花火の思い出

ちちまる

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線香花火の時を超えて

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小さな港町に夏が訪れると、古くからの風習である線香花火大会が開かれる。その日、町は訪れる観光客や帰省した人々で賑わいを見せるが、中でも高校生の美穂はひっそりと花火を楽しんでいた。美穂にとってこの線香花火大会は、ただのイベントではなく、時間を超える特別な意味を持つ日だった。

「もしも、もう一度だけ…」美穂は線香花火の小さな火がチリチリと音を立てるのを聞きながら、心の中で願った。一年前の今日、彼女は最愛の友人、陽子と一緒に花火を見ていた。しかし、その数日後に陽子は突然この世を去ってしまったのだ。

線香花火の火が静かに揺れる中、美穂の目の前で空間が歪み始める。気がつくと、彼女は一年前の線香花火大会に立っていた。すぐそばで、陽子がにっこりと笑っている。

「美穂、来てたんだね!」陽子の声は明るく、生き生きとしていた。美穂は涙があふれるのを感じながら、うなずいた。

「うん、来たよ。陽子…」美穂はこの一瞬、この時を変えられるかもしれないという淡い希望に心を躍らせた。

二人は線香花火を持ち、一緒に海辺を歩き始める。美穂はこの時を大切にしようと決心していた。陽子との会話、陽子の笑顔、すべてが美穂にとってこの世で最も価値のある宝物だった。

夜が更に深まり、二人は砂浜に座って話を続ける。美穂は陽子に明日の危険を避けるようにと伝えようとするが、言葉にする勇気が出ない。ただ、ひたすらに今を楽しむことに専念した。

「美穂、いつも元気づけてくれてありがとうね。おかげで、すごく幸せだよ」と陽子が言ったとき、美穂の心は一瞬で満たされた。そして、その幸せな瞬間が永遠に続くように願った。

しかし、時は残酷にも流れ、タイムリープした日が終わろうとしていた。美穂は陽子に最後の一言を伝える。

「陽子、大好きだよ。これからもずっと…」言葉を切りながら、美穂は陽子を強く抱きしめた。そして、線香花火の最後の火花が消えると同時に、美穂は現代に戻された。

涙でぼやけた目を拭いながら、美穂は海を見つめる。彼女は陽子と過ごした最後の夜を心に刻み、線香花火が燃え尽きるまでその記憶を静かになぞった。時を超えても変わらない友情と、失われた時間の中で見つけた小さな希望を胸に、美穂は新たな一歩を踏み出す準備をした。
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