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氷解する心の鍵
しおりを挟む春の訪れを告げる桜の花が、街をピンク色に染め上げる頃。清水大和は、高校2年生になって初めての日を迎えていた。彼にとっての高校生活は、これまでと変わらないものだった。勉強、家事、そしてたまには友人と過ごす時間。しかし、この春から彼の日常に少しずつ変化が訪れようとしていた。
ある日、彼は図書室でひとりの少女に出会う。名前は椿 美雪。彼女はクラスメイトでありながら、大和がこれまで話したことのない、謎に包まれた存在だった。美雪はいつも一人で本を読んでおり、他の生徒たちと交流することはほとんどなかった。しかし、彼女の冷たい外見とは裏腹に、大和は美雪が時折見せる優しい表情に惹かれていく。
大和は美雪に声をかける勇気を出し、彼女の隣に座ることに成功する。しかし、美雪の反応は予想外だった。
「何? 私に何か用?」美雪の声は鋭く、大和を突き放すようだった。
しかし大和は諦めず、毎日のように美雪に話しかけ続けた。徐々に美雪も大和の真摯な態度に心を開き始める。彼女が冷たく突き放す言葉の裏に隠された真意を、大和は少しずつ理解し始めていた。
「別に、あなたのことなんか...」美雪が言葉を濁すたび、大和は彼女の心の壁が少しずつ薄れていくのを感じた。
ある日、大和が美雪を家まで送ることになった。道中、彼女は自分の家族について、そしてなぜ人を遠ざけがちになったのかを話し始める。美雪の家は厳しく、感情を表に出すことを良しとしない家庭だった。そんな環境で育った彼女は、自分の感情を素直に表現することが苦手になっていた。
「でも、あなたといると...少し、楽になれるの。」美雪が照れくさそうに言葉を紡ぐと、大和の心は温かいもので満たされた。
季節は移り変わり、二人は互いに心を開いていく。美雪は大和に対して素直になれる唯一の存在となり、大和は美雪の心の支えとなる。二人の間には、互いを思いやる深い絆が芽生えていた。
最終的に、美雪は大和に対して自分の本当の感情を打ち明ける。
「実はね、大和くんのことが...好きなの。今までありがとう、これからもよろしくね。」
その言葉に、大和は優しく微笑みながら答える。
「美雪、俺もだよ。これからも、一緒にいよう。」
冷たい外壁を持つツンデレキャラクター、椿 美雪と、彼女の心の鍵を解き放つ清水大和。二人の関係は、春の訪れと共に始まり、互いの心を解きほぐしていった。彼らの物語は、氷解する心の鍵とともに、暖かい春へと導かれていくのだった。
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