夏の思い出

ちちまる

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宿題の夏

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夏休み、それは学生にとって自由な時間の象徴であるはずが、高校生の悠人にとってはただの宿題の季節だった。彼の部屋の机の上は、参考書とノートで溢れていた。

「今年の夏は、絶対に数学を克服するんだ...」

悠人は独り言を漏らしながら、複雑な数式に向かって再びペンを走らせる。しかし、窓の外からは友達の声が聞こえてくる。彼らは夏の日差しを満喫しているようだった。

「悠人、勉強ばっかりしてないで、少しは外に出たらどうだ?」

母親が心配そうに声をかけるが、悠人は首を振った。

「大丈夫、これが終わったら遊ぶから。」

そんなある日、悠人のもとに幼なじみの千佳が訪ねてきた。彼女は手に大きなスケッチブックを持っていた。

「ねえ悠人、一緒に公園に行こうよ。私、風景を描きたいの。」

「ごめん、今ちょっと...」

悠人が断ろうとすると、千佳は彼の机の上を見て小さくため息をついた。

「いつも宿題ばかりで、夏を楽しむ暇もないんだね。」

しばらくの沈黙の後、千佳は提案した。

「じゃあ、私が数学教えるから、その代わりにちょっとだけ外に出ようよ。」

悠人は驚きながらも、千佳の明るい笑顔に押されて了承した。二人は公園へと向かい、千佳はスケッチをしながら時折、悠人の質問に答える。

公園では子供たちが水遊びをしており、その生き生きとした様子が千佳のスケッチブックに次々と描かれていった。悠人も少しずつ周りの景色に心を奪われ、数学の問題が手につかなくなっていく。

「ねえ悠人、見て、この色。夏って感じがするでしょ?」

千佳が指さしたのは、夕焼けに染まる空と水面だった。悠人は深くうなずいた。

「千佳、ありがとう。ちょっとだけ、勉強のこと忘れられたよ。」

夏の終わりが近づくにつれ、悠人は宿題を一つずつクリアしていった。しかし、最も大切なのは、千佳と過ごした時間から得たものだった。

「夏休みの宿題ってさ、数学だけじゃなくて、こういうのもあるんだね。」

千佳が微笑むと、悠人も笑った。二人は夏の終わりに公園で再び会う約束をした。

「来年の夏は、もっと早く宿題終わらせて、もっといろんなことをしよう。」

「うん、それが宿題だね。」

夏が終わり、新しい学期が始まる。悠人は数学のテストで高得点を取ったが、それ以上に、彼の心に残ったのは千佳との思い出だった。夏休みの本当の宿題は、彼にとってはもう、数学だけではなくなっていた。
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