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一章
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その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。
――人ならざるほどの美貌を持つ者だ。
受け――名をリュシアンという青年は、その祝福を授かりながらも、決して傲慢にはならなかった。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持ちながら、彼はいつも穏やかに笑っていた。
彼の隣には、幼い頃から共に育った恋人――エリオスがいた。
強く、聡明で、誰よりもリュシアンを大切にする男。
家族と恋人に囲まれ、慎ましくも温かな日々。リュシアンは、何の疑いもなくそれが永遠に続くものだと信じていた。
――あの日までは。
◆
攻め――アーヴィスは、人の域を逸脱した存在だった。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
だが彼の心は、幼い頃から空虚だった。
その美貌と地位ゆえに、欲と媚に塗れた人間が群がり、彼は早々に世界への期待を失った。
そんな彼が、ある日、視察の途中で見かけたのがリュシアンだった。
同じように整った顔立ち。
だが、決定的に違う。
彼は――幸せそうに笑っていた。
家族と肩を並べ、恋人と視線を交わし、何気ない日常を慈しむように生きている。
その姿が、理解できなかった。
「……なぜだ」
興味本位だった。
だが、調べるうちに、アーヴィスの中で何かが狂い始める。
欲しい。
ただ、それだけだった。
◆
アーヴィスは力を使った。
家族を、恋人を、人質に取るという最も卑劣な方法で。
「君が従えば、彼らは無事だ」
その言葉に、リュシアンは震えながらも頷いた。
「……わかりました」
その日から、彼の世界は檻に変わった。
豪奢な屋敷。
誰もが羨む地位。
だが、そこに自由はなかった。
アーヴィスは、恋人のような関係を求めた。
触れ、寄り添い、微笑みを要求した。
リュシアンは拒まなかった。
拒めなかった。
――大丈夫。
――みんなが生きていれば、それでいい。
そう言い聞かせながら、心を削っていった。
◆
エリオスには会えない。
家族の声も聞けない。
日に日に、リュシアンの笑顔は薄れていった。
それでも彼は耐えた。
だが――
ある日、知らせが届く。
魔獣の大群が、彼の故郷を襲った。
街は壊滅し、生存者は確認できない、と。
リュシアンは、地位ある者しか住めない区画にいたため、無傷だった。
それが、何よりも残酷だった。
「……あ、ぁ……」
声にならない声が漏れる。
すべてを失った。
守るために差し出した心も、
耐え抜いた時間も、
何一つ、意味を成さなかった。
その夜、リュシアンは静かに命を断とうとし
――失敗した。
◆
深い昏睡。
目を覚まさない白い身体。
それを前に、アーヴィスは初めて崩れ落ちた。
「……私が、壊した」
興味だった。
欲だった。
それが、すべてだった。
リュシアンが失ったものの重さを、
彼はようやく理解した。
昏睡状態の彼の手を、アーヴィスは震える指で包む。
「……すまない」
返事はない。
それでも彼は、離れなかった。
罰のように、祈るように、
彼の傍で、ただ寄り添い続ける。
目を覚ますかどうかも分からない青年を前に、
英雄は初めて、
何も持たぬ人間として、そこにいた。
白花は、檻の中で眠り続けている。
それでも――
後悔だけが、確かにそこにあった。
――人ならざるほどの美貌を持つ者だ。
受け――名をリュシアンという青年は、その祝福を授かりながらも、決して傲慢にはならなかった。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持ちながら、彼はいつも穏やかに笑っていた。
彼の隣には、幼い頃から共に育った恋人――エリオスがいた。
強く、聡明で、誰よりもリュシアンを大切にする男。
家族と恋人に囲まれ、慎ましくも温かな日々。リュシアンは、何の疑いもなくそれが永遠に続くものだと信じていた。
――あの日までは。
◆
攻め――アーヴィスは、人の域を逸脱した存在だった。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
だが彼の心は、幼い頃から空虚だった。
その美貌と地位ゆえに、欲と媚に塗れた人間が群がり、彼は早々に世界への期待を失った。
そんな彼が、ある日、視察の途中で見かけたのがリュシアンだった。
同じように整った顔立ち。
だが、決定的に違う。
彼は――幸せそうに笑っていた。
家族と肩を並べ、恋人と視線を交わし、何気ない日常を慈しむように生きている。
その姿が、理解できなかった。
「……なぜだ」
興味本位だった。
だが、調べるうちに、アーヴィスの中で何かが狂い始める。
欲しい。
ただ、それだけだった。
◆
アーヴィスは力を使った。
家族を、恋人を、人質に取るという最も卑劣な方法で。
「君が従えば、彼らは無事だ」
その言葉に、リュシアンは震えながらも頷いた。
「……わかりました」
その日から、彼の世界は檻に変わった。
豪奢な屋敷。
誰もが羨む地位。
だが、そこに自由はなかった。
アーヴィスは、恋人のような関係を求めた。
触れ、寄り添い、微笑みを要求した。
リュシアンは拒まなかった。
拒めなかった。
――大丈夫。
――みんなが生きていれば、それでいい。
そう言い聞かせながら、心を削っていった。
◆
エリオスには会えない。
家族の声も聞けない。
日に日に、リュシアンの笑顔は薄れていった。
それでも彼は耐えた。
だが――
ある日、知らせが届く。
魔獣の大群が、彼の故郷を襲った。
街は壊滅し、生存者は確認できない、と。
リュシアンは、地位ある者しか住めない区画にいたため、無傷だった。
それが、何よりも残酷だった。
「……あ、ぁ……」
声にならない声が漏れる。
すべてを失った。
守るために差し出した心も、
耐え抜いた時間も、
何一つ、意味を成さなかった。
その夜、リュシアンは静かに命を断とうとし
――失敗した。
◆
深い昏睡。
目を覚まさない白い身体。
それを前に、アーヴィスは初めて崩れ落ちた。
「……私が、壊した」
興味だった。
欲だった。
それが、すべてだった。
リュシアンが失ったものの重さを、
彼はようやく理解した。
昏睡状態の彼の手を、アーヴィスは震える指で包む。
「……すまない」
返事はない。
それでも彼は、離れなかった。
罰のように、祈るように、
彼の傍で、ただ寄り添い続ける。
目を覚ますかどうかも分からない青年を前に、
英雄は初めて、
何も持たぬ人間として、そこにいた。
白花は、檻の中で眠り続けている。
それでも――
後悔だけが、確かにそこにあった。
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