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はじまりはじまり。小さな冒険?
455、少しの昔話と、娘をもつ父親って。
しおりを挟む「ん……?ライトは、ハンスの若い頃を知っているのかい?」
『はんす…ルーク様ですねっ!もちろんですっ!』
「クソ親父の若い頃って?」
「こらっ!ユージア、クソは余計だよ。……いや、派手な火の魔法を使う…ハンスによく似た背格好のエルフがね、グロリオーサのお気に入りの記憶に居たんだよ。ただ、ハンスは炎じゃなくて氷の魔法が得意だったはずで……」
『あれは…ハンス様です…』
父様の耳元付近から、消え入りそうなほどに小さな声で…というか声だけ。
グロリオーサの声が聞こえた。
氷が得意…?そうだっけ?
むしろ、苦手が無いだけだったと、記憶してるんだけど。
グロリオーサの声に気づいた父様が、柔らかい笑みを浮かべる。
私を抱いていない方の手を伸ばして『おいで』と囁く。
すると、ふわりと熱風が起きると、腕におさまるように赤髪に金のメッシュが混ざった髪の…男の子が姿を現した。
「見たこともない騎士服に身を包んでいてね。……泣いていたんだ」
「へっ…?!」
余程、予想外だったのだろう。
ユージアの素っ頓狂な声が響く。
グロリオーサの記憶の中のルークは、単騎で街中に溢れた魔物の群れを一掃すると、血溜まりの中に落ちていた杖を拾い……泣いていたのだそうだ。
女性ものの杖を大切そうに拾い、抱きしめるように胸に寄せて、涙をこぼす。
その様が、ルーク自身の見目の美しさも相俟って、とても切なげで悲しくて。
「きっと、その杖の持ち主は…とても……大切な人だったんだろうね」
直前に見た、爆炎を駆使した戦闘技術よりも、ずっと印象に残ったのだそうだ。
(……って、ちょっとまって?それって…シシリーが死んだ直後なんじゃ……)
魔物を一掃していた、と言うことは、シシリーの全力の魔法でも、仕留めきれてなかったんだね。
あの場所に、グロリオーサもいたのかぁ…と、思わず見つめる。
目があったと思ってすぐに、恥ずかしそうに顔を背けられてしまったのだけど!
……あの照れ症、素なのかな?
まぁ照れて視線を背けるだけでさ、2人とも父様に抱っこされてる状態だから、それ以上、逃げる手段はないことに気づいて、思わず笑ってしまった。
グロリオーサは、私の笑みに余計に照れてしまって、両手で顔を覆うように隠されてしまった。
反応が新鮮すぎて、可愛い…!
「あの杖に見覚えがあってな……」
グロリオーサに話しかけようとしたところで、父様の言葉に、私の笑みが凍りつく。
あ、あの杖…ね。
……いや、まさに、今ここにあるやつだと思うんですがっ!!
(だって、その杖…どう考えたってシシリーの杖じゃないですかっ?!)
首が……父様を見上げることを拒否する中、ギギギっと音がしそうなほど勇気を振り絞って、父様を見つめる。
父様はにやりと笑ったあと、頷きながら急に真剣な眼差しになる。
「あのハンスが、その死に涙するほどの大切な相手の杖だ。……セシー、絶対に絶対に、大切にするんだぞ?!」
そんなこと言われなくても、お気に入りの杖だから。
絶対に適当な扱いはしません…まぁ、使えるようになってからのお話だけどね?
「もし破損なんてさせた日には…修理代がわりに婚約。なんて事になりかねん」
「えぇぇぇぇ」
大丈夫ですよ!と頷きかけて、父様のとんでもない婚約理由に、思わず変な声が出てしまった。
私の価値ってば、物凄く安いんだな……と聞こえそうだけど。
むしろ、あの杖が高いんです。高すぎるんです。
シシリーの一張羅だし!
当時でも高級品だったからね。
(今だと、性能はともかくとして、その杖に使われた素材だけでも、とんでもない額になるんじゃないかな?)
あと…作れる技術が残っているかも怪しいところ…と考えると、国宝クラスの装備品、という事になってしまう。
そんな杖をぽっきり折ってしまうと…ね。
修理も弁償もできないという、恐ろしい事態になってしまうからね。
「イヤそうだな…。まぁ立場上…ユージアの母親になっちゃうからなぁ……」
「「それはヤダ…」」
ユージアと私、同時に返事をしてしまって、父様がくすくすと笑い出す。
……笑い話じゃないからね?!
「いやいや…ユージアはともかく。普通の令嬢だったら、ハンスと婚約だなんて聞いた日には、卒倒する勢いで喜ぶもんなんだけどな…」
「そこは…普通じゃなくて良いです!」
「そうか?……家柄も条件も、申し分ないのだけどね。人柄は……ちょっと変わってるが。まぁ許容範囲だな。なにより、セシーを泣かさない」
父様は自信たっぷり、そして、どこか誇らしげに笑う。
いや…泣かしてますよ?
魔導学院で。と…思わず言いそうになったけど、やめた。
魔導学院での出来事は、ダメだ。
シャレになってない。
あの時のセシリアの姿が、幼児か大人かの違いが問題なんかじゃなくて……。
(これ、娘が父親に話したら絶対にダメなやつっっ!!)
しかも、ルークだけじゃなくて、ユージアも寝ぼけてやらかしてたし。
『避難所』での、幼い子供たちの雑魚寝ですら『セシリアは女の子だから』とベッドをきっちり分けようとしてたくらいだ。
一緒に寝てたどころか、思いっきり抱きつかれてたなんて。
きっと、父様が知ったら、ブチ切れちゃう……。
とはいえ、父様が本当に怒るところというのを、私は目撃したことがない。
でもやっぱり、怖いらしいんだよね。
(私が怒られる時は、基本的に諭すように、ちょっと呆れた笑いを浮かべながら、それでも優しく教えてくれていたから、全く想像がつかないんだけど…)
セグシュ兄様が言うには、父様が本気で怒ると、三日三晩、恐ろしくて1人で寝ることができなくなる位に、怖い!とか。
……って、兄様。そこまで父様を怒らせるとか……何をやらかしたんですか?!
この話を聞くと、この前の鉄拳は、本当の怒りではないだろうし。
なんにせよ、怖いのはイヤだから、黙っておこう……。
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