薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第二章

遊女の恋(茜凛)(3)

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 久乃は、鮫島祥吾と良弥に急いで連絡を入れて、平太の処置にあたった。平太の熱は1時間すると引いたが、鈍痛はなかなか治らなかった。奥の簡易のベッドに寝て紅玉が一人で帰ったから茜凛が心配して余計なことを考えなければいいのにと思っていた。
 祥吾が診療所にやって来て平太の血液検査と彼の症状を診て、遅れて着いた良弥と久乃と平太に向かって血液検査の結果を見せながら、診断所見を述べた。
「後天的バース変異症候群α型と診断します」
 祥吾は何の感慨もなく言った。久乃はわかっていたようだった。良弥は納得した顔で平太を見ていた。
「後天的バース変異症候群α型? って何ですか?」
 当人の平太は思ってもいなかったことを言われて、驚いて大声を上げた。久乃は自分の仕事はここまでと言うように他の患者を診るために部屋から出て行った。
「元々、平太さんは、βでもαに近い遺伝子を持っていたと思われます」
 祥吾は、冷静に医者らしく見解をのべる。
「親父もお袋もβですけど」
 平太は、力なく声を溢す。
『バースの変化を言われて喜ぶ者はいない。Ωになりましたと言われるよりはαになりましたの方が動揺は少ないがαになったからと言って金持ちになれる訳はなく、頭が飛躍的によくなって仕事ができる訳でもないだから戸惑うのだ。特にβの人間は普通が良いと思って生活して幸せを感じている。中にはそれを打破して上を目指す者もいるし元々頭の良いβもいる。程々の人生に満足しているのだ。だから、βの人間程他のバースになるのを拒否する。過度に期待される事が苦手だ』祥吾は思いながら平太に説明する。
「バースを判断する場合、基準数値があります。αとβの間βとΩの間にそれぞれαほどΩほど数値は高くないが相対的にβ寄りだからβだとバースを決定します。そのあやふやな部分にいる人々は多いですが、殆どバースの変異を起こしません。しかし、人間の生活にはバースを揺るがす様々な要因があると考えられます。βでαよりの人ならΩとの接触が原因かもしれない、決定的な原因がわかっていません。
 特に後天的バース変異症候群α型自体まだ全世界で何例も報告されてはいません。海外で10数例、日本では未だ報告例は数例です。平太さんの生活の基盤がΩの多くいる所だった為にαの因子が高くなり、変化したと考えれます。考えれると言うのは簡単だけど決定的ではない。そんなものを発表したら、世の中は混乱してβの中には自分もαに慣れると思ってΩをハーレムのように囲う者が出るやもしれないので簡単に発表はできません。そのために子供時の検査不備と言う形で国が承認して、バースの変更をしている状況です」
「それじゃ、俺はαですか?」
 平太は力なく聞き返す。
「今のところ、これから先に変異するかは未知です」
「はぁー、どうなるんだ」
 平太は、下を向く。αになって良かったのか悪かったのか何も見出せなく、茜凛の笑顔しか頭に浮かばない。
「そうなれば、平太には『藤ノ井』を辞めてもらうしかない」
 良弥は、黙って祥吾と平太の話を聞いて、おもむろに平太に告げた。良弥はこの優秀すぎるβを前から外に出すことを考えて動いてきた。
「へっ、なんでですか? そんな事は俺、無理です」
 平太はあまりの急な良弥の話に付いていけなかった。
「『藤ノ井』は、Ωの男達を取り扱う妓楼だ、そして、この国のαでも優秀な者が集まる。αは、ヒエラルキーを気にする人間が多い。そんな中にひよっこのおまえがΩの周りをうろちょろしているのを許す訳がない。あそこにα用の抑制剤を持って入る者は、俺ぐらいだ。その効能も不確かで、金額は馬鹿みたいに高い。俺は未だ番がいない。だから、無闇にΩには触れない。Ωの発情期を売り買いしている者としてはそんな事では仕事にならない。だから支配人には他のαを制せる田阪と村雨にお願いし、俺は仕事で外せない時に薬を飲んで『藤ノ井』に行く。そして自分の部屋に篭もって妓楼の仕事をする。直接に遊女とは会わない2人っきりにもならない。だから、遊女達が起きる前に妓楼から別の仕事に行く。たまたま俺が二足の草鞋を履いていたから朝から夜まで妓楼に居なくとも不自然に思われていない」
 良弥は平太に『藤ノ井』を出ないといけない理由を言い連ねてた。ことさら最もらしく言って彼を『藤ノ井』から速やかに出て行けるように導いていく。祥吾は何も言わずに良弥の話をおもしろそうに聞いていた。
「それなら、俺はどうしたら良いんですか? αだからと言っても何の学も無いのに……、あぁ……」
 平太は頭の中には茜凛しか浮かばない。祥吾は平太がしっかり良弥にコントロールされて事を見てにやりと悪人の良弥を見た。
「心配なんてしなくても仕事は大丈夫だよ、君を前から欲しいと言っておられる方がいる」
 良弥は、前々からの計画通り、優秀な平太を外に出して茜凛のために働ける男にしようと思っていた。茜凛の事でぐずぐず言う平太と平太に依存して道を踏み外そうとする茜凛を説得する上で、今回のα変異は良弥にとって嘘などつかずに事実を話せば良いだけである。
「へぇ」
 平太は良弥の話を信じられないことを聞かされているような気分になった。
「お前は、茜凛が、好きだよな。朝早い時間に茜凛の部屋から出てきたところを見たことがあるんだが…。いろんな事を言って我が儘にお前を茜凛がせがんで呼ぶのだろうと思っていた。それで、誰か君を養子か部下として使ってもらえる人を探していたんだ」
 良弥は平太を厳しく指導してくれる人間を探していた。できれば海外の大学で学ばせて上手くいけばスキップさせようとも考えていた。それら全てを理解できる人に平太を預けようともう随分と前から探していた。
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