花火の思い出

ちちまる

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星月夜と花火の誓い

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海の見える小高い丘の上、人々が集まる夏の祭り。夜空に輝く星と共に、花火大会が始まることを心待ちにしている若者たち。中でも、長い間付き合ったカップル、健と絵里は、この夜が特別な意味を持っていた。

「絵里、今夜の花火が終わったら、僕たち少し離ればなれになるね。」健は静かに言った。彼は大学卒業後、遠く北の都市での就職が決まっていた。

「うん、でも健、私たちはまたここで会おうね。3年後、同じ日に。」絵里はそう返した。彼女の声は少し震えていたが、決意は固い。

二人は手を繋ぎ、丘を少し下った場所にある自分たちだけの特別なスポットに向かった。ここは初めて出会った場所でもある。夜風が涼しく、海の匂いが心地よい。

「ここだね、最初に来たときから全然変わってないね。」絵里が言う。健は彼女の手を強く握り返し、笑顔を見せた。

夜空に最初の花火が上がる。彼らの頭上で、色とりどりの光が咲き乱れる。美しい景色に心が奪われながらも、健は心の中で複雑な感情が渦巻いているのを感じていた。

「絵里、もしも3年後に…」

「健、心配しないで。」絵里が健の言葉を遮る。「私たち、ここでまた会える。だって、私たちのこころはずっと繋がってるから。」

花火が終わりに近づくと、二人は夜空に光る大きな金色の花火を見上げた。健は絵里の頬にキスをし、そしてゆっくりと口を開いた。

「絵里、ありがとう。今までの日々すべてに。そして、これからもずっと…」

「健、私もありがとう。ここで待ってる。」

花火の光の中で、二人は最後の抱擁を交わし、ゆっくりと離れた。周囲の喧騒が遠く、ただ彼らの小さな世界がそこにある。

そして、3年後の約束の日。絵里は同じ場所に一人で立っていた。彼女の手には、健との思い出が詰まった小さなノート。時間が経つにつれて、周囲の人々が一人また一人と帰り始める。

夜空には再び花火が上がり始め、絵里は静かに涙を流した。しかし、彼女の顔には笑顔が浮かんでいた。彼女は知っていた、健がもうこの世にいないことを。

「健、見てる? 私たちの花火。きれいだよ。」

絵里はノートを開き、その中の一ページに書かれた健の文字をなぞる。それは彼が生前に彼女に宛てた最後の手紙だった。

「絵里へ。もしも僕が先にいなくなったら、このノートを開いてほしい。そして、僕の分まで長い人生を楽しんでほしい。だから、悲しまないで。僕はいつも、君の心の中で生きているから。」

夜は更に深まり、花火はそろそろ終わりを迎えようとしていた。絵里はノートを胸に抱き、静かに語りかけた。

「健、ありがとう。私たちの約束、守ったよ。そしてこれからも、ずっと…」

花火の光が最後に一度大きく輝き、その光の中で絵里は新たな誓いを立てた。健と共に過ごした時間、それらすべてが彼女の力となり、これからの道を照らす光となるのだった。
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