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灯籠の下で
しおりを挟むお盆の時期が近づくと、晴れ渡った夏空の下でもどこかしら風が涼しく感じられるようになる。青葉町では、毎年恒例のお盆の灯籠流しを行い、それが町の夏の終わりを告げる行事となっていた。
大学生の拓也は、東京での生活を一時離れ、この夏、久しぶりに故郷の青葉町へ帰ってきた。彼が小さな頃から参加していた灯籠流しは、祖父の形見の一つでもある。
「拓也、今年も灯籠流しに来たのか?」
町の中で灯籠を売っている古い友人の隆二に声をかけられながら、拓也は懐かしさに心が温まる。
「ああ、もちろんだよ。これを逃したら夏が終わった気がしないからな。」
拓也は灯籠を一つ手に取り、その繊細な紙の触感を指先で確かめる。灯籠には「安穏」と書かれていた。彼はそれを選び、隆二に会計を済ませた。
夕方になると、町の人々は川辺に集まり始める。家族連れ、若いカップル、老夫婦と、様々な思いを灯籠に託して、一つ一つ川に流していく。
拓也は川辺で、幼なじみの美咲と再会した。彼女もまた、大学で都会の生活を送っている。
「拓也、久しぶり!お盆に帰って来てたんだね。」
「うん、お前もか。灯籠流し、一緒にやろうよ。」
二人は川辺に腰を下ろし、手持ちの灯籠に小さなろうそくを灯した。灯籠がゆっくりと流れていくのを見ながら、二人は昔話に花を咲かせた。
「美咲、覚えてる?小さい頃、この川でよく遊んだよな。」
「ええ、あの頃は毎日が冒険だった。都会の喧騒を忘れさせるね。」
拓也と美咲の灯籠が次々と水面を漂っていく。川は静かに、そして確実にそれらを下流へと導いていった。
夜が更けていくにつれ、川面に映る灯籠の光が増え、それが星のように輝き始める。町の灯りが少ないこの場所では、灯籠の光が特に鮮やかに感じられた。
「美咲、お盆っていいよな。こんな風に、誰かを思いながら静かに過ごす時間が持てる。」
「そうね。毎年、この時期になると、何か特別な気持ちになる。」
二人はしばらく無言で、流れていく灯籠を眺め続けた。それぞれの灯籠が、それぞれの思い出と共に静かに流れていく。
お盆の夜は更けていき、やがて人々の姿も少なくなっていった。拓也と美咲だけが、少しだけ長くその場に留まり、過ぎ去った夏を惜しんだ。
「来年も、また一緒に灯籠流ししよう。」
美咲の言葉に、拓也は優しく笑みを返した。
「約束だ。」
お盆の夜は終わり、二人は静かにその場を後にした。川は静かに流れ続け、ひぐらしの声が遠くで鳴り響く。夏の終わりの一幕が、また一つ、彼らの心に刻まれた。
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