私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

447、即座に怒る。即座に呆れる。私は後者。

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『先輩!先輩と、かわるようにって……はい』


 きっ!と、軽く私を睨みつけるように、強い口調で受話器の口元を押さえもせずに、突き出してきた。


(女性上司と話してた時と、私とでは、口調も声色も全く違うんですけど?!)


 そもそも、受話器を渡すときは『どうぞ』でしょ?
 ていうか、口元抑えないと、今の言葉も女性上司に丸聞こえだからね?!……なんて、思わなくはないのだけど。

 まぁ、今にも泣きそうな程に顔を真っ赤にしていたので、そこまでの気配りができる状況ではないんだろうな。と、同情もしてしまったところもあって、あえて今回は突っ込まないでおいた。


『どういう状況なの!?』

「えぇと、全滅です」

『どうすんのよ!!買い足しに行くにしても時間ギリギリよ?それ、なんとか食べれるようにならない?』

「そ、そう……ですね」


 あまりの大音響に、耳がキーンとなりかけて、思わず声が上ずる。

 受話器の向こうの、女性上司の悲鳴にも似た怒鳴り声の対応をしつつ、手元のメモに『使った洗剤はどれ?』と書いて、後輩に見せた。
 すると目の前の『キッチン』と名のついた塩素系の漂白剤を指差す。


「えぇぇ…?!…っと。うーん……いやぁ…しっかり漂白・・されちゃってまして……これは、無理です。出せません」


 まぁ確かにキッチン用だけどね……。
 あくまでキッチン用であって、食品用ではなかったねぇ…と、女性上司に説明しつつ、私も…遠い目になる。


『はあああああ?!』


 いや、耳が痛いですから!そんなに叫ばないでください。

 反射的に、受話器を耳から離したものの、少し対応が遅かったのか、耳が音を拾うのを放棄しかける。


(まぁ、受話器の向こうの、女性上司の悲鳴もわからなくはないけどね。それを目の当たりにしている私まで…変な声が出ちゃったじゃないですか……)


 水道水に入れられて窒息しただけなら、時間的に鮮度は問題なかったのだけど。
 流石に洗剤入りとか、漂白されてしまった生物ナマモノは、食べたくない。

 確かに…ホタテからは『磯の香り』ではなくて、ツンとした『漂白された香り(?)』がしていた。

 台拭きやシンクから漂白臭がしていたのなら、刺激臭は好きではないけど、清潔感があるし、掃除をしてくれたのかな?と好感が持てたのに。
 食品から、この刺激臭は……ダメだね。
 なんだか、とても毒々しく感じてしまう不思議。

 ただ…ね『ダメにしちゃいました。ごめんなさい』だけでは済まない。

 代替案を出さないと、バーベキューのメニューが減ってしまう。


(今日の収穫祭には、外部のお客様も数人招いていたから、普段以上に気をつけなければならなかったのに…どうしたものかなぁ)


 そう考えながら、女性上司と対応を考えている間にも、後輩は不自然にシンクにずらりと並べてあった洗剤を、私の視界から隠すように抱えこむと、キッチン内をうろうろしながら、片付けていく。

 ……クレンザーとか持ってたんだけど、もしかして、それも使ったのかしら?

 貝かな?きっと、貝の表面にだよね?!
 それもイヤだけど、でも、身には…使ってないよね?!

 まぁ…漂白剤使っちゃってる時点で、怖くて食べれないんだけど。

 それと、その洗剤、しまうとこ違うよ!
 それも、そこじゃない!
 そこ、調味料の棚だから、そんなとこに並べたら、間違えて使いかねないからっ!!





 ******






「……今朝、仕入れた売り場に問い合わせをしますので、間に合うようなら再度購入してきますが、よろしいでしょうか?」


 妥協案、と言うわけではないのだけど、今朝、ホタテを受け取った時に『今日はいっぱい獲れたんだよ!』と聞いていたので、もしかしたら……と提案をしてみた。


『お金渡すから、すぐ…行ってきて。あと、後輩をこっちに戻しなさい』

「はい…」


 では。と、言う前に内線はプツリと切れた。
 すると何事もなかったかのように、後輩が戻ってきていた。


『責任を持って、私が買ってきます!……肝心なところで、失敗されても困るし』

「いや……上司が呼んでたから、戻ってね」

『イヤです。私の仕事なので!』

「……じゃあ、一緒に戻りましょう」


 問い合わせをするにも、今ドキの携帯やスマホのように、相手の名前を選んですぐにつながるわけじゃないからね。
 電話は、ぽちぽちとボタンを押してかけるものです。

 というか、この後輩、いつもこんな感じなんだよなぁ。
 要領がすごく、良い。
 ……私が、鈍臭すぎるのかもしれないけど、でも、今回は逃げようがなさそう。


(そしてですね、通話中に傍でギャーギャー言われてたら…いや、そもそも電話番号を押すにも気が散るし)


 買いに行くにしても、事務室にいる女性上司から、ホタテの再購入のお金を受け取らなければいけない。
 先に車で待ってるとか、いろいろ言ってたけれど『何をするにも一度は戻らないと、何もできないよ?』と言うと、後輩はあからさまに怯えながら、首を横に振り続けた。


(でもさ、外出するにも、仕事中の外出になるからね。上司の許可が必要なのですよ?)


 事務室に戻ると、私の机の上にはすでに、お金と車のキーが置かれていたので『確かにお預かりします』と声をかけてから、出発……するふり・・をして。

 別の事務室から、今朝、ホタテを仕入れた店舗へと問い合わせをした。
 ……壁を隔てたいつもの事務室からは、女性上司の超特大の罵倒が響き渡ってたけど、気にしない。
 あ、気にしなきゃだめか。
 電話のBGMとして、相手の耳まで届かないと良いなと思いつつ。


(スマホとか携帯に普通に採用されてるノイズキャンセラとか…この時代には、なかったからねぇ。背景の音まで、相手にクリアに聞こえちゃうのよね。電話って)


 ちなみに。
 ドキドキしつつ問い合わせると『料亭出荷分にキャンセルが出たので、朝と同じ量のホタテの確保が可能だ』という返答をもらえた。
 急ぎ、取置とりおきをお願いして、玄関に向かった。

 外に出ると、すでに日は傾き始めていて、会場となるバーベキューコーナーからは、会場設営と、炭の準備とで実務部門の人が楽しげに、でも見事に右往左往しているのが見えた。


『炭の置き方!それじゃあ、火がまわらんだろ!』
『そこのとこ…ちょしたら、できんべ』

『あっ!何飲んでるんすか!』
『味見味見…今日のは美味いぞ?』


 耳が拾った会話だけでも、すごく楽しそうで。
 私も実務部門の準備部隊に混ざりたい……!と、思いつつ社用車へと急いだ。
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