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はじまりはじまり。小さな冒険?
423、今までのと、ちょっと違うみたい。
しおりを挟む今回のこの『護符』…護るべき持ち主の設定が、装着者ではなく、装飾本体を守る目的で作られていた。
だから外されそうになったときに、外そうとしたその手を、攻撃者と認識して抵抗した。
(ただ、アクセサリーを一見しただけでは『護符』としか見えないから……)
プレゼントとしていただいたら、素直につけてしまうかもしれない。
魔道具自体がとても貴重になってきている、この世界で、『護符』の機能があるアクセサリーであれば、喜んで買い求めるかもしれない。
『護符』だもの。相手の無事を祈って、大切な相手にプレゼントしてしまうかもしれない。
そんなものが道端に落ちていたら、とても高価なものだから、こっそり自分のものにしてしまうかもしれない。
(まぁ『貧すれば鈍する』とはよく言ったもので。例えばだけど、自分の年収以上の価値の宝石が落ちていたら……。ものすごい誘惑があると思うの)
実際、それを狙ったかのように、デザインも機能重視の露骨な物ではなく、人間がつけるアクセサリーを意識した形状をしていた。
そう、この『隷属の首輪』は完全に、人間をターゲットとして作られたものだ。
……魔物用ではない、魔導学園の倫理規定に完全に反している『絶対に作ってはいけない』とされていた物だった。
(こんな使われ方をするために開発されたのではないのに……)
人々の生活をより良くするために開発されたものだ、それが人々を苦しめる道具に成り下がっている。
悪用した人間を心底、許せない……。
少し、黒い考えが、心の中に浮かんでは消える。
こういう時、シシリーだったら、どうしてただろう?
調査に協力は…もちろん、確実にしていただろう。
むしろ、自ら申し出ていたはず。
……まぁもっと優秀な人材がいくらでもいたから、役に立てるか?と言われれば微妙かもしれないけど。
セシリアだったら…うん、むしろその『隷属の首輪』に狙われる対象のような気がするから、下手に動くと、頑張って調査している父様やルークたちの足を引っ張りかねないなぁ……。
それでも、何かできることはないだろうか?と考えつつ、テーブルにセットされていた、テーブルクロスを外す。
大きなテーブルだから、流石に私の手には負えなくて、思わずたたらを踏んでいると、それに気づいたユージアが畳むのを手伝ってくれた。
(テーブル全てを覆うタイプではなくて、ワンポイントのクロスだったから、私でも下げられるかな?と思ったんだけどね…ちょっと無理でした)
……ごめんね、一人でやった方が早かったよね。
きっと、『隷属の首輪』の件も、私が動いたら同じようになる。
一人で行動すればあっさり終わる事が、私が動いたがために、私を守りつつ行動させてしまう羽目になる。
無駄な行動、被害がたくさん出てしまうかもしれない。
(ああ、ダメだね。どんどん暗い考えになっちゃう。今は、楽しそうに過ごすのが1番の仕事だ。……我が子が楽しそうに、安全な場所で待ってるなら、父様も母様も、後方の憂いの無い状態で、全力で頑張れるはずなんだ)
気分を切り替えようと、大きく息を吸うと、テーブルに並べられていた、未使用のナプキンの束の入ったカゴを持ち上げた。
******
一応、屋外という設定なので、テーブルのセットは全て外して、カウンターに片付けよう!という話だったので、みんな必死に片付けをしていた。
満天の星…前世の空と違って、基本的に夜の街は暗いからね、空がとても澄んで星がはっきりと、むしろ夜なのに月明かりも手伝って、雲すらはっきりと見える。
バーベキューをした時よりも、月の位置がずいぶん移動していて、かなり高い位置まで移動していた。
……そろそろ子供は寝る時間かな。
『あと、宰相にこれ、お土産です』
フレアは、読み上げていた報告書をテーブルに置くと、背後へと手を回し、何もないはずの空間から、ずいっと布切れのような大きめの塊を掴み、父様の前に突き出す。
赤い布切れかと思った塊は…ゆらりと揺れて……。
「これ…って、精霊じゃないか!」
『はっ初めましてっ!』
猫掴みのように片腕で掴まれてぶら下がっていた物体は、なんと精霊の女の子だった。
赤とオレンジの混ざったような色に、時折メッシュのように金が混じる、なんとも不思議なストレートの頭髪に、青い瞳。
体格としては…ライトより幼い感じで、私と同じくらいかな…?
「あああああ!あの時のっ!」
『少し前から、宰相のストーカーみたいにちょろちょろしてたんですよ。精霊になりたての子だから、悪さしないかと見張ってたんですけどね。一応ご報告です』
フレアは呆れ気味にため息を吐きながら、精霊の女の子に視線をやる。
猫掴みの状態で、ぶら下げられて、微妙にうなだれている風のその姿がちょっと可愛くて、思わず笑みが浮かんでしまったわけだけど。
他の子供たちは、精霊の登場にぴたりと作業が止まってしまって、フレアと父様とのやりとりを注目していた。
「ユージアは、面識があるようだが……?」
「えっと…僕のお使いをしてくれた精霊です」
ユージアは養成所にいる間も、ルークに課題を出してもらって、ずっと勉強していたらしい。
そんな課題の最終項に、魔法陣の作成があって、発動させた結果、その魔法に応えてくれた精霊だったと、説明をしていた。
父様は『もう魔法陣を描けるまでに上達したのか!』と驚いていたけど、多分、それは違います。
エルネストもシュトレイユ王子も同じように、驚いてたけどね、違うんだよ。
確かに魔法陣だけどね……。
内容から聞くに『ささやかな願い』という魔法陣だ。
子供が、寝る前の願掛けに使うおまじないだよ。
魔力が高いと、本当に妖精や精霊を呼べたりしてしまうそうだけど、そもそも使う魔力が微量だから、もし呼び出せたにしても、使役するには魔法陣に込められる最大魔力量が少なすぎて、ほぼ役には立たない。
「……ハンス絡みかい?」
『ちがっ…います』
フレアの腕の先、猫掴みのような格好でぶら下げられたままの、精霊の小さな女の子が、首をブンブンと振りながら、消え入りそうな声で否定している。
『ではまたセシリアの…』とか独り言が聞こえた気がしたけど、聞かなかったことにしておくよ。
今回、私は何もしておりません。
本当に。
……絶対だよ?!
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