9 / 12
線香花火の時を超えて
しおりを挟む小さな港町に夏が訪れると、古くからの風習である線香花火大会が開かれる。その日、町は訪れる観光客や帰省した人々で賑わいを見せるが、中でも高校生の美穂はひっそりと花火を楽しんでいた。美穂にとってこの線香花火大会は、ただのイベントではなく、時間を超える特別な意味を持つ日だった。
「もしも、もう一度だけ…」美穂は線香花火の小さな火がチリチリと音を立てるのを聞きながら、心の中で願った。一年前の今日、彼女は最愛の友人、陽子と一緒に花火を見ていた。しかし、その数日後に陽子は突然この世を去ってしまったのだ。
線香花火の火が静かに揺れる中、美穂の目の前で空間が歪み始める。気がつくと、彼女は一年前の線香花火大会に立っていた。すぐそばで、陽子がにっこりと笑っている。
「美穂、来てたんだね!」陽子の声は明るく、生き生きとしていた。美穂は涙があふれるのを感じながら、うなずいた。
「うん、来たよ。陽子…」美穂はこの一瞬、この時を変えられるかもしれないという淡い希望に心を躍らせた。
二人は線香花火を持ち、一緒に海辺を歩き始める。美穂はこの時を大切にしようと決心していた。陽子との会話、陽子の笑顔、すべてが美穂にとってこの世で最も価値のある宝物だった。
夜が更に深まり、二人は砂浜に座って話を続ける。美穂は陽子に明日の危険を避けるようにと伝えようとするが、言葉にする勇気が出ない。ただ、ひたすらに今を楽しむことに専念した。
「美穂、いつも元気づけてくれてありがとうね。おかげで、すごく幸せだよ」と陽子が言ったとき、美穂の心は一瞬で満たされた。そして、その幸せな瞬間が永遠に続くように願った。
しかし、時は残酷にも流れ、タイムリープした日が終わろうとしていた。美穂は陽子に最後の一言を伝える。
「陽子、大好きだよ。これからもずっと…」言葉を切りながら、美穂は陽子を強く抱きしめた。そして、線香花火の最後の火花が消えると同時に、美穂は現代に戻された。
涙でぼやけた目を拭いながら、美穂は海を見つめる。彼女は陽子と過ごした最後の夜を心に刻み、線香花火が燃え尽きるまでその記憶を静かになぞった。時を超えても変わらない友情と、失われた時間の中で見つけた小さな希望を胸に、美穂は新たな一歩を踏み出す準備をした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる