夏の思い出

ちちまる

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ひぐらしの夏

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ひぐらしの声が遠くで鳴り、その一つ一つが夏の深まりを告げていた。田舎町の古びた木造校舎の一角で、中学二年生の陽一は夏休みの自由研究に取り組んでいる。彼のテーマは「ひぐらしの生態とその鳴き声の秘密」だった。

「ひぐらしはな、夕方になると特によく鳴くんだ。それには理由があってね…」

陽一は村の図書館で見つけた資料を基に、一生懸命にノートにメモを取る。彼の周りには、夏休みを満喫している友達の姿はない。みんな川で泳いだり、山で冒険を楽しんでいる時間だ。

ある日、陽一が研究のために田んぼの近くを歩いていると、幼馴染の美咲に出会った。彼女はカメラを手にしていた。

「陽一、何してるの?」

「ひぐらしの研究中だよ。美咲は?」

「私、夏の風景を写真に撮ってるの。一緒にどう?」

陽一は少し考えてから頷き、二人で田んぼの畦を歩き始めた。美咲は陽一の研究に興味津々で、時々彼の説明を聞きながらシャッターを切る。

「ひぐらしの声って、なんだか不思議だよね。夏の終わりを感じさせる…」

「うん、そうだね。実はひぐらしの声には、いろんな種類があって、それぞれに意味があるんだ。」

陽一は美咲に向かって熱心に説明した。彼の話を聞きながら、美咲はそれを一枚の写真に収めようと試みる。

夕方、二人は小高い丘に登った。そこから見る町は、夕日に照らされて金色に輝いていた。そして、ひぐらしの声が一層強くなる。

「ここからだと、ひぐらしの声がすごくよく聞こえるね。」

美咲が言うと、陽一は深くうなずき、彼女のカメラに向かって微笑んだ。その瞬間、美咲はシャッターを切り、夏の一コマが永遠のものになった。

夏休みが終わりに近づくと、陽一の研究はだいぶ進んでいた。彼は自由研究の発表で、クラスの前に立ち、堂々と話した。

「ひぐらしの声は、夏の終わりを告げる大切なサインです。それぞれの声が持つ意味を理解することで、私たちは自然ともっと近づくことができます。」

発表を聞いたクラスメイトからは拍手が起こり、美咲も嬉しそうに彼を見つめた。

「陽一、すごかったよ。ひぐらしの声、これからはもっと違う耳で聞くことにするね。」

「ありがとう、美咲。この夏、君がいてくれたから、こんなにいい研究ができたんだ。」

夏が終わり、ひぐらしの声も少なくなる中、陽一と美咲の友情は深まっていた。彼らにとって、この夏休みは忘れられない宝物となり、次の夏もまた一緒に何かをすることを約束した。

ひぐらしの声が静かになる夕暮れ時、二人は再びその丘を訪れる。周囲はすっかり秋の気配を漂わせ始めていたが、夏の記憶は、二人の心の中で生き続けている。
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