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はじまりはじまり。小さな冒険?
407、加害者席は別室だそうです。
しおりを挟むエルネストが厳しい顔つきで1箇所を凝視している。
確か、被告人席だったと思う。
今、座っているのは…教会関係者、ということになる。
でも、実際、そこにいるのはオレンジ色を基調とした官服を着た、この裁判所のスタッフのような人が数人、座っているだけだった。
今日の内容的には、教会が加害者、子供たちが被害者という感じで大人たちの話が進んでいるので……と思ったのだけど、教会のローブ姿は誰一人いなかった。
「あれ……司教とか聖女の人は、いにゃいの…いないのねっ!」
「ああ、そうだね。今日はいない。代わりに代理人がいるだろう?ふふっ」
噛んだ…っ!
でも、もう気にしないもんねっ!
呪いのせいだもん!しょうがないんだもん!……多分。
……なんかもうね、恥ずかしい!とか反応するのも、面倒になってきちゃったのよ。
呪いだろうが成長が遅かったのだろうが、いずれは消えるんだから、もう、気にしないことにした。
スルーよ!スルーするのよっ!!
ぐぬぬ…と思ってる間に、ユージアが口を開く。
「ゼン、あの代理人ってどういう意味があるの?」
「ん~、双方が揉めない工夫。かな?」
ゼンナーシュタットの反応に、さっきの仕返し!とばかりに、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるユージア。
「もちろんくわしく教えてくれるんだよね?」
「あぁ…そうだな。今回の件に関しては、被害者も多いが、加害者も…とても多いんだ。そんな状況で、お互いに顔合わせなんてしてしまったら……」
「暴動みたいな意味で、大惨事?」
「そうだな、それと今回は被害者席に『王族の子ども』がいるから、特に。だ」
「顔バレ…か」
『お偉いさんの特別待遇ってやつ~?』と嫌そうに眉をひそめるユージアに、
『おまえだって、そのお偉いさんの仲間だろ』と…大袈裟なまでにため息をついて、呆れ顔で言い返すゼンナーシュタット。
どっちもどっちな気がするけどね。
ただ、どんな立場であれ、被害を受けた子供たちへの匿名性は、守られたほうがいいと思う。
逆恨みされた場合、逃げようが無いからね……。
「ま、簡単に言えばそんなところではあるけど。まぁ、捕まった原因がこんな子どもだってわかったら、王族云々じゃなくたって報復されそうな気がするし、そもそもの調書すら、相手が大人ではないと分かった時点で、誤魔化されかねないからね。……同じ場所にいては、いけない事になってる」
「でもそれじゃあ不公平になったりしないの?」
「ならない。この場に完全にいないってわけじゃないから。この建物内の別室で待機してるからさ。相手が反論すれば、それをそのまま、あの代理人が喋るよ」
「ああ、そこの音が聞こえる穴みたいなやつがあるのか」
「そうそう……流石にお茶やお菓子は、出ないけどな」
『これこそ御貴族様の特権だぞ?』と笑いながら、焼き菓子を口に運んでいくゼンナーシュタット。
まぁ貴族やお偉いさんの特権で、裁判の内容自体が捻じ曲げられるような国だったら、正直、先は長く無いと思う。
腐敗しまくってるっていう話しだものね?
ユージアは、少しほっとしたような、不満があるような…なんとも言えない表情になると、紅茶のポットを用意し始める。
「はいはい…じゃあ、御貴族様なゼン様、お紅茶のおかわりはいかがですか?」
「……砂糖多めで」
「…やっぱ、子供味覚なんだね。可愛いっ!」
「甘いほうが旨いじゃないかっ!あんなに苦っぽろいものを、好んで飲む意味が、僕にはわからない!」
ユージアは一瞬、きょとんとすると『そんなもんかなぁ』と笑いつつ、ゼンナーシュタットのカップを下げて、新しく準備をしていく。
慣れた手つきで、カートからカップとソーサーを取り出すと、それぞれを人数分、きれいに並べていく。
……使用人の養成所を、短期間で修了したユージア。
なんだかんだ言っても、習うべきところは、冗談でもなくしっかりとマスターしてきてるんだなぁ……。
裁判の内容を聞きつつだけど、あまりの手際の良さに目を奪われてしまった。
「じゃ、2匙ね…「3か4匙だ」…へっ?!」
「ゼン…?そこまでとか…それ、紅茶じゃなくて、単なる砂糖水だから!」
「そうかな?でも、ユージアの淹れる紅茶はうまいと思う」
「……それは腕じゃなくて、ここの紅茶が高級品なだけだよ!ていうか、ゼンの場合は…ほぼ砂糖の味じゃん、それっ!」
子供味覚…じゃあきっと、レモンを出してあげたら、もっといっぱい飲んでくれるんじゃないかな?とか、こっそり思ったり。
確かに、大人になっていくうちに、紅茶の苦味が美味しくなるようになっちゃうのよねぇ。
お砂糖たっぷりが大好きだったのに、気付けば甘いのは苦手になってて。
あれって、大人になった証拠なのかしら?
******
「僕は…今、どういう状態なんだ?本当に…僕は、公爵家に居て…いいのか?」
「良いの」
今までずっと、必死に階下の声に耳をすましていたエルネストが、ふらりと戻ってきてソファーに深く座り込むと、そのまま蹲まってしまった。
エルネストのあまりの顔色の悪さに、私は反射的に『良いの』って答えてしまった。
裁判官の読み上げるエルネストへの仕打ちが…状況の説明が、あまりにもひどいものだったから。
「僕は、死んだことになっているのなら…」
そう、教会で難病発症とされて、王都へ搬送中に病死という報告の後、裏帳簿上のエルネストの扱いは『物』へと変わった。
『聖女への献上品』という名目で。
街の教会の書類上では『王都の教会へ搬送・引き渡し』をしてしまっているので、それ以上の書類への記入は、管轄外だから、しない。
そして『王都の教会』はエルネストを引き受けるはずだったが『死亡しているので引き受けようがない』と、そもそも引渡しの書類に『死亡のため引き受けられず』と記載して、追跡終了になっているのだ。
『籠』へと連れて行かれた、他の子供たちもみんな、同じような手口での受け入れだったようで、その嘘の死亡の報ですら、親元には届いていなかったという。
「うん、エルは死ななかった!助け出された!…だから、ここにいるんじゃないのかな?」
「ユージア……また漠然としすぎ。それを言うなら…あれだ、エルネスト。カイは出生地不明、保護者も不明だ。連絡のとりようもない」
「そう…なのか?」
ゼンナーシュタットの説明に、はっと顔を上げるエルネスト。
朱に近いオレンジ色の瞳が涙で滲んでいた。
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