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はじまりはじまり。小さな冒険?
442、内緒話と、朝ごはん。
しおりを挟む「さぁ、内緒話はそこまでにしてもらおうか?」
そんな声が、微かに耳に届く。
ルークの声だ。
その直後、障壁を解除したのか急に周囲の音がクリアになる。
「ゼン、気づかれないようにするから、内緒話なのではないのか?」
「……気づく方がおかしいんだよ」
不貞腐れたようなゼンナーシュタットの反応のあと、ふわりと抱き上げられる感覚があって、見上げると、父様の顔が間近にあった。
「大丈夫かい?…顔が、青いんだが」
「だ、だいじょ…」
大丈夫です。と、答えるきる前に、ぐいっと強く抱き込まれてしまった。
……なんだろう、先ほどまで手にしていた紅茶よりも、ずっと落ち着くな…と、思った途端に、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。
「……この状況だと、二人きりにならないよう、制限をつけざるを得ないわけだが…」
「そんなつもりじゃ……」
「どんなつもりか知らないが。……泣くことすら忘れるほどに、怖がらせることはないだろう?」
父様の大きなため息と、非難めいた声が頭に響く。
胸にぐっと顔を押し付けられるように抱えられてるから、当たり前か。
ゼンナーシュタットは悪くないよ!と、伝えたかったのだけど、一度あふれ出してしまった涙は、一向に止まる気配がなく、父様も私を抱え込んだ腕を緩めるつもりもなく……。
ああ、怖かったんだな。と、改めて理解し始めたところで、父様が私の手を握って「震えてる」と呟くとゼンナーシュタットへと向かい、口を開いた。
「ゼン…。セシーはキミより少しだけお姉さんかもしれないけど、時の流れが違うんだ。人族はキミ達と違って大人になるまで、あと10年と少し、必要だ。何を話したのかは知らないが、ここまで怯えさせたら、何も聞こえていないし、伝わっていないと思うよ」
「そんな……」
「……大人と違って子供は、強い恐怖を感じると、自分が抵抗できないことを知っているから『怖い!逃げなきゃ!どうしよう!』で、頭がいっぱいになるんだ……そんな状況で、話が…聞こえてると思うかい?」
「セシリア…ごめんなさい」
消え入りそうな、ゼンナーシュタットの声。
私の方こそ『ごめんなさい』なのだけど。
だって、ちゃんと聞こえてたよ。
理解もしてるよ。
(でも…どう思い返しても、シシリーの周囲に、ゼンナーシュタットのような霊獣の知り合いはいなかったから、正体がわからなくて、少し怖いなと思っただけだよ)
そう…伝えたかったのだけど、あふれた涙は止まらない。
泣いてしまっているから、声もまともに出ない…ごめんね。
しばらく父様が、背を撫でてくれて落ち着いてきたのか、身体が温まってくるのを感じると、ベッドに座らされた。
そこで気づいた。
私、10歳前後の姿だったわ……。
父様、重くなかったかな?
「……悪気はなかったにしろ、子供の指の先が冷え込むほどの緊張状態に追い込むのは、ダメだ。そばに居たいと思うのなら、ちゃんと考えなさい」
「ごめんなさい…」
「セシーも、怖いなら『怖い!』と、ちゃんと声を上げなさい。……助けは、声を上げないと来ないよ?」
「はい…」
呼吸を整えて、返事をするのがやっとで、思わずしょんぼりと俯く。
父様は、そんな私の頭をくしゃくしゃと撫でると、ため息を吐いた。
「……朝ご飯まで、もう少しかかりそうだから…セシーは、少し寝てなさい……私もここにいるから」
それなら、怖くないだろう?と首を傾げながら、軽く笑った。
傾げた拍子に、さらりと流れる燃えるように鮮やかな赤髪。
形の良い眉にかかり、少し邪魔そうに顔を顰めている。
随分、伸びてしまったなと思った。
普段であれば、神経質なくらいに、髪が伸びたことを感じさせないタイミングで……つまり、頻繁に切り揃えられて、常に綺麗な短髪が保たれていたのに。
うまく後方へ流していても、眉に髪が、かかり始めていた。
……忙しかったんだろうなぁ。
(明らかに、私のせいで!……父様、本当にごめんなさい)
******
布団に潜り込みながら、そういえば!と食堂風のカウンターへと視線をやると……。
何故かエルネストが、踏み台を使いながら手伝いを…いや、あれはむしろ主力になって、料理中だった。
ほのかにお米の炊き上がる良い香りと、魚の…脂のこげる匂いがただよっている。
「セシーも気になるかい?南方の料理らしいんだが、やたらと食欲を刺激してくる」
「…楽しみ、です」
「エルは運動神経の他に、手先も凄く器用で、びっくりしたよ。自分の身長よりある、大きな魚を器用に捌いてしまった。それに、手のひらより大きな貝も!閉じる隙間に針金のようなものを挿し入れて、あっという間に開いてしまう。それに小さな海老。見慣れないものばかりだったが、ルナとフレアに買い出しに行かせて……あぁ、特にルナが食材に興味を示していたな……」
母様ではないけど、父様からの興奮気味マシンガントークを、くらってしまった。
(寝てろって言ってませんでしたっけ?!そんなにガンガン話しかけられたら、寝れませんよ?)
どうやら、ルークと父様とで仕事の書類やら、裁判関係の報告書やらを整理し終わって、サロン……いや、今はテラスというか、半ウッドデッキのようになっているんだけど、そこへ戻ると妙な違和感を感じた。
その『妙な感じ』の大元がどうにも、セシリアが座っているあたりから感じたので「また強制転移や何某かのトラブルの前触れか!?」と、反射的に警戒をしたのだそうだ。
ルーク曰く『ゼンナーシュタットの魔法だ』と。
そして『セシリアに危害を加えるようなものではないから、心配はない』と説明を受けて、そのまま食堂のカウンター内を覗いたら……。
「こんな!このサイズの魚が1匹…いや、あれは1本と言ったほうがいいほどに丸々とした魚が転がるように置かれていたんだよ!」
えっと……大興奮である。
王都の料理でも、魚料理はあったと思うんだけど…。
ああ!むしろ、魚そのままを見たことがなかった!とかいうオチなんだろうか?
そんな魚にびっくりしていると、エルネストがとんでもない大きさの包丁を片手に現れ、無言であれよあれよという間に、捌いていってしまったのだそうだ。
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