私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

448、買い出しと、人生の先輩たちと。

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 さて、開始前…いや、開始直後でも良いや。
 他の食材の準備は、終わっているし。
 多少遅れても『ホタテもありますよ~』と、しれっと持って登場できるくらいのタイミングまでには、戻りたい。


(……最寄りのスーパーなんだけどね。片道、1時間かかるんだ)


 ちなみに。
 信号もほとんどない、そして対向車すらほとんど見かけない道路事情のおかげで……あ、裏道を使ったわけではなくて、元からこんな感じね。
 まぁ山の中の一本道だから、裏道も何も、あったものじゃないんだけど。
 安全運転で、無事にホタテを受け取って、開始直前に戻ってくることができた。

 途中、この町に1本だけ通ってる1両編成の電車に、遮断機で止められた。

 ちなみに1両とはいえ、乗車率は結構あるんだよ?
 主に学生の登校用に使われてるから。
 路線の名前にも『学園なんちゃら』~ってついてるくらいだし。

(逆にこれってかなりのレアな出来事。だって1日3本しか走らないんだもの)


 地元の人はここで止められると、思いっきり不機嫌になるそうだけど、個人的には、遮断機が下がっていること自体が珍しすぎて、良いことがありそうな予兆に感じてた。


(そうそう、この日は、バーベキューなのに、酒のつまみとして海老の刺身が増えたんだよなぁ)


 お店に到着すると『一緒にキャンセルされた海老も買ってくれないか?』と、頼まれて……。
 それが、とても立派な牡丹海老ボタンエビだったものだから、自分で食べるつもりで、こちらは、別会計で……つまり、私の自費で購入した。

 これは食堂へと搬入中に、この牡丹海老を見つけた女性上司が、大喜びして買い上げてくれたので、実際の私の出費はなかった。


 と、いうことで、無事に戻ってくることはできた。
 できたのだけど。

 機械的ではあるかもしれないけど、いつも通りに、まずは代金の精算をして。

 あとは業務用の大きな冷蔵庫から、私が朝のうちに準備しておいた食材を出して、バーベキューコーナーへと運ぶだけのはずだったのに、これまたトラブル満載で。


(いつの間にやら…というか、私の仕事中に、準備完了していた食材にまで、余計なことすてきトッピングをしてくれちゃってたんですよ……!)


 ──私はこの日初めて、女性上司の声が、怒りで枯れ果てるのを見た。

 素直に思ったのは『後輩ざまぁ!』ではなく。
 女性上司に『お疲れ様です』と、いつも使う形式上のものではなく、心からの言葉が……出た。


(いつもはその声が、とにかく怖くてたまらなかったのに、早く治らないかなと、思ってしまったり)


 もちろん、その枯れた声の原因の一部には、私に向けられたものもあった。

 だって、言うことを全く聞いてくれなかったにしても、後輩の直接の上司は、私だし。
 管理不行き届きだもんね。しょうがない。

 オレンジ色と紫色の混ざり合う、人工物が一切視界に入らない夕焼けを、食堂の大きな窓から見ながら、黙々と野菜を切り分けつつ、思う。


(ああ、結局ね、朝から頑張って準備しておいた野菜、全部使えなくなってたのよねぇ)


 だから、ホタテは間に合ったけど、野菜は切り直し。
 ……予備と称して少し多めに買っておいてよかった!と、言いたかったのだけど。

 そもそも、そんな大量な予備なんてあるわけもなく。
 この時点で、もう一度買い出しに出る、時間的余裕もなかったから……結局、この職場の敷地内にある、社員用社宅から、個人の野菜を分けてもらうという形で事無きを得たのだった。

 とんだ収穫祭だよね?!
 何をどこで収穫したんだか、よくわからない収穫祭になってしまった……!


(あ、でも、お掃除に来てくれている、おばあちゃんが持ち寄ってくれた、漬物が絶品だったなぁ)


 大根だと思うんだけど…もしかしたらかぶかな?
 その中に千切り状態になっている他の野菜の浅漬けが閉じ込められている、色鮮やかなお漬物。

 あの漬物は手作りならでは!って感じだった。
 あんなに手の込んだ、美味しい漬物はスーパーでは見かけないからね。


(すごく美味しいし、見た目も華やかで。いつか作ってみたいと思ってたんだけど、結局、教えてもらう機会が作れないままに、会えなくなってしまったんだよなぁ)


 職員全員が参加OKだったので、おばあちゃんも会場に来ていたのだけど。

 私の姿が見えない事に気付いて、食堂を覗いて……この惨状に、ひとしきり笑うと、何も言わずに手伝ってくれた。
 ついでにと、自宅にいた娘さんに連絡を入れてくれて、足りなくて困っていた食材を追加で運び込んでくれて。

 ……今もガス式の一升炊きのお釜を抱えるようにして、おにぎりを握ってくれている。
 90歳のおばあちゃん。


(このおばあちゃんには、ありがとうの言葉しか出てこない)


 ちなみに、北海道の90代は、かなり元気な方が多い。
 私の周囲の人間だけだったら、ごめんだけど。
 農作業のお手伝いとかに来てくれていた、めちゃくちゃ元気なおばあちゃんたちが、全員90代後半って聞いた時は、びっくりして固まった。


(だって、農作業の手伝いってさ…炎天下で丸一日、ジャガイモ掘ってるんだよ?)


 まぁ正確には、ジャガイモを掘り出してくれる大きな機械があってね。
 その機械ってば、ジャガイモを掘り出しながら、その場で選別できるようになってるんだ。
 つまり、ジャガイモを掘る機械に、人間が6人ほど立って乗れる場所があるから、そこで延々と掘られてくるジャガイモを選別する。

 日除けの屋根はないし、機械が動いてる限りは、じゃんじゃんと掘られたジャガイモが目の前に現れるから、素早い手つきで選別していく。

 こんな大掛かりな機械を導入しても、収穫が間に合わなくなりかけるくらいに広大なジャガイモ畑。
 あれですよ、畑の一辺を歩いて移動して、一番端に行くまでに30分かかる。
 どの畑も、それが当たり前の規模の広さの畑を、何枚も所有していた。

 なので、収穫シーズンになると、目も当てられないくらいに忙しい。


(いやぁ……収穫時期8月って聞くと、まだ夏!って感じなんだけどさ、8月の末には初雪降っちゃったりするんだよね。9月入っちゃうと、気温がいきなり氷点下!とか…あるし。なので、収穫祭をやる直前までは、実務の人たちも、修羅場と言って良いほどに忙しいんだ)


 私も事務仕事がひと段落つくと、お手伝いに行ってたんだ。
 でも、当時20歳になったばかりの私が、半日の作業で、ぐったりしてしまう。
 丸一日頑張ったら、翌日、ベッドから起き上がれなくなりましたとさ。

 これを連日頑張ってくれている。
 すごいおばあちゃん達だと思わない?!
 ……私の祖母が確か80代で『大往生だ。長生きだ』って言われてた気がするから。
 あれ?あれ?ってなっちゃったわけだけど。

 北海道での私の周囲の90代は、自分も将来、こうありたいと思うほどに、とっても元気な方ばかりだった。
 矍鑠かくしゃくとしていて、毎日が楽しそうなんだもの。

 素敵な老後だと思うんだ。
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