異世界最強の強さを隠すために弱いふりをするのは間違っているだろうか

ちちまる

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君の名は

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アレクと商館のアベルは条件の交渉について対面している。



「さて、貴方の三つの条件について回答いたしましょう」



「まず、一つ目の条件、これは問題ないでしょう。あなたが買取り金貨100枚でこの奴隷を解放することに関して何ら不都合はございません」

「さて、残りの二つの条件に関しては、こちらからも条件を二つ承諾してくださるのなら了承いたしましょう」



簡単に承諾されないのは想定の範囲内だった



「その条件を聞かせてください」



「貴方は本来受け取ることができる残りの金貨50枚を資金調達の猶予の時間として充てているのでしょう。ならばこちらもあなたの譲歩を受け入れて条件を提示させていただきます。

条件の一つとして、こちらが猶予の時間を決めさせていただきます。身の安全を含めての猶予ですと、14日間が待てる最大の猶予ですな。

二つ目は再び買い戻す際の金額が金貨150枚ではないということですな。商売なのですから当然でしょう。そこで、貴方が用意する金貨は300枚とさせていただきます。

仮に貴方が金貨300枚を用意できなくても、取り立てられることはございません。

さて、いかがなさいますかな?」



要するに猫耳少女を返して欲しくば、14日間で金貨300枚を用意しなさいということである。

何もない普通の一般人が真面目に労働しても14日間では到底届かない金額である。

金貨300枚あれば遊んで暮らせるだろうし、貴族でも相当偉い人でないと払えない金額である。

だが、ここで承諾しなければしなければもう、これ以上の良い条件で交渉することは不可能だ。

しかし、僕に金貨300枚を用意することなんてできるのだろうか。

回答できずに沈黙していると、左手に温かい手の平が覆い被さってきた。



「大丈夫ですよ、アレクさん。妹を助けてくださってありがとうございます。私はもう十分です。」

「何を言っているんだ。まだ、君が助かる可能性だってあるんだぞ」



彼女は泣き後を残しながらも笑ってくれている。

「そうですね。アレクさんならきっとできますよ。なんたって私が信じた人なんですから。私、待ってます。だから、承諾してください」



猫耳少女の覚悟にアレクは応えたくなった。

「必ず迎えに行くからな」



アレクにもう迷いはなかった。

「わかりましたその条件で承諾します」

僕は背中を押してくれた彼女のおかげで承諾することができた。



「交渉成立ですな。それではお連れの方を預からせていただきます」



商館の主、アベルは手を叩くと扉から男の従業員一人が猫耳少女を別室に案内するためにやってきた。

猫耳少女は立ち上がり、誘導に従って部屋の出口に向かって歩いて行く。



「待ってくれ!」



アレクの呼び声に猫耳少女と従業員の男の歩みが止まった。



「君の名前を教えてくれないか」



猫耳少女は愛らしい笑顔で笑っている



「もう、今頃、私の名前を聞くんですか。もう少し他人に興味を持ってくださいよアレクさん。

私の名前は『レイン・アーカディア』ですよ」

「ちなみに貴方のことですから妹の名前も伝えておきます。『ソニア・アーカディア』

妹をよろしくお願いしますねアレクさん」



レインと名乗った猫耳少女は再び歩み出し、扉が閉まるにつれて少女の姿が消えていった。



どうして僕の名前を知っていたのだろうか、そのことだけが聞けなかった。

後に聞いたことだが、エリスからもらった短剣にアレクの名前が刻まれているのをレインが見ていたということだったらしい。
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