花火の思い出

ちちまる

文字の大きさ
7 / 12

彼岸花の約束

しおりを挟む

一年に一度の夏の終わり、小さな海辺の町では盛大な花火大会が催される。この日は多くの人々が集まり、別れの痛みを忘れさせる光と音の祭典となる。中でも、大学を卒業し、それぞれ異なる道を歩むことになった里奈と陸も、最後の夏をこの花火で締めくくろうとしていた。

「里奈、最後の花火だね。」陸が寂しげに言った。彼はもうすぐ海外での就職が決まり、里奈は地元で教師になる。

「うん、でも忘れないで、陸。どんなに離れていても、この花火を見上げる夜、私たちは一緒にいるんだから。」里奈は強くそう言い、微笑んだ。

二人は海沿いの砂浜に座り、始まる花火を待った。夜空が暗くなるにつれて、期待と不安が交錯する。そして、遠くから聞こえるカウントダウンと共に、最初の花火が打ち上げられた。

花火は彼らの上で華やかに爆ずる。赤、青、黄色といった鮮やかな色が夜空を彩り、その下で二人は手を握り合った。陸は里奈の手が冷えていないかを確かめるように、その手を温めた。

「綺麗だね…」里奈が言うと、陸はうなずいた。しかし、彼の目には少しの寂しさが浮かんでいた。花火の光に照らされながら、陸はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

「里奈、ありがとう。こんなに遠くへ行くことになるけど、君のことは忘れないよ。そして、毎年この花火を見るたびに、君のことを思い出すから。」

里奈は涙をこぼしながら、小さく頷いた。「私も、陸。ここにいるよ。ここで、毎年、陸のことを思っているから。」

花火が最高に美しく輝く瞬間、二人は強く抱きしめ合い、別れの言葉を交わした。夜は更に深まり、花火の終わりとともに、二人の時間も終わりを告げる。砂浜に残された足跡と、冷たい波の音が、これからの孤独を予感させた。

別れの痛みと共に、新たな生活が始まる。しかし、彼岸花のように、二人の心の中で毎年花火の夜は再び彼らを一つにする。それが、彼らが共に過ごした時間、愛した記憶が永遠に消えないことの証だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...