふわりと温かい感触があって……キスを落されてた。
嬉しそうににっこりと笑みを浮かべてる。ほんと眼福です。
そのままユージアに手渡される。
続、お姫様抱っこかと思いきや、そのまま小脇に抱えられる。
「うん、いいこいいこ。じゃ、また後でね~」
「あっ!おい……」
いいこいいこ。と蒼銀髪の少年の頭を撫でると、くるりと踵を返し走り出す。
走り出して、宙に駆け上がるように空中庭園からジャンプして、飛び降りた。
「ふっ…うわああああああぁぁ」
「あっ、ちょ!落ち着いて!?大丈夫だから~。あ、時間無いや。急ぐから、口閉じてね……舌噛むよ?」
えっと、人力のジェットコースターを体験しました。
あれだね、人って自分ができないほどの高いジャンプや、降下は、ジェットコースターの急降下みたいな、内臓がひっくり返る感触がする。
前世で絶叫系は嫌いじゃなかったけど、これはダメだ。
中学生くらいの体格とはいえ、かなり細身で子供の体格に近い、ユージアの細い腕一本で支えられている上に、視界が地面に限りなく近く、そして移動中の視界を遮るものが何もないから……安全バーもないし、座席もないから、足元はそのまんま移動の景色だよ!?
っていうか、安全じゃないから、絶対に、だめえぇぇぇぇっっ!!
「ふぐっ……んーっ!!んーーーっ!」
「あはは~、慣れたら気持ち良いのに。セシリアって口閉じてても声が出せるんだね~」
怖さのあまりに出てるからこれは、悲鳴ですよ?!
ていうか、怖すぎて目を開けてられない……。
ぎゅっと瞑った瞼に涙が滲む。
何度かのジャンプと移動、急降下を繰り返して、ふと、動きが止まる。
「セシリア、ちょっと目を開けてみて?ここ、すごく綺麗だから」
「ここは…?」
城下の町を一望できる、屋根の上にいた。
すごく綺麗……。
商業施設が集まるエリアはすでに煙突から煙や、パンや肉を焼く良い香りが流れ。
その資材だろうか?搬入のための荷馬車が、ひっきりなしに通っていく。
居住区は井戸の水汲みに走る子供達や、母親が小さな子供をあやしつつ、洗濯物を干す姿が見えた。
「良い景色でしょう?ここね、ガレット公爵家の屋根☆ ──さ、降りるよ」
「ふ…あああああああぁぁっ!」
心の準備の時間ももらえずに、声とともに今日、一番の急降下の感覚に襲われる。
(酔った、これは酔った…)
着地の衝撃のほかに、がんっという金属音と衝撃を感じた。
「……ったぁぁっ!?」
ユージアは着地とともに私をゆっくりと小脇から降ろすと、そのまま頭を抱えるようにして蹲ってしまった。
私といえば……目の前に現れた、さらさらとしたエメラルドの艶髪を思う存分、撫でることにした。
「お帰りなさいませ、セシリア様。さぁお着替えしてしまいましょうね」
「……痛いよっ!」
明るい女性の声に顔を上げると、爽やかな笑顔で銀のトレイ構えた専属メイドがいた。
ユージアの着地の風圧に煽られたのか、肩で綺麗に揃えられている、ふわりと広がる栗毛の髪が少し乱れている。
「馬車を使えと言ったでしょう?」
「急ぎだったし、こっちのほうが早いんだって…殴ることないじゃないか」
……どうやら着地とともに、セリカの持つ、銀のトレイでユージアは頭を殴られていたようだった。それ、すごく痛いと思う。
「ならばせめて時間厳守で動きなさい。足跡も分からずにセシリア様が忽然とベッドから消えていては、騒ぎになります」
「はーい……」
「さぁ、行きましょうね」
セリカはにこりと笑みを浮かべると、涙目で頭を抱え込んでるユージアを置いて、私の部屋へ向かって先導し、歩き出す。
……これが私が頑張って取り戻した、平和な日々。
そういえば、あの蒼銀髪の綺麗な男の子は誰だったんだろうね?
ユージアにまた、聞き忘れちゃった。
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