異世界で『索敵』スキルが最強なの? お前らの悪事は丸っと全てお見通しだ!

花咲一樹

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第一章

第19話 サイドチェンジ2 『灯火』 《アルフィーナ王女》

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 最悪です。最低に最悪です。
 私の婚約者が決まりました。ナイトバロン・ライト・サクライです。

 先日迄はバルミスラ国の王子との縁組みが進められていました。小さい頃から政略結婚をするのだから、恋愛などするなと言われ育てられてきました。
 舞踏会で素晴らしい殿方に求愛されてもお断りして参りました。
 私に『恋』というものは有りません。全ては此の国の未来の為の、政略結婚が有るだけでした。

 バルミスラ国の王子は、其れはもう真ん丸で横も縦も酷く、醜いオークの様な容姿に、私の事を嫌らしく見るあの眼差しも、とても気持ち悪く吐き気を催しました。
 でも『恋』を知らない私はきっと耐えられました。愛の無い夫との生活は、幼い頃から覚悟してまいりました。だから耐えられたと思います。しかしバルミスラ国との縁談は、誘拐事件により白紙となりました。

 新たにその事件で活躍し、其の後の魔人国の侵攻を智謀で阻止した英雄ライト・サクライとの婚約が決まりました。
 しかしライト・サクライは駄目です。最低最悪に駄目です。きっと私の心は粉々に砕けてしまいます。

 お父様はおっしゃいました。ライト・サクライは世界に類をみない素晴らしいスキルを持っていると。
 カイゼス大将軍は言いました。ライト・サクライはスゲェ奴だと。
 ラミネス宰相は言いました。ライト・サクライは世界の至宝だと。
 そして、メイアが認めたのです。ライト・サクライの封爵ほうしゃくを推薦したのは、あのメイアだとの事でした。
 ライト・サクライという者は、其れはもうとてもとても素晴らしい方なのでしょう。

 だから駄目なのです……。
 だから私の心は砕け散るのです……。
 涙が出て来ます。悲しい寂しい冷たい涙が溢れて来ます。
 そんな素晴らしい方と一生を共にする事など、私の心は耐えられません。耐えられ無い理由が有ります。
 私のスキルは『灯火』。小さい明かりを灯すだけのスキル。レベル1の魔法使いでも使える『明かり』の様な魔法。

 我が国の王の直系は特殊で強力なスキルを保有します。お父様のスキルは『威圧』。その視線に睨まれた者は屈伏する王のスキル。弟のスキルは『讃歌』。神々の力を引き寄せ聖職者に力を与える奇跡の技。素晴らしいスキルです。

 でも私は違った。
 王の直系でありながら、皆の期待には答えられないハズレスキル。小さい頃は皆から大きくなれば素晴らしいスキルになると言われてきました。しかし何年たっても、今になっても『灯火』は小さい明かりを灯すだけです。もう其の光は私の心の深淵に沈みました……。

 ……私の心のトラウマ。幼少の頃からの心の深い深い傷は、今となっても打ち勝つ事は出来ません。耐える事も出来ません。
 だからライト・サクライは絶対に駄目なのです。

 扉がノックされました。誰が来たか分かります。ナイトバロン・ライト・サクライです。

「し、失礼します」

 私の部屋に入ってきたライト・サクライは剛力さも堅実さも感じさせない風貌でした。
 しかし彼は凄いスキルを持っている。お父様達をして『凄い』と言わせる素晴らしいスキルを持っている。だから私は貴方あなたを絶対に認めない!

「な、泣かれているのですか?」

 彼は私に話しかけてきました。そんな軽い言葉は幾らでも聞いて来ました。

「すみません。私などが婚約者などになってしまって」

 ナヨナヨした態度に段々イライラして参りました。そうです。私は貴方とは結婚しない。結婚したくない。だから私は言いました。

「貴方とは絶対に結婚しません!」
「…………」
「貴方とは結婚出来ないのです……」

 また涙が溢れて来ました。悔しい。悔しい。悔しい。スキルに恵まれている貴方には分からない私の闇。

「私は貴方と比べられながら、寄り添い歩く事は出来ません。其れは貴方のスキルが素晴らし過ぎるからです!」

 私は泣きながら訴えました。期待されながらも持たざる者の苦しみを。

「い、いえ、私のスキルはその~、たまたまというか……」

 もう我慢の限界です!

「見て下さい!此れが私のスキル『灯火』です。王族に生まれ、周りから期待されたスキルが、どんな暗闇でも照らすだけの小さな明かりです!貴方のような素晴らしいスキルを持つ人には、私の苦しみは分かりません!私は貴方を否定します。だから絶対に貴方とは結婚出来ません!……私の心の傷を広げないで下さい…………」

 私は泣いた。ふと彼を見ると彼も泣いていた。哀れみの涙などに私は騙されません!

「暖かい……。なんて暖かい光なんだ……。俺はこんなにも暖かい光を見た事がない」

 彼は大粒の涙を流し、私の『灯火』の光に両手を添えています。

「凄い」

 凄い?

「こんな凄い光が有るなんて……」
「な、何を言ってるのですか?」
「此の光はでも照らす光なのですよ。
 世界を漆黒の闇が襲った時でも、此の光だけは光続ける。人々の希望の光として光続ける。
 人は深い深い深淵の底に心を落とされた時に、生きていける程強くない。(この人は知っている深い闇を…)でもそんな深い闇の中でも、一つの『灯火』が有れば生きて行ける。希望が持てる!」

 彼は立ち上がり私を見つめ、光輝く涙と笑顔を浮かべ、こう言いました……。

「姫様、この光は掛け替えの無い、世界の希望の光です。絶やすことなく光を灯していて下さい!」

 涙が出て来ます。体が熱い。心が熱い。涙が熱い……。

「で、では失礼します。国王様には振られちゃいましたと伝えておきますね」

 彼はそう言って扉に向かいます。

 涙が沢山溢れて来ます。
 彼は言った。私の『灯火』が素晴らしいと。
 彼は言った。私の『灯火』が人々の希望の光だと。
 彼は言った。私の『灯火』はどんな暗闇でも照らす、掛け替えのない光だと。
 お父様も、お母様も、誰も、私で冴えも諦めていた私の『灯火』。心の深淵に沈んだ小さな光……。彼が、彼だけが私の『灯火』の小さな光に気が付いてくれた…。

 私の心は感じた事の無い暖かい気持ちが溢れて来ます。
 此れは何?
 ううん、知ってる。
 此れは私が捨てたはずの『恋』。私は、私は彼に『恋』をしたのです。私の初恋……。

 行かないで下さい…。

 私は貴方と結婚がしたい……私は貴方と…
(私は貴方とは絶対に結婚しません!)
 私は言ってしまったんだ。彼を否定する言葉を……。私は彼を何も知らない、知ろうともせずに言ってしまった……。

 やだ。やだ。いやです、やだやだ、私は、私は……

「ウワアアア~~~~~~」

 大声で泣きました。彼が行ってしまった。彼が私の前から消えてしまった。私には彼しかいないのに。彼しか愛せないのに。私が彼を傷付けたから。私がバカだったから。私が、私が、私が……


 そっと暖かい手が私を包んでくれました…。

「大丈夫ですか姫様」

 彼が私を暖かく包んでくれました…。
 私は彼に抱き付きました。彼の肩に顔を埋め泣きました。離さない。私は貴方を離したくない。だから私を離さないで下さい。お願いします。お願いします。お願いします。

「私を…離さないで下さい……」
「はい(微笑み)」

 私の頬を優しくいとおしく暖かい涙が流れ落ちます。私の心に彼が灯した『灯火』が灯ります。其れはとてもとても、とても暖かい光でした……。



「お父様!」

 私はお父様の部屋の扉を開けました。お父様とお母様が私を見ます。

「お父様!今後一切お父様が縁組みを持って来ても、私は絶対お受け致しません!」
「ライトがそんなに気に入らなかったか?」
「お父様は私のスキルをどう思っていますか?」
「アルフィーナ……。其の話しは……。もう諦めよう」
「そうですよアルフィーナ……。スキルが無くても貴女は十分に素敵な淑女レディなのですよ」
「お父様も、お母様もライト様の心の深さには敵いませんね!」

 お父様とお母様は呆けた顔で私を見ています。

「ライト様は見つけてくれました。私の深淵で光る小さな光を。ライト様は仰いました。私の『灯火』はどんな暗闇でも光る、深い漆黒が世界を襲っても、光続ける希望の光だと。暖かい光だと。掛け替えのない光だと。ライト様だけが、お父様でもお母様でも私でも無い、ライト様だけが私の心を救ってくれたのです……」

 私はまた暖かい涙が流れて来ました。

「だから私はライト様以外の方とは絶対に結婚しません!」

 私はお父様にしがみつきました。

「お願いします。お父様お願いします。私はライト様以外の方を愛する事は出来ないのです……」

 お父様とお母様は私を優しく抱き締めてくれました。
 私達3人は静かに暖かい涙を流し泣きました。

 ライト様。心からお慕い申しております。
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