花火の思い出

星降る砂浜、燃ゆる願い

静寂を切り裂くように、夏の夜空を彩る打上花火が始まった。海辺の町は一年でこの日を最も楽しみにしており、人々はその美しさに心を奪われていた。中でも、大学生の直樹と彼の幼なじみ美咲は、砂浜に座りながら特別な思い出を作っていた。

「美咲、見て、あれ。すごいだろう？」直樹が指差す方向には、巨大な花火が華麗に開いていく。
「うん、きれい…」美咲の目は、打ち上げられる花火から離れない。

美咲は一年前に家族と大きなけんかをしてから、あまり笑わなくなっていた。直樹はそんな彼女を明るくするため、今夜、特別な計画を思いついたのだ。

「実はね、今夜の花火、一つだけ僕が選んだのがあるんだ。美咲のために。」

美咲は驚いて直樹を見た。「え、どういうこと？」

「これから出る花火だよ。待ってて。」直樹の言葉に心躍らせながら、美咲は空を見つめ続ける。そして、約束された花火が打ち上げられる。

それは、暗い夜空に突如現れる金色の光の渦。花火はゆっくりと開き、最高点で炸裂すると、美咲の名前が浮かび上がった。

「美咲、いつも元気がなくて心配だったよ。でも、どんなときもずっと輝いてほしい。だから、この花火を選んだんだ。」直樹はそう言いながら、優しく彼女の手を握った。

美咲の目からは涙がこぼれ、彼女は言葉を失った。しかし、その笑顔が、直樹にとっては何よりの答えだった。

花火がひとしきり終えると、二人は長い間、ただ静かに海を見ていた。夜風が涼しく、星が降り注ぐ中、美咲はようやく声を出した。

「ありがとう、直樹。今夜を忘れないよ。」

直樹は微笑みながら、また手を強く握った。「僕もだよ。ずっと一緒にいようね。」

打上花火の光に照らされた砂浜は、彼らの新たな章の始まりを告げていた。そして、美咲の心にも再び光が戻る一夜となった。