私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

453、腹八分目が、どうしても出来ません。

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「ごちそうさまでした!」


 うふふふ…。
 満足満足。


 大福とか、かなり遅めだけど、お正月気分になれて、気持ちがほんわりする。

 ああ、えっと……年末にお餅をつくんだけどね。


(ご本家さんなんかだと、親族を集めての、お庭で炊き出しのようにして、お酒なんかを飲みながら子供達と餅つきをして…なんてのを昔はよくやってたのよ)


 ただ…私が孫たちに囲まれる頃には、あまり見かけなくなってた習慣…うーん、習慣じゃなくなっちゃったのかな?


 つきたてのお餅を板状にして、固まりかけたら切り分けて…よくお店にも売ってるようなお餅を作るのは、よく聞くでしょう?

 あれも、ちょっと丈夫なビニール袋に、臼からあげたばっかりの、熱々のお餅の塊を入れる。
 そのまま上から伸ばすと、手に張り付かなくて楽に成形できるし。
 切るときもラップを両面にペタッと貼り付けたみたいな状態になるからね。
 そのまま冷凍保存しても、冷凍ヤケとかの劣化が、しにくいんだ。


(とっても便利なのよ?って勧めたいけど。そもそもお餅…みんな買うわよね)


 うん、話がずれたわ!

 お餅はね、いっぱいついて鏡餅に板餅、その場で食べる分と……大福を作るんだよ。

 これも臼からつきたて熱々のお餅をバットにもらって、小さくちぎって餡子を包んで、大福を作るんだよ。
 お餅が熱いうちに、一気に作るのが美味しく作るポイントで。

 バットに大量に餡子を……1個分のぼた餅みたいに丸くして、たくさんに準備しておいて。
 熱々のお餅をちぎる係と、ちぎったお餅で餡子を包む係と、小袋に入れて個包装する係と。
 大体3人くらいで黙々と、作るんだ。

 個包装にした大福は、そのまま冷凍庫に入れちゃう。
 冷凍保存ですよ。

 あぁ、この時にね、粗熱をとってから、冷凍庫へ…ってやっちゃうと、硬い大福になっちゃうの。
 だから熱々のうちに、一気に凍らせちゃうんだよ。


(お餅自体にお砂糖を混ぜ込んでおくと、冷えても柔らかいままのお餅になるっていうのも知ってるんだけどね)


 これをやってしまうと、なかなか凍らないし、保存がきかなくなるって言われて。
 年末に作る大福にはあえて、入れてなかった気がする。
 まぁ、これはそれぞれの家の方針もあるだろうから、絶対ではないけどね。


 この大福があると、お正月が幸せなのよ。
 自然解凍で大福として食べてもいいし、お湯をかけたらお汁粉になる。


 年末に作るのにも意味があってね。

 確か『今までの黒星いやなこと白星いいことで塗り替えて来年へ』っていう意味だったかな?


(ほら、黒っぽい餡子(黒星)を真っ白なお餅(白星)で包んじゃうでしょう?)


 だって、名前の通り、大福だもん『大きな福になりますように』ってね。

 ……今までの、出来事を全て福に変えていける…と、いいなぁ。


(特に、ユージアとカイルザーク、エルネストに…王子たちも…って考えたら、ほぼ全員か!)


 嫌なこと、辛いことを『全て水に流せ』なんてのは、正直無理だし、難しいだろうけど。
 思い出す暇がないくらいに、楽しい思い出をいっぱい詰め込んで行けたら…と思う。
 それこそ、大福のように、たくさんの思い出で、嫌な記憶を包み込んでしまえたらいい。


 ふと、目の前の小皿に…まだいくつかあった小さな大福が、消えていることに気づく。

 あれ?と思って見上げると、お茶だけを残して、フレアが下げていってしまったところだった。

 まぁ……すでに腹八分目どころか、満腹すぎて別腹も満タン状態なんだけどね!

 うーん、幸せすぎた。






 ******






「さて…先ほどというか、今まさにハンスが話していたが……また誰も、聞いてなかったよな…?」


 父様の、微妙に自信のなさげな…いや、尻すぼみな声に、はっと顔をあげる。

 みんな同じ反応だったようで、カウンターに肘をついてこっちを見つめていたフレアが、思いっきり笑っているのが見えた。

 隣にいたルナが気づいて、フレアに何かを言う。
 するとフレアはカウンターに突っ伏した状態になって、金色の髪が、肩が、小刻みにふるふると震えていた。
 ……結局、笑ってるじゃん。


「もう少ししたら、お前たちの登庁の時間だ」


 ルークの抑揚のない声で『時間……』と言われて、無意識に空を見上げる。

 確かに朝日はとうに登りきって、きらきらと周囲の樹々からの木漏れ日を、こちらへと伸ばし始めていた。
 日差しが安定する直前の、刹那の美しさ。柔らかな日差しだ。

 このまま雲が移動してしまえば、今日は晴天かな?






 ******






「父さん、おはようございます。……えっと、お迎えに、あがりました?」

「何だその言い方は……」


 昨日に引き続き、食卓の片付けを手伝おうかと考えていたところで『避難所』の入り口のドアから、セグシュ兄様の声を耳が拾った。

 父様の呆れ声に、振り向くと、セグシュ兄様はしきりにきょろきょろと周囲を見渡しながら、こちらへ向かってくる。


「あっ…えっと、護衛しろって言われて来たんだけど、でも僕も同じく出廷することになってるから…どっちの言い方が相応ふさわしいのかなって……」


 ……少し首を傾げながら、明らかに困惑の表情のセグシュ兄様に、父様は笑う。


「ああ……そうだな、今日はセグシュも原告…被害者の席だ。兄としてで、良いと思うぞ?まぁ、護衛はしてもらうけどね」

「かしこまっ…っと、はい。頑張ります」

「……大丈夫か?」

「大丈夫なはずなんだけど…なんかこの部屋、すごく不思議な方向に変わってません?それと、めちゃくちゃ良い匂いしてませんか?」


 首の後ろを掻くようにして『見慣れなさすぎて、調子が狂うんだよ』と呟く。

 まぁそうだよね。
 今のこの部屋、半分が屋外みたいになってて、やたらと視界が広いし、内装も高級感というよりは、素朴?…ログハウス風っていうのかしら?
 思いっきり木造!って感じになってるから。

 そんな呟きを聞きながら、父様がにやりと笑う。


「ああ、朝ごはんがスペシャルだった。エルが作ってくれたんだが…これが絶品でね!」

「エルが作ったの?!」

「ああ!凄かったぞ!」


 自分に視線が集まったことに気づいたエルネスト、瞬時に顔を真っ赤にして視線を泳がし始める。
 褒められ慣れてないんだろうなぁ。可愛い。


「おおぅ…もう少し早く…来ればよかった…」


『朝……軽食だったんだよ……』と思いっきりうなだれているセグシュ兄様に、ふるふると先程から笑いが止まらなくなっているフレアが、口をむずむずさせながら、お茶と大福を勧めていた。
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