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第三章
瑞葵の事情(1)
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久乃の携帯電話が鳴って、出ると久乃が可愛いがっている孫の嫁からだった。
「おばあさま、今日は私が診療所に行きます」
「大丈夫、整理したい物があるから今日も泊まるから、靖子にはあなたから言っておいて、あなたは子供の世話に専念して、身体を大事にしてね」
「わかりました。重い物の移動なんてなさらないでくださいね」
「はいはい、それじゃね」
久乃は、孫の嫁からの電話を切る。
今日も、急患はいないだろう。冬は急な発熱で訪れる人もいるが、この頃は診療所よりも本院の救急外来の方に行く人が多い。
昼食後にお昼寝したので、気分も晴れている。再び浮世草子を読み始めるとそこに挟まれていたのは、古新聞に載る小説のプロローグの切り抜きだった。
久乃は、読み直してこれが騒動の初まりで有り、今でも読み継がれているミステリー小説の初まりで、この後は坂を転がるように変わっていった。新人作家のミステリー小説が全国紙の朝刊に載るのは異例中の異例だった。じわじわと評判を得て人々に読まれ出して行く。それも新人作家の策略だったと久乃は思うが、その裏で久乃は友人をひとり亡くした。久乃は女学校時代からの友人の笑顔を思い出す。
妓楼『藤ノ井』の松の位の瑞葵の本名は殆ど知られていなかった。月一回の定期検診には本名が藤井葵と書いていた。良弥は遠縁の息子だと説明はしていた。誰もがそれを信じていた。ただ、紅玉は瑞葵の持つオーラが、一般とは違い相当良い家の出身ではないかと思っていた。それを言わないのも遊女の美徳だと思っていた。瑞葵は松の位にふさわしい程上に立つ貴賓があり、品格があった。紅玉や茜凛などの後輩遊女の憧れであった。
瑞葵の本名は烏丸保津巳と言う。烏丸家は古くからの貴族で旧伯爵家の一つであった。旧家出身の彼の父親烏丸保高は、資産家で代々弁護士をしていた。彼の母親烏丸珠子も古くからの薬問屋の娘で、烏丸家は裕福な暮らしをしていた。両親共に贅沢をするタイプではなかったので生活は、普通の家庭並みだった。
保津巳は、Ω専門の中高一貫校に入学していた。明朗快活で背もΩにしては高く王子様と言われて学校にもファンがいた。髪は緩くパーマがかかっていてブラウン髪は日に当たると金色に光る。目鼻口のバランスも大きさもいいので、学校でも有名人だった。彼の姉烏丸保奈美も可愛らしい人で彼と一緒に街を歩くと大手のプロダクションからスカウトされたこともあった。姉弟は芸能界には全く興味が無く、姉は相思相愛の彼との結婚を待ち焦がれていたし、保津巳もミステリー作家になりたいと思っていた。
保津巳の発情期は遅くて、高校に上がる前に学校からの帰り道端で急な発情を兆し横を歩いていた医大生の鮫島祥吾にもたれかかる。彼は、αだった。香しい百合の匂いにクラクラしたが、自分の足に緊急抑制剤α用を突き刺してそのまま近くのホテルに連れ込んだ。鮫島祥吾は鮫島製薬の御曹司で、バースの研究者だったので抑制剤を持っていた。それでも彼の匂いに半身も反りたつ、このΩが初発情で有り、自分のΩだと確信するが、それでも知性を失いたくない。何故なら、Ω産婦人科医の彼は衝動で繋がり破綻した夫夫を沢山知っていた。だが、抑制剤より発情に効くのはαの精子で有り自分のΩなら効果はある。祥吾は自分の主義に反して自分のΩと繋がることを決めた。
「君の名前は教えて」
「……あー……か、烏丸、保津巳」
「保津巳君だね、抑制剤を飲ませたけど、すぐには効かない、だから、僕の精子を君に注いでちゃんと避妊薬も飲ませるから心配しないで身を任せてくれる?」
保津巳は、もう首を縦に振るしかできなかった。祥吾は、ようやく効き始めた自分の抑制剤によって理性を失わずに殊更丁寧に保津巳を抱いた。
途中保津巳も抑制剤が効き出したが、初めてのことで途中気を失った。
祥吾は、保津巳の身体を清めてバスローブを着せる。そして避妊薬を奥歯で噛んで口移しで水と共に飲ませる。そして、保津の携帯電話から親の携帯にここの場所等を送って、自分のΩに機会があれば絶対会えるからと言って口付けをして部屋から出て行った。
美しい自分のΩの事は祥吾の胸にいつまでも残っていく。
発情期は収まり、気を失った保津巳が、両親に見つけられたのは祥吾がホテルを出て30分後だった。その時には彼の姿はなく潮騒の匂いが残っていた。身体も清められていた事を関心した両親も祥吾の事を探したが、ホテルのカードには烏丸保津巳の名前しかなく、助けてくれた彼の名前はわからなかった。
祥吾が何故姿をくらました理由は、保津巳が旧華族の出自であるために同じく旧華族出身の祥吾には身を隠してイギリスの大学に行くために転々と居場所を変えていたのを旧華族のネットワークで祖父に知られたくなかった。保津巳と出会って2日後に渡英して、その後5年イギリスで研究者として成果がでる迄日本には帰国しなかった。
「おばあさま、今日は私が診療所に行きます」
「大丈夫、整理したい物があるから今日も泊まるから、靖子にはあなたから言っておいて、あなたは子供の世話に専念して、身体を大事にしてね」
「わかりました。重い物の移動なんてなさらないでくださいね」
「はいはい、それじゃね」
久乃は、孫の嫁からの電話を切る。
今日も、急患はいないだろう。冬は急な発熱で訪れる人もいるが、この頃は診療所よりも本院の救急外来の方に行く人が多い。
昼食後にお昼寝したので、気分も晴れている。再び浮世草子を読み始めるとそこに挟まれていたのは、古新聞に載る小説のプロローグの切り抜きだった。
久乃は、読み直してこれが騒動の初まりで有り、今でも読み継がれているミステリー小説の初まりで、この後は坂を転がるように変わっていった。新人作家のミステリー小説が全国紙の朝刊に載るのは異例中の異例だった。じわじわと評判を得て人々に読まれ出して行く。それも新人作家の策略だったと久乃は思うが、その裏で久乃は友人をひとり亡くした。久乃は女学校時代からの友人の笑顔を思い出す。
妓楼『藤ノ井』の松の位の瑞葵の本名は殆ど知られていなかった。月一回の定期検診には本名が藤井葵と書いていた。良弥は遠縁の息子だと説明はしていた。誰もがそれを信じていた。ただ、紅玉は瑞葵の持つオーラが、一般とは違い相当良い家の出身ではないかと思っていた。それを言わないのも遊女の美徳だと思っていた。瑞葵は松の位にふさわしい程上に立つ貴賓があり、品格があった。紅玉や茜凛などの後輩遊女の憧れであった。
瑞葵の本名は烏丸保津巳と言う。烏丸家は古くからの貴族で旧伯爵家の一つであった。旧家出身の彼の父親烏丸保高は、資産家で代々弁護士をしていた。彼の母親烏丸珠子も古くからの薬問屋の娘で、烏丸家は裕福な暮らしをしていた。両親共に贅沢をするタイプではなかったので生活は、普通の家庭並みだった。
保津巳は、Ω専門の中高一貫校に入学していた。明朗快活で背もΩにしては高く王子様と言われて学校にもファンがいた。髪は緩くパーマがかかっていてブラウン髪は日に当たると金色に光る。目鼻口のバランスも大きさもいいので、学校でも有名人だった。彼の姉烏丸保奈美も可愛らしい人で彼と一緒に街を歩くと大手のプロダクションからスカウトされたこともあった。姉弟は芸能界には全く興味が無く、姉は相思相愛の彼との結婚を待ち焦がれていたし、保津巳もミステリー作家になりたいと思っていた。
保津巳の発情期は遅くて、高校に上がる前に学校からの帰り道端で急な発情を兆し横を歩いていた医大生の鮫島祥吾にもたれかかる。彼は、αだった。香しい百合の匂いにクラクラしたが、自分の足に緊急抑制剤α用を突き刺してそのまま近くのホテルに連れ込んだ。鮫島祥吾は鮫島製薬の御曹司で、バースの研究者だったので抑制剤を持っていた。それでも彼の匂いに半身も反りたつ、このΩが初発情で有り、自分のΩだと確信するが、それでも知性を失いたくない。何故なら、Ω産婦人科医の彼は衝動で繋がり破綻した夫夫を沢山知っていた。だが、抑制剤より発情に効くのはαの精子で有り自分のΩなら効果はある。祥吾は自分の主義に反して自分のΩと繋がることを決めた。
「君の名前は教えて」
「……あー……か、烏丸、保津巳」
「保津巳君だね、抑制剤を飲ませたけど、すぐには効かない、だから、僕の精子を君に注いでちゃんと避妊薬も飲ませるから心配しないで身を任せてくれる?」
保津巳は、もう首を縦に振るしかできなかった。祥吾は、ようやく効き始めた自分の抑制剤によって理性を失わずに殊更丁寧に保津巳を抱いた。
途中保津巳も抑制剤が効き出したが、初めてのことで途中気を失った。
祥吾は、保津巳の身体を清めてバスローブを着せる。そして避妊薬を奥歯で噛んで口移しで水と共に飲ませる。そして、保津の携帯電話から親の携帯にここの場所等を送って、自分のΩに機会があれば絶対会えるからと言って口付けをして部屋から出て行った。
美しい自分のΩの事は祥吾の胸にいつまでも残っていく。
発情期は収まり、気を失った保津巳が、両親に見つけられたのは祥吾がホテルを出て30分後だった。その時には彼の姿はなく潮騒の匂いが残っていた。身体も清められていた事を関心した両親も祥吾の事を探したが、ホテルのカードには烏丸保津巳の名前しかなく、助けてくれた彼の名前はわからなかった。
祥吾が何故姿をくらました理由は、保津巳が旧華族の出自であるために同じく旧華族出身の祥吾には身を隠してイギリスの大学に行くために転々と居場所を変えていたのを旧華族のネットワークで祖父に知られたくなかった。保津巳と出会って2日後に渡英して、その後5年イギリスで研究者として成果がでる迄日本には帰国しなかった。
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