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第三章
第48話 異世界で選挙をやってみよう!
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翌日、帝都は教会が張り出した紙に人々が群がり、彼方此方で其の話題が飛び交っていた。
【ブリオタウス三世皇帝が崩御した後の帝都は混沌の魔に取り憑かれています。皇后様、皇子様、皇姫様迄が薨御され、大司教様は我らが神たるイルフィニス女神様に祈祷する日々を過ごして参りました。
そして昨日の事、イルフィニス女神様よりご神託を授かりました。女神様は仰いました。帝国の皇帝は帝国民を代表して帝都民の意志に委ねよと。
従いまして神の使徒たる我が聖イルフィニス教会はご神託に基づき以下に次期皇帝を決める為の規定を定めました。
①次期皇帝を名のる者は3日以内(10月8日迄)に聖イルフィニス教会の女神像の前で宣誓を述べる事
②10歳を越える帝都民は宣誓した者の中から次期皇帝にたると思う者を選ぶ事
③10歳を越える帝都民は10日後(10月18日)に聖イルフィニス教会にて投票を行う事
④賄賂、供応、脅迫等の不正、及び不当な候補者への強権的な処置や処罰について聖イルフィニス教会は此れを認めず、神の名の元、処罰する権利を有す事
⑤投票は各地区にある教会に投票箱が設置され、投票をする。また投票者は清浄石にて潔白を明らかにした後、投票を行う事
⑥開票には各候補者から代表者を出し、清浄石にて潔白を明らかにした後、開票を行う事】
つまり次期皇帝を帝都民による選挙で決めるとのお達しである。帝都民は此の御触れに困惑しながらも、其の内容の潔癖性に感心し、御告げを開示した聖イルフィニス教会を褒め称えた。
此の御告げはカトレア姫が教会に宛てた手紙に基づくものだ。昨夜、カトレア姫から手紙の内容を聞いた俺は、教会主導で選挙をさせようと考えたアイディアにビックリした。
此の手法で有れば帝位継承権第3位のルバルト皇子が帝位に着いても帝国民から不満が出る事は無い。
しかも後見人がいないカトレア姫は論外で有り、カリス皇子は後見人が軍部で有る為、富国強兵策等を取られては帝国民はたまったものではない。よって現時点で教会側のルバルト皇子は100%勝てる状況だ。
此のカトレア姫からの打診を教会側が断る理由は何処にも無かった。
そしてカトレア姫も暗殺される事は無くなる。教会側も彼女が身の安全を確保する為の苦肉の策程度にしか考えないだろう。
しかし、ぽ~っとして見えるカトレア姫は皇帝の座を狙っていた。此の話しを彼女から聞いた時は「皇帝は帝国民に選ばせましょう」程度の話しだったので、公職選挙法に疎い俺は急遽、白山先生、新藤君、更にはフローランス領からナタリアさんを彩月と岡本さんで連れてきて貰った。オリバーさんも着いて来たけどね(苦笑い)。
そして出来上がったのが貼り出されている選挙規定だった。期間も短く、教会側に主導権を持たせる事で、開票迄は酷い不正は生じないだろうとの打算で、細かい不正防止ルールは割愛する事とした。
因みに清浄石を使う様に進言してくれたのはナタリアさんだ。清浄石に触れて宣誓する言葉に偽りが有れば赤く光る石だとか?
話し合いの席ではナタリアさんとカトレア姫は目を輝かせて俺達のやり取りを聞いていたよ。
斯くしてカトレア姫とカリス皇子は正攻法での選挙戦を勝たなければ皇帝の座に付く事は出来なくなった。
カトレア姫は「どうしましょう~」等と選挙をする事は考えてはいても、選挙戦を如何に戦うかは考えていなかったようだよ(汗)。
「先ずは帝都民にカトレア皇姫様の顔と人となりを覚えて貰う事が必要ですね。私が調べた限りでは、カトレア皇姫様は知名度が低いと思われます」
俺は率直に言ってみた。
「はい~。私は引きこもりして~おりましたので~、帝都民のぉ皆さんはぁ、私の事はぁ、誰も知らないとぉ思いますぅ~(ニコ)」
ニコじゃ無いよね(汗)。新藤君も頭を抱えていたよ(苦笑い)。
「選挙ポスターから始めるか。選挙カーや街頭演説にしても誰も皇姫様を知らないんじゃ話しにならない。其れと宰相一派への根回しだな。後見人には付かないにしろ、万が一当選した際には、皇姫様に付いて貰う様に話しておけば、彼らの票は此方に入る」
万が一に当選って……(汗)。新藤君は相変わらずズバズバと意見を出す。
「選挙ポスタぁーてぇ、何ですかぁ?」
「皇姫様のお写真と政策案等のマニフェストを紙に起こし、帝都内の人が集まる場所に掲示します」
「選挙カァーってぇ、何ですかぁ?」
「馬車に乗って帝都内を挨拶しながら巡回します」
新藤君とカトレア姫のやり取りを聞いていたナタリアさんが
「相変わらず貴方達は面白いわね。選挙ポスターも選挙カーも初めて聞いたわ」
「何れにしろ人手が必要だ。準備するにしろ此処では厳しい。光斗、一度ノワールの搭に戻る方が良さそうだな」
「彩月、みんなを連れてまだ跳べる?」
「うん、大丈夫だよ」
こうして俺達はカトレア姫、老執事のアルパンさん他3人の侍従さんを連れてノワールの搭に帰搭した。
◆
「「「…………」」」
「凄いですぅ!あり得ないぃ事がぁあり得てますぅ~!」
ノワールの搭に跳んできた時は、カトレア姫やアルパンさん達は目を白黒させていた。2500Kmを一瞬で跳んできたのだ。其れはビックリするよね。
カトレア姫をお城迄連れて来た以上、流石に黙っている訳にも行かないので、国王様に謁見し、事情を説明した。ビックリしたのは国王様とお話しした時のカトレア姫だ。まともに喋っていたよ?
「私ぃだって頑張ればぁ、普通にぃお話し出来ますぅ」
と後で言っていたけど……。頑張らないと普通に喋れないんだね(苦笑い)。
国王様からはヤるからには勝ってみせよと言われた。実は帝国の宰相からラグナドラグーンに協力の要請があったようだ。帝国宰相は自国内での優位性を持たない為、他国への協力要請をしていた。軍事政権や教会政権ではラグナドラグーン含め他国も苦労する。現政権が概ね維持された方が良い国も多い。
ノワールの搭1階に有る大広間にナイトウイングスの全員に集まって貰った。立候補期間の3日以内に政策案やマニフェスト作成、ポスターや冊子、街頭演説、選挙馬車等々、準備する事は多々ある。幾つかの班に分かれ準備を進める。
オタトリ君や渡辺さん達には冊子用の漫画を描いて貰う。字が読めない人や子供達にもマニフェストを分かりやすく説明する為だ。しかも冊子は正方形になる様に作り、終わりのページには紙鶴や紙飛行機等の折り紙の折り方を掲載し、読み終わった後に遊べる様にする予定だ。
◆
俺とカトレア姫、白山先生に新藤君、ナタリアさんは、俺の執務室の会議用ソファーに座り、マニフェストについて相談していた。因みにメイアさんとアルパンさんは座らずにソファーの後ろに立っている。
「カトレア皇姫様は、今後の帝国をどのようにしていきたいとお考えですか」
俺はカトレア姫様に今後の政策を聞いてみた。
「先ずはぁ、南方での戦争を止めてぇ、軍事費を内政にぃ向けたいとぉ思いまぁすぅ~」
「戦争を止めるのは大賛成です。他には?」
「みんながぁ笑顔になるぅ国にしたいですぅ~。南方戦線のぉ影響やぁ、皇族の不幸でぇ、帝国にぃ笑顔がぁ無くなってぇいますぅ」
カトレア姫は悲しげな顔で、笑顔の国を取り戻す決意をしていた。
「サツキサン、帝都民が持つ不安や不満って何かな?」
「イエス、マスター。帝都不満度ランキングでは、(出た!謎のサツキサンランキング!)
1位、戦争
2位、物価が高い
3位、税金が高い
4位、政治への不安
5位、給料が安い
6位……」
「戦時下におけるスタグフレーションが帝都民の不満になっているな」
「「「スタグフレーション???」」」
聞き慣れない言葉を口にした新藤君をみんなが見た。
「要するに景気が上がらないインフレだ。帝国は戦時国債を発行せずに税金を上げる事で軍事費を賄った為、市場から通貨が消えた。
併せて軍隊が食料等を安く買い叩き、大量に戦地に持って行くから物資も市場から薄くなり物価が高騰、働き手の男性も戦地に行っているから人手不足の上に賃金も上げられない。
こういった要因で発生する不況下のインフレをスタグフレーションと言う」
白山先生以外のみんなが『?』の顔になったが、原因が戦争に有るなら基本的にカトレア姫の政策は的を外してはいないようだ。
俺達はあ~でも無い、こ~でも無いで、カトレア姫が掲げる3つの政策を作った。
①平和を目指す国
②笑顔で暮らせる国
③綺麗で明るい国
①は南方戦線の撤退、②は経済回復、③は美化活動とインフラ整備となる。
③については不満度ランキング8位の街の中が臭いの解決にもなる。大都市である帝都オルマルクにはスラム街が幾つもある。それらのスラム街には下水道が整備されていない。其の為、スラム街周辺は酷い異臭が漂っているようだ。
政策の目玉は此処の下水道工事だ。新藤君、ナタリアさんの考えでは、
「今の高い税金は基本的には下げない。せっかく前政権が高い税金にしたんだ。下げない方が国の運営的にはいいし、悪いのは前政権って事にしておけば、カトレア皇姫が非難される事は無いだろう」
「高い物価も維持します。高過ぎる物は下げるとしても企業利益として高い物価相場は悪く無いのよね」
「其の上で相場より高い賃金で人を雇いインフラ整備の公共工事を出す。高い物を高く買えるプチバブル経済を作り、スタグフレーションをインフレーションに誘導する。やり過ぎるとバブル崩壊やハイパーインフレが起きるから、注意は必要だが、今の経済より良くなるはずだ」
って事のようだよ???
◆
立候補エントリー迄の3日間はカトレア姫の写真撮影やキャンバスを使ったポスター作りや、選挙馬車製作、オタトリ君、渡辺さん達が描いた漫画の冊子の大量生産等、みんな一丸となって選挙準備に勤しんだ。
◆
カトレア姫は渡辺さん達の漫画に甚く感動していた。此の世界に漫画が無いからってだけではなく、其の訴えかける内容もとても分かりやすかったからだ。
“『アンドレ、貴方は戦地に行ってしまうのですね……』
涙を流す美少女。
『すまないマーガレット、戦地に行ったら俺は生きて帰って来れない』
歯を食いしばる美少年。
『行かないでアンドレ!』
美少女は涙を流しながら美少年を抱きしめる。
『俺だって行きたくない。でも此れは国が決めた事なんだ』
美少年も瞳に涙を溜め美少女を抱きしめる。
其処に謎の女性が現れた。
『お困りのお二人に朗報ですぅ~』
『『朗報?』』
『新皇帝選挙の立候補者のカトレア皇姫殿下は、戦争の無い平和で~、笑顔溢れる~、綺麗な帝国をお創りになる事を、政策の柱に掲げています~。
貴殿方の清き1票が帝国の明るい未来を創ります~。
投票日にはカトレア皇姫殿下に投票しましょう~(ニコ)』
少年と少女は見つめあった。
『マーガレット!』
『アンドレ!』
『『カトレア様に投票しよう!』』
10月18日の投票日。
投票会場である教会で、二人はカトレア皇姫殿下の名前を書き投票をした。明るい未来が来る事を信じて……。”
【ブリオタウス三世皇帝が崩御した後の帝都は混沌の魔に取り憑かれています。皇后様、皇子様、皇姫様迄が薨御され、大司教様は我らが神たるイルフィニス女神様に祈祷する日々を過ごして参りました。
そして昨日の事、イルフィニス女神様よりご神託を授かりました。女神様は仰いました。帝国の皇帝は帝国民を代表して帝都民の意志に委ねよと。
従いまして神の使徒たる我が聖イルフィニス教会はご神託に基づき以下に次期皇帝を決める為の規定を定めました。
①次期皇帝を名のる者は3日以内(10月8日迄)に聖イルフィニス教会の女神像の前で宣誓を述べる事
②10歳を越える帝都民は宣誓した者の中から次期皇帝にたると思う者を選ぶ事
③10歳を越える帝都民は10日後(10月18日)に聖イルフィニス教会にて投票を行う事
④賄賂、供応、脅迫等の不正、及び不当な候補者への強権的な処置や処罰について聖イルフィニス教会は此れを認めず、神の名の元、処罰する権利を有す事
⑤投票は各地区にある教会に投票箱が設置され、投票をする。また投票者は清浄石にて潔白を明らかにした後、投票を行う事
⑥開票には各候補者から代表者を出し、清浄石にて潔白を明らかにした後、開票を行う事】
つまり次期皇帝を帝都民による選挙で決めるとのお達しである。帝都民は此の御触れに困惑しながらも、其の内容の潔癖性に感心し、御告げを開示した聖イルフィニス教会を褒め称えた。
此の御告げはカトレア姫が教会に宛てた手紙に基づくものだ。昨夜、カトレア姫から手紙の内容を聞いた俺は、教会主導で選挙をさせようと考えたアイディアにビックリした。
此の手法で有れば帝位継承権第3位のルバルト皇子が帝位に着いても帝国民から不満が出る事は無い。
しかも後見人がいないカトレア姫は論外で有り、カリス皇子は後見人が軍部で有る為、富国強兵策等を取られては帝国民はたまったものではない。よって現時点で教会側のルバルト皇子は100%勝てる状況だ。
此のカトレア姫からの打診を教会側が断る理由は何処にも無かった。
そしてカトレア姫も暗殺される事は無くなる。教会側も彼女が身の安全を確保する為の苦肉の策程度にしか考えないだろう。
しかし、ぽ~っとして見えるカトレア姫は皇帝の座を狙っていた。此の話しを彼女から聞いた時は「皇帝は帝国民に選ばせましょう」程度の話しだったので、公職選挙法に疎い俺は急遽、白山先生、新藤君、更にはフローランス領からナタリアさんを彩月と岡本さんで連れてきて貰った。オリバーさんも着いて来たけどね(苦笑い)。
そして出来上がったのが貼り出されている選挙規定だった。期間も短く、教会側に主導権を持たせる事で、開票迄は酷い不正は生じないだろうとの打算で、細かい不正防止ルールは割愛する事とした。
因みに清浄石を使う様に進言してくれたのはナタリアさんだ。清浄石に触れて宣誓する言葉に偽りが有れば赤く光る石だとか?
話し合いの席ではナタリアさんとカトレア姫は目を輝かせて俺達のやり取りを聞いていたよ。
斯くしてカトレア姫とカリス皇子は正攻法での選挙戦を勝たなければ皇帝の座に付く事は出来なくなった。
カトレア姫は「どうしましょう~」等と選挙をする事は考えてはいても、選挙戦を如何に戦うかは考えていなかったようだよ(汗)。
「先ずは帝都民にカトレア皇姫様の顔と人となりを覚えて貰う事が必要ですね。私が調べた限りでは、カトレア皇姫様は知名度が低いと思われます」
俺は率直に言ってみた。
「はい~。私は引きこもりして~おりましたので~、帝都民のぉ皆さんはぁ、私の事はぁ、誰も知らないとぉ思いますぅ~(ニコ)」
ニコじゃ無いよね(汗)。新藤君も頭を抱えていたよ(苦笑い)。
「選挙ポスターから始めるか。選挙カーや街頭演説にしても誰も皇姫様を知らないんじゃ話しにならない。其れと宰相一派への根回しだな。後見人には付かないにしろ、万が一当選した際には、皇姫様に付いて貰う様に話しておけば、彼らの票は此方に入る」
万が一に当選って……(汗)。新藤君は相変わらずズバズバと意見を出す。
「選挙ポスタぁーてぇ、何ですかぁ?」
「皇姫様のお写真と政策案等のマニフェストを紙に起こし、帝都内の人が集まる場所に掲示します」
「選挙カァーってぇ、何ですかぁ?」
「馬車に乗って帝都内を挨拶しながら巡回します」
新藤君とカトレア姫のやり取りを聞いていたナタリアさんが
「相変わらず貴方達は面白いわね。選挙ポスターも選挙カーも初めて聞いたわ」
「何れにしろ人手が必要だ。準備するにしろ此処では厳しい。光斗、一度ノワールの搭に戻る方が良さそうだな」
「彩月、みんなを連れてまだ跳べる?」
「うん、大丈夫だよ」
こうして俺達はカトレア姫、老執事のアルパンさん他3人の侍従さんを連れてノワールの搭に帰搭した。
◆
「「「…………」」」
「凄いですぅ!あり得ないぃ事がぁあり得てますぅ~!」
ノワールの搭に跳んできた時は、カトレア姫やアルパンさん達は目を白黒させていた。2500Kmを一瞬で跳んできたのだ。其れはビックリするよね。
カトレア姫をお城迄連れて来た以上、流石に黙っている訳にも行かないので、国王様に謁見し、事情を説明した。ビックリしたのは国王様とお話しした時のカトレア姫だ。まともに喋っていたよ?
「私ぃだって頑張ればぁ、普通にぃお話し出来ますぅ」
と後で言っていたけど……。頑張らないと普通に喋れないんだね(苦笑い)。
国王様からはヤるからには勝ってみせよと言われた。実は帝国の宰相からラグナドラグーンに協力の要請があったようだ。帝国宰相は自国内での優位性を持たない為、他国への協力要請をしていた。軍事政権や教会政権ではラグナドラグーン含め他国も苦労する。現政権が概ね維持された方が良い国も多い。
ノワールの搭1階に有る大広間にナイトウイングスの全員に集まって貰った。立候補期間の3日以内に政策案やマニフェスト作成、ポスターや冊子、街頭演説、選挙馬車等々、準備する事は多々ある。幾つかの班に分かれ準備を進める。
オタトリ君や渡辺さん達には冊子用の漫画を描いて貰う。字が読めない人や子供達にもマニフェストを分かりやすく説明する為だ。しかも冊子は正方形になる様に作り、終わりのページには紙鶴や紙飛行機等の折り紙の折り方を掲載し、読み終わった後に遊べる様にする予定だ。
◆
俺とカトレア姫、白山先生に新藤君、ナタリアさんは、俺の執務室の会議用ソファーに座り、マニフェストについて相談していた。因みにメイアさんとアルパンさんは座らずにソファーの後ろに立っている。
「カトレア皇姫様は、今後の帝国をどのようにしていきたいとお考えですか」
俺はカトレア姫様に今後の政策を聞いてみた。
「先ずはぁ、南方での戦争を止めてぇ、軍事費を内政にぃ向けたいとぉ思いまぁすぅ~」
「戦争を止めるのは大賛成です。他には?」
「みんながぁ笑顔になるぅ国にしたいですぅ~。南方戦線のぉ影響やぁ、皇族の不幸でぇ、帝国にぃ笑顔がぁ無くなってぇいますぅ」
カトレア姫は悲しげな顔で、笑顔の国を取り戻す決意をしていた。
「サツキサン、帝都民が持つ不安や不満って何かな?」
「イエス、マスター。帝都不満度ランキングでは、(出た!謎のサツキサンランキング!)
1位、戦争
2位、物価が高い
3位、税金が高い
4位、政治への不安
5位、給料が安い
6位……」
「戦時下におけるスタグフレーションが帝都民の不満になっているな」
「「「スタグフレーション???」」」
聞き慣れない言葉を口にした新藤君をみんなが見た。
「要するに景気が上がらないインフレだ。帝国は戦時国債を発行せずに税金を上げる事で軍事費を賄った為、市場から通貨が消えた。
併せて軍隊が食料等を安く買い叩き、大量に戦地に持って行くから物資も市場から薄くなり物価が高騰、働き手の男性も戦地に行っているから人手不足の上に賃金も上げられない。
こういった要因で発生する不況下のインフレをスタグフレーションと言う」
白山先生以外のみんなが『?』の顔になったが、原因が戦争に有るなら基本的にカトレア姫の政策は的を外してはいないようだ。
俺達はあ~でも無い、こ~でも無いで、カトレア姫が掲げる3つの政策を作った。
①平和を目指す国
②笑顔で暮らせる国
③綺麗で明るい国
①は南方戦線の撤退、②は経済回復、③は美化活動とインフラ整備となる。
③については不満度ランキング8位の街の中が臭いの解決にもなる。大都市である帝都オルマルクにはスラム街が幾つもある。それらのスラム街には下水道が整備されていない。其の為、スラム街周辺は酷い異臭が漂っているようだ。
政策の目玉は此処の下水道工事だ。新藤君、ナタリアさんの考えでは、
「今の高い税金は基本的には下げない。せっかく前政権が高い税金にしたんだ。下げない方が国の運営的にはいいし、悪いのは前政権って事にしておけば、カトレア皇姫が非難される事は無いだろう」
「高い物価も維持します。高過ぎる物は下げるとしても企業利益として高い物価相場は悪く無いのよね」
「其の上で相場より高い賃金で人を雇いインフラ整備の公共工事を出す。高い物を高く買えるプチバブル経済を作り、スタグフレーションをインフレーションに誘導する。やり過ぎるとバブル崩壊やハイパーインフレが起きるから、注意は必要だが、今の経済より良くなるはずだ」
って事のようだよ???
◆
立候補エントリー迄の3日間はカトレア姫の写真撮影やキャンバスを使ったポスター作りや、選挙馬車製作、オタトリ君、渡辺さん達が描いた漫画の冊子の大量生産等、みんな一丸となって選挙準備に勤しんだ。
◆
カトレア姫は渡辺さん達の漫画に甚く感動していた。此の世界に漫画が無いからってだけではなく、其の訴えかける内容もとても分かりやすかったからだ。
“『アンドレ、貴方は戦地に行ってしまうのですね……』
涙を流す美少女。
『すまないマーガレット、戦地に行ったら俺は生きて帰って来れない』
歯を食いしばる美少年。
『行かないでアンドレ!』
美少女は涙を流しながら美少年を抱きしめる。
『俺だって行きたくない。でも此れは国が決めた事なんだ』
美少年も瞳に涙を溜め美少女を抱きしめる。
其処に謎の女性が現れた。
『お困りのお二人に朗報ですぅ~』
『『朗報?』』
『新皇帝選挙の立候補者のカトレア皇姫殿下は、戦争の無い平和で~、笑顔溢れる~、綺麗な帝国をお創りになる事を、政策の柱に掲げています~。
貴殿方の清き1票が帝国の明るい未来を創ります~。
投票日にはカトレア皇姫殿下に投票しましょう~(ニコ)』
少年と少女は見つめあった。
『マーガレット!』
『アンドレ!』
『『カトレア様に投票しよう!』』
10月18日の投票日。
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