夏の思い出

ちちまる

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セミの夏

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夏の空は高く、セミの声が木々に響き渡る。町のはずれにある小さな家で、中学生の遥は夏休みの課題に取り組んでいた。彼の家の庭には古いケヤキの木があり、そこはセミたちの好きな場所だった。

「遥、お母さん、お昼ご飯よ!」

母の声に、遥は鉛筆を置き、一息ついた。彼は部屋の窓から庭を見やる。太陽は容赦なく照りつけ、セミの声がさらに大きくなる。

「もう、うるさいなあ。」

彼は小さく呟いたが、その声には少しだけ愛着も混じっていた。遥にとって、セミの声は夏の始まりを告げる音だったからだ。

食後、遥は自転車で町を走り抜ける。目的地は、幼なじみのあかりが待つ公園。彼女は、いつも夏休みになるとセミの抜け殻を集めるのが趣味だった。

「遥!遅かったじゃん!」

あかりは、見つけた抜け殻を見せながら笑う。遥は苦笑いをしながら、隣に座った。

「どれ、見せてよ。」

あかりから渡された抜け殻は、見事に完全な形をしていた。太陽に照らされて金色に輝いているようだった。

「セミって、一生の大半を地中で過ごして、最後にこんなに綺麗に羽化するんだよね。」

あかりの声はいつもと違い、少し感嘆が混じっていた。

「うん、そして、短い生で最高に生きるんだ。」

遥が答えると、二人はしばらく公園のベンチに座り、ただセミの声を聞いていた。

その夜、遥は部屋で一人、抜け殻に思いを馳せた。彼はふと、自分もセミのように何かを成し遂げたいと強く思った。そして、翌日から、彼はあかりと一緒にセミの研究を始めることにした。

彼らは図書館で本を借り、インターネットで情報を集めた。セミの生態や羽化の過程を学び、またそれを地域の小学生に教えるボランティアも行った。

「セミの命は短いけど、その生きざまはとても美しいんだよ。」

遥が子どもたちにそう説明すると、彼らは一様に目を輝かせた。それを見たあかりは、遥に微笑みかける。

夏休みの終わりが近づいたある日、遥とあかりは再びその公園に行った。木々は青く、セミの声は少しずつ小さくなっていた。

「ねえ、遥。今夏、楽しかった?」

あかりの問いかけに、遥は頷いた。

「うん、すごくね。セミみたいに、一生懸命に生きた夏だった。」

「来年の夏も、また一緒に何かしようね。」

「約束だよ。」

二人は手を繋ぎ、夏の終わりの風を感じながら、これからも続く友情と、次の夏への期待を胸に秘めた。セミの声が、遠くで静かに鳴り続けている。
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