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はじまりはじまり。小さな冒険?

418、シュトレイユ王子のこだわり。

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『レイ、そんなに気になるなら……ご飯は酒場風じゃなくて、野営風にしてみよう!ちょっと質素になっちゃうけど…大人も居ないし、怒られないよね?』

「怒らないよっ!お願い!」

「ねぇ…ついでだし、それっぽい内装にできる?」

『それも良いね!やってみるね』


 ちょっと悪ノリし始めたかな?と思いつつも、楽しそうなので、そのまま静かに成り行きを見守る。
 シュトレイユ王子の急に真剣な表情になったり、無邪気な声で笑ったりと、ころころと変わる表情は可愛らしくて素敵だけれど、やっぱり1番は…笑顔だよね。


(ずっと沈んだままより、良いもんね)


 すっとルナが小さく頷いた後、手を軽く振ると、急に目眩を起こしたのかと焦るほどに、ぐにゃりと視界が歪んで景色が切り替わっていった。

 次の瞬間には、入り口からソファーセットよりさらに奥、窓があった場所の壁が消えて、大きなレースカーテンによって区別された、大きな出入り口のような構造になった。
 その先には、緑が広がる草原が眼前に広がる、大きなウッドデッキとなっていた。


『…あ、できた!こんな感じで良い?』

「ああっ!すごい雰囲気出てるっ!すごいね」


 これって本当にどうなってるのかな?と、ウッドデッキの先、草原へと歩こうとすると、数歩進んだ先で、やんわりと見えない壁に阻まれてしまった。

 ここは、一応地下室なんだよ。
 なのに、目の前には草原の広がるウッドデッキ、上を見上げれば、少し雲が見えるけど、欠けた月と満天の星。
 ちなみにこの空は、実際のメアリローサ国の星空を投影しているものだから『避難所ここ』から外に出ても同じ天気なんだよ。

 擬似風景とはいえ、本物に見えすぎて怖い。
 外から吹き込んで来ていると感じてしまう自然な風もあるし。


「いいね!じゃあ、キッチンを酒場風にしちゃおうよ」

『酒場風かぁ。それならキッチンを少し移動しようかな…』


 そう言うと、またもや部分的にぐにゃりと景色が歪む。
 瞬きのうちに、ソファーのある位置から見て、右奥にあったキッチンスペースが左側に移動して、バーなんかにありそうなカウンターキッチンの様相となる。
 ……まぁ使いやすさを重視しているために、実際のバーや食堂のカウンターと違って、カウンターの先は、前世にほんでよくお世話になっていた、学食とかにありそうな奥行きのある作りにはなっていたけど。


『うーん、寝室スペースが宿屋風っていう話だと、そうだなぁ……実際の建物の構造としては、1階が食堂や酒場風で、2階より上が宿になってるのが多いんだ。それだけ覚えておいて?』

「……全部そっくりってわけには出来ないのね?」

『うん!…まぁ、実際に階段を作っちゃうと、みんなの姿が見えなくて寂しいから…良い?』

「それでお願いっ!」

『……ま、出るのは普通の食事だけどね』


 ルナがふわりと笑いながら肩をすくめて見せる。
 というか、シュトレイユ王子は、どこまでリアルを追求したいのか?
 ……それだけ、実際を知らないってことなんだろうけど、ね。

 こういう話であれば、フォローや補足を入れてきそうなゼンナーシュタットやカイルザークは、気づけばまた内緒話の真っ最中のようだし。


(古代語で真剣に2人で何かを書き込みながら、なんの話をしてるんだろうね?)


 エルネストに至っては、シュトレイユ王子の勢いに気圧されてしまったのか、私と同じように大人しく話を聞いている…いや、成り行きを見守ると言った感じになってしまっていた。


「せっかくだから、冒険者の食事が食べてみたい!」

『えぇぇ…。街の食堂っぽいのなら出せるけど、えっと…食堂だとね、魔物の肉とかも出すから…今のレイとレオンにはお勧めできないかな。元気になったら、ね?』

「はぁい……ねぇ、魔物の肉って、美味しいの?」

『う~ん。美味しいと言えば美味しいかな?魔物の肉が食べたくて、依頼を出す貴族もいるくらいだし』

「珍味みたいな感じなの?」


 魔物の肉、かぁ…。
 美味しいといえば美味しいし、不味いといえば不味い!
 物による!って言っても、きっと伝わらないんだろうなぁ。

 ちょっと、説明に詰まり気味になってきているルナに同情しつつも、流石に『避難所ここ』に魔物の肉の料理を出すのはマズいと思うんだ。


「珍味…いや、嗜好品かな?滋養強壮の目的で摂ることが多いって聞いたなぁ」


 ユージアがお茶のおかわりを淹れつつ、フォローを出す。

 美味しい魔物の肉は主にオークとか…オークは豚とか猪の仲間みたいな魔物だからね。
 ほかにもいくつか食べれる種族があるけど、一般的に普通の肉と違うところは、魔素を大量に含んでいると言うこと。


(つまり、魔力の補給ができる食料になると言うことなんだけど……)


 ただ、その魔物の生まれというか、発生の条件によっては食べれない種族もいるから……。
 例えば、瘴気の強い場所で獲ったオークの場合なんかは、浄化を行わないと食べられない。

 オークと言うだけで、素材としてはとても美味しいのだけど、身体の弱っている者が口にすると、瘴気に負けてひどい目にあうからね。


「僕は……獲ってその場で食べたことあるけど」

「美味しかった?!何を食べたのっ?」


 エルネストがぽつりと呟いた言葉に、シュトレイユ王子が思いっきり身を乗り出して、襲い掛からんばかりの質問攻撃が始まってしまった。


「あ…いや、獲物によると思う。僕が食べたのは……」


 南の地方でよく獲れる狼型の魔物だったようだった。
 あれ…狼って共食いじゃないの?とか思わずツッコミを入れそうになったのだけど、黙っておいた。

 犬系の魔物の肉は、生で食べるよりは干し肉等の加工をしてからのほうが美味しいのだと言うことを、どうにか必死にシュトレイユ王子に説明していく。


「うーん、干し肉用かぁ…どんな味だった?」

「硬くて……」

「美味しく、ないの?」

「えっと…あの時のは」


 ただ……その時は移動中で、それこそ野営の準備の時にとったものだから、その場で、食事の足しに…と、食べたということらしかった。

 内容的には『獲りに行った』と言うよりは、遭遇してしまって狩ったから、食べた。
 こっちの方が表現的には近いような気がした。

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