夏の思い出

ちちまる

文字の大きさ
2 / 11

夏休み

しおりを挟む

夏の風が、やわらかく町を包んでいた。高校二年生の大樹は、放課後の教室でぼんやりと窓の外を眺めていた。彼の目には、夏休みの始まりを告げる陽炎が揺れているように見えた。

「大樹、夏休みの計画はもう決めたの?」

隣の席の詩織が話しかけてくる。彼女はいつも元気で、大樹とは小さい頃からの幼なじみだった。

「うん、まだ何も考えてないんだ。詩織は?」

「私はね、家族で海に行くことになってるの。でもそれは最初の週だけ。あとはずっと暇そう。」

大樹は少し笑って、もう一度外を見た。詩織ともう少し一緒に遊べたらいいなと思ったが、そんなことを直接言う勇気はなかった。

夏休み初日、大樹は家でダラダラと過ごしていたが、ふとしたことから母親の古いアルバムを見つける。その中には、若い頃の母と見知らぬ男性が海辺で写っている写真があった。母にその写真のことを尋ねると、彼女は懐かしそうに語り始めた。

「この人はね、あなたの父さんじゃないけど、とても大切な人だったのよ。夏の終わりに会ったんだけど、その次の夏にはもう会えなくなってしまって…」

母の話は途切れ途切れで、大樹には少し切なく感じられた。それからの日々、大樹はその写真の場所を訪れることを決心する。詩織を誘って、二人でその海辺の町へと向かった。

到着した海辺は、想像していた以上に美しく、大樹は心からその景色に感動した。詩織と一緒に浜辺を歩きながら、大樹は母が感じたであろう切なさや、喜びを少しずつ理解していった。

「大樹、こうして私たちもいつかは写真に残るだけの思い出になるのかな」

詩織のその言葉に、大樹は強く頷いた。そして、彼は突然詩織の手を握りしめた。

「詩織、今のこの時間を大切にしたい」

詩織は少し驚いた後で、優しく笑ってその手を握り返した。夏の日差しの中、二人の影が長く伸びていた。

その夏の終わりまでに、大樹と詩織は何度もその海を訪れることになった。毎回、新しい発見があったし、二人の距離もぐっと縮まっていくのが感じられた。夏休みが終わる頃、大樹はもう一度母のアルバムを開いた。新たに一枚、自分たちの写真を加えることにした。画面の中で、大樹と詩織は幸せそうに笑っている。

「ねえ、来年の夏もまたここに来ようね」

「うん、約束だよ」

二人の約束は、新しい夏の物語の始まりを感じさせるものだった。夏休みの魔法は、彼らの心に深く刻まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。 荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...